軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十五話 《アダマント鉱石》

《 魔銀(ミスリル) の杖》にて無事に目的であった《アダマント鉱石》の材料となり得るアイテムを集めることに成功した俺は、その日の晩、早速宿屋の一室にて錬金実験に勤しんでいた。

床に各種アイテムや大釜を並べ、《翡翠竜の瞳》をベースにどうにか《アダマント鉱石》に近いアイテムが造れないかと苦心していたのだ。

大釜の前には、《恐怖神ゾロフィリア》の仮面を可愛らしくデフォルメしたようなものが置いてある。

これはフィリアが《夢の砂》で造ってくれたものである。

《夢の砂》は万物を生み出す可能性を秘めた、錬金術の究極の触媒である。

この仮面は、フィリアが《夢の砂》の力を存分に発揮できるように調整してくれたものである。

今やっていることを簡単に説明すれば、《夢の砂》から発せられる魔力の影響下で錬金術を行うことで、その結果の変化を促進させる、といったものである。

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【夢王の仮面】《価値:神話級》

夢の世界を支配する、仮想上の神を模した仮面。

この《夢王の仮面》はやや可愛らしくデフォルメされている。

《夢の砂》の力を完全に制御することによってのみ造り出すことができる。

《夢の砂》が本来持つ無差別に願いを叶える危険な力に、方向性を与えたものである。

あらゆる錬金術に対して、その変化を大きく補佐するように魔力を発する。

世界中の錬金術師が、何を犠牲にしてでも手に入れようとするであろうアイテム。

五千年前の錬金術師が《恐怖神ゾロフィリア》を造り出した際に《夢王の仮面》を二枚用意したが、後に歴史に度々姿を現してはどちらも戦争の火種になり続けた。

現在、世界に何故か三枚存在する。

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《アカシアの記憶書》では、このような物騒な説明が出てきた。

どうやら《夢の砂》の無差別な力を、錬金術の補佐という一点に特化させたものであるようだ。

俺はドヤ顔で床に寝そべるフィリアへとちらりと目をやった。

「ね、ね! カナタ! フィリア、役に立った? 役に立った?」

「あ、ああ、うん。凄く役に立っているよ。ありがとう、フィリアちゃん」

……これは使い終わったら、ちゃんとフィリアに処分してもらって二枚に戻そう。

その辺に忘れでもしたら、それが発端となってこのマナラークが戦火に包まれかねない。

錬金術によって物質の性質を変化させるのには、その変化のきっかけと同時に、その垣根を超えさせるための膨大なエネルギーが必要となるのだ。

ベースとなるアイテムと、その変化のきっかけを作るアイテム、そしてエネルギーの不足を補うアイテムが、大まかな材料の内訳となる。

術者本人の魔力そのものが変化のきっかけを作ったり、エネルギーの不足を補ったりもできる。

どの割合まで自身の魔力で補えるかは、本人の錬金術への理解と技量に比例する。

《夢王の仮面》は、そこに二段階ほどゲタを履かせることができるのだ。

本来実現不可能であるような無茶な錬金術でも、強引に可能にしてしまえる。

錬金術師からしてみれば、夢のアイテムだろう。

「カ、カナタさん、本当にこれ、《アダマント鉱石》になるんですか……? 《アダマント鉱石》の剣っていったら、この国でも一本や二本しか存在していない、最高級品ですよ」

「う〜ん……値段でいうと、どれくらいになるんですか?」

あんまりそういうスケールで話されても、あまりピンとこない。

《 魔銀(ミスリル) の杖》では、B級アイテムの《翡翠竜の瞳》が五百万ゴールド以上の価値があるという話であった。

S級アイテムの《アダマント鉱石》の剣であれば、もしや二千万ゴールドくらいにはなってしまうのではなかろうか?

もし完成しても、なかなか売り捌けそうにないのが惜しいところだ。

「た、多分……武器とかまともに造れるくらい大きな塊があれば、数億ゴールドくらいでも買い手はつくと思いますよ」

「そんなですか!? たかだかS級アイテムなのに!?」

「た、たかだかって……S級アイテムをなんだと思っているのですか、カナタさんは」

ポメラが呆れ顔で俺を見る。

そこまでだとは思っていなかった。

アイテムの階級はS級、伝説級、神話級と続く。

《 地獄の穴(コキュートス) 》でのルナエールとの暮らしの中で、随分と俺の価値観がけったいなことになっていたらしい。

あそこはS級アイテムがゴロゴロ転がっていたし、ルナエールが身につけているのは神話級アイテムばかりだった。

彼女が俺の地上デビューのお土産にと気前よくくれたものも、そのほとんどが神話級アイテムである。

地上に出てからこれまでの生活で、それなりに価値観を矯正できてきたつもりであったが、まだまだ足りなかったようだということを思い知らされた。

ひ、ひょっとして、《神の血エーテル》一杯が地上では数十億ゴールド相応だったのか……?

