軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話 呪鏡の成果

《歪界の呪鏡》でのレベリングを再開してから、一週間が経過した。

ポメラは宿の壁を背に、ぐったりと座り込んでいる。

彼女の周囲には、《神の血エーテル》の入っていた空き瓶が転がっていた。

「お腹、たぽたぽです……。カナタしゃん、もう飲めません……」

「でも魔法を使って魔力を消耗した後は、限界まで飲んでおいた方が効率がいいですよ。魔力の回復で修行を詰め込めるのは勿論ですが、魔法の感覚を研ぎ澄ませて、練度を引き上げてくれますから」

《神の血エーテル》はこの効果が本当に大きい。

「本当にポメラ、強くなれているんでしょうか……。もう何回悪魔に殺されかけたかわかりませんが、未だに一矢報いられた感覚が一切ありません」

「それは間違いありませんよ。今日で、ポメラさんのレベルが1032になりましたから」

「レベルが上がっていることはわかるんですが……」

ポメラはそこまで口にしてから、目を見開いた。

「レッ、レベル、1032ですか!? そっ、そんなに高いレベルって、有り得るんですか?」

「有り得るも何も、ポメラさんのレベルですよ……? そんなに気になるなら、《レベル石板》でも使いますか?」

《歪界の呪鏡》の悪魔のレベルは3000ラインである。

ここを超えると段々と上昇幅が少なくなっていくが、この付近までは短期で一気に上げることができる。

「う、疑ってるわけじゃないですけれど……せ、千って、どれくらいなんですか?」

「比較対象があまりいないので」

俺が今まで見た中だと、蜘蛛の魔王であるマザーが千くらいだったか。

後はロヴィスの五倍くらいだ。

因みに平常時のフィリアは千八百だったのだが、《歪界の呪鏡》の修行を経て、現在二千九百まで跳ね上がっている。

フィリアは《夢の砂》のとんでもパワーもあるので、今の彼女が本気になったら俺では危ないかもしれない。

「レベルアップを実感できる、丁度いい敵がいるといいんですけどね。レベル500くらいの」

「レベル500が、丁度いい……? あの、カナタさん、レベル500の魔王は、王国全土が大混乱に陥る規模ですよ……? なんだか実感が湧きません……。こ、これ以上、レベルを上げる必要ってあるんでしょうか?」

アリスの言っていたことが正しければ、俺の敵はこの世界の支配者であるナイアロトプだ。

いくらレベルを上げても安心できる相手ではない。

……と、いうより、レベルだけ上げてどうにかなるとは思えない。

ナイアロトプ相手でも通用し得るという、何らかの裏付けのある力が欲しい。

たとえば、アリスの口にしていた『バグ』だ。

転移者固有の《 神の祝福(ギフトスキル) 》への調整不足が問題でとんでもない強者が誕生することを、上位存在達はそう呼んで忌み嫌っているという話だった。

そういった力がこの世界に眠っているのなら、ナイアロトプ達に対する牽制となるかもしれない。

そのことについてルナエールにも相談したいと思っている。

ただ、俺はここ一週間で街を歩いてルナエールを捜していたのだが、彼女を見つけることはできなかった。

「とりあえず、三千までは……」

「とりあえず三千!? ポメラ、とりあえずでとんでもない領域に飛び込もうとしてませんか!?」

ポメラが大きく目を見開く。

「ただ、《九命猫の霊薬》があまりないんですよね。ポメラさんには、レベル上げより白魔法の勉強を進めてもらった方がいいかもしれません」

ポメラの扱える白魔法の階位が上がり、練度が上がれば、《九命猫の霊薬》の節約にも繋がる。

「それに《神の血エーテル》もストックがなくなって来たので、またちょっとガネットさんに相談しようと思います」

前に渡した《精霊樹の雫》は、値崩れが生じないようにゆっくり捌いてもらっている。

この一週間でまた一部が金銭に変わっているはずだ。

またその金銭を《神の血エーテル》の材料費にでも充ててもらおう。

「気分転換がてらに、何か依頼を受けてみるのもいいかもしれませんね。最近、冒険者ギルドの方に出向いていないので、また何か変わったことが起きているかもしれませんし……」

そのとき、扉をノックする音が聞こえてきた。

俺はポメラ、フィリアと顔を見合わせてから、立ち上がった。

「俺が出ます」

扉を開けると、ガネットが立っていた。

「コトネ殿の許へ、共に謝罪に向かったとき以来ですな、カナタ殿。あの時は、ご迷惑をお掛けしました」

ガネットは苦笑いを浮かべ、そう口にした。

「ガネットさん……」

忙しい人なので、直接向こうから宿に出向いてくるとは思っていなかった。

用事があっても、使いの者を送ってくることが多いのだが。

本人が来るということは、余程大事な要件があるのかもしれない。

「実は、ポメラ殿に依頼したいことがありましてな……」

ガネットがそう切り出した。

やはり、そういう話だったらしい。

ガネットは薄々俺の方がレベルが高いと察している節があるが、素知らぬ振りをして、まずはポメラの方へと話を振ってくる。

ガネット相手にもう誤魔化さなくてもいいかとは思っているのだが、気を遣ってくれているようなのでこちらからも切り出しにくく、何となく現在の形に落ち着いている。

俺が半歩退くと、ポメラが前に出た。

「あの、お話っていうのは……」

「……実は、ここ二日ほど、マナラークの気候が妙なことになっておるのです」

「気候……?」

「はい。そう極端なわけではないのですが、明らかに平時ではあり得ない気温の上下がありましてな。過去の記録と照らし合わせて考えた結果、二体の邪竜が、数十年振りにこの地方へ接近している証ではないかという話になっておるのです」

接近しただけで、気候を狂わせる……。

そんなとんでもない化け物が、この世界には存在するのか。

「《炎獄竜ディーテ》と《氷獄竜トロメア》……。この二体の片割れ、もしくは双方が同時に動いているのではないか、と。どちらも、通り掛かっただけの都市一つを遊びで滅ぼしてしまうような、そんな恐ろしい邪竜なのです」

俺はその話を聞き、息を呑んだ。

ナイアロトプのような上位存在が裏で引っ掻き回しているためか、この世界は厄介ごとが絶えないらしい。

この世界の権力者は、都市と民がそれらに巻き込まれないよう立ち回らなければならない。

前々からガネットは優秀な人間だと思っていたが、ここまできっと並大抵ではない苦難があったのだろう。

「考えすぎならばよいのですが、万が一ということがあります。A級冒険者以上の方々に声を掛け、都市周辺の調査に当たってもらうようお願いしておるのです。もし二体の邪竜が本当に動いているのならば、その進路を一刻も早く知らねばなりません」

ポメラがちらりと俺を見る。

俺は彼女へと頷いた。

「わかりました、ガネットさん。その調査、引き受けます」