いや、既にもう価値を金銭で表すことが馬鹿げている領域なのかもしれないが、もしかしたら数百億ゴールド相当くらいだったのかもしれない。

俺の修行に小国の国家予算レベルの額が投入されていた可能性が高い。

次ルナエールに会ったときに、一体どんな顔で感謝すればいいのだろうか。

「……カナタさん、大釜、なんだか紫の煙出てますけど……止めた方がよくないですか?」

「え……? ああっ!?」

ポメラの言葉に気を取られすぎていた。

大窯からヤバい色の煙が辺りに広がろうとしていた。

よく見れば、《翡翠竜の瞳》の欠片を浸していた液体が気化しきって空になっていた。

い、いつの間にか、液体の全てが錬金反応しきっていたというのか!?

こんなはずではなかったのに!

恐らく《夢王の仮面》によって、俺の想定を超えた過剰な錬金反応が起こったらしい。

仮に全て錬金反応しきっていたのだとしたら、全てのエネルギーが《翡翠竜の瞳》に集まったことになる。

そんなもの、こんな欠片が受け止め切れるわけがない。

《翡翠竜の瞳》の欠片が、謎の眩いほどの光を放ち始めていた。

俺は慌てて《英雄剣ギルガメッシュ》を向ける。

「結界魔法第五階位《 魔力の盾(フォースシールド) 》!」

光の壁が大釜を包み込む。

次の瞬間、《 魔力の盾(フォースシールド) 》が内側から何十発と殴られたようにボコッ、ボコッと膨張し始めた。

結界魔法はあまり得意でないのだ。

適性のあった炎魔法や、ルナエールが使いこなしていて格好良かった時空魔法、戦闘以外に使い道の多そうな土魔法や錬金術にばかり目が向いていたせいだ。

俺は必死に魔力を送り、《 魔力の盾(フォースシールド) 》で抑え込もうとした。

「だ、大丈夫なんでしょうか、カナタさん?」

ポメラが心配そうに尋ねてくる。

「……この部屋吹き飛んだら、弁償ってどのくらいになると思いますか?」

「やめてください! そんなこと考えないでください!」

ポオオオンと奇怪な音が響き、結界の変形が止まった。

俺は《英雄剣ギルガメッシュ》を降した。

「よかった……あれ、これは……?」

大釜に残る《翡翠竜の瞳》の欠片が、独特な紫色の光を帯びていた。

俺は魔法袋より《アカシアの記憶書》を取り出し、ページを捲った。

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【アダマント鉱石】《価値:S級》

紫色の輝きを帯びた鉱石。

人の世に存在する中で、最も硬い物質だと言われている。

あらゆる魔法に対してへの高い耐性を持つ。

地中深く、地脈の魔力の強い部分で夥しい年月をかけて生成されるという。

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「で、出た!」

《アカシアの記憶書》を捲って《アダマント鉱石》のページが出たということは、少なくとも《アカシアの記憶書》にはこれが《アダマント鉱石》であることが保証された、ということになる。

錬金実験は成功したのだ。

これで後は《精霊樹の滴》さえ手に入れれば、呪鏡で悪魔を狩り続けるだけで《神の血エーテル》の素材が揃う。

「ほ、本当に、成功したんですか……?」

ポメラが俺の肩から、ひょいと《アカシアの記憶書》のページを覗く。

「すごいっ! カナタすごいっ!」

フィリアがぴょんぴょんと跳んで、俺の成功を祝ってくれた。

「残りの《翡翠竜の瞳》も、全て《アダマント鉱石》に変えておきましょうか」

俺がそう言ったとき、ポメラの顔がやや引き攣った。

「さ、さっきのを、何度も……。音は、ポメラの精霊魔法で隠せますけれど……つ、次も、本当に抑え込めますか? 錬金反応させる量、増やすんですよね?」

ポメラがちらりと、歪に変形した大釜へと目を向けた。

「……次は、さっきよりも準備はするので、まあ大丈夫かな、と……」

「……そこは、自信を持って言い切ってください……」