軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20.コーデリアの贖罪(3)

初めてお会いした奥様はとても美しかった。

スラリと背が高く、凛とした佇まいの涼やかな麗人。

こんな方が好きならば、確かに私なんかに靡くはずもない。

だが、会ってすぐに着替えるように言われて驚いた。

……まさかナイフに気付いた?

仕方が無く自室に戻ったけど、部屋まで付き添ってくれた男にナイフを所持していたことを気付かれてしまい、鬱陶しいことこの上ない。

「アシュリーを傷付けたら許さない」

見当違いの怒りを見せる姿が滑稽ね。

「奥様を一番に傷付けておられるのはリオ様ですよ」

今まで口答えしたことがなかった私がこんなことを言ったのが驚いたのか、それとも言われた内容が予想外だったのか。

分かるのは、この人は自分が被害者だと思っているということ。

「貴方が私を抱かなければ子は出来ませんでした」

避妊薬を偽ったのは私。でも、子種を授けたのは貴方だ。貴方と私は共犯者なのよ。

すっかりと無言になった男に支えられ部屋に戻る。

服を替えただけでずいぶんと楽になった。

それからの奥様はまるで慈愛の天使のようだった。

何故そこまで優しくあれるのか。

もっと罵られ、死すら覚悟していた。それなのに、信じられないことに大切なウィリアム様すらも私に預けると言うのだ。

最初は信じられなかった。私はまだ生まれてさえいないこの子と引き離されない為に必死だったのに。

それを可愛い盛りのご子息を、はっきり言ってあんなダメ男と強欲婆と罪人の私に預けるなんて、頭がおかしいとすら思った。

天使では無く、心が壊れているのではないかと懸念した。

そんな失礼な反応をする私に、怒ることも呆れることもせず、アシュリー様はたくさん話して下さった。

今までのこと、これからのこと。その覚悟を。

アシュリー様は天使でも何でもなく、悩み、苦しみ、それでも人を恨まずにいようとする、ただの心優しい女性だった。

『自分は駄目人間製造機なのかもしれない』と笑っている。

そんなはずはない。ただ、優し過ぎて損をしているだけじゃないか。

ああ、貴方ともっと早くに出会いたかった。

そうしたら、もっと真っ当な人間に成れただろうか。

それでも、まだ遅くはないかな。

今からでも、貴方のように生きられる?

……私は貴方みたいに優しい人になりたい。

この子の母親として恥ずかしくない人になりたい。

恵まれない人生に嘆き、世をすねるのではなく、今出来ることをしよう。

まずは前伯爵夫人から権限を奪う。これは伯爵がやれば難しくないし、屋敷の管理や領地運営ならば学んできたことだから大丈夫。

前伯爵夫人は、ただ、孫を愛する優しい祖母になってもらう。

そして、仕事は伯爵へ。私はフォローに回ればいい。

商会はアシュリー様が上手くやってくれると言っていたからお任せしよう。

『私は不器用で一つのことしか頑張れないのよ』とアシュリー様が言っていた。

ようするにあの男は寂しかったのだ。

有能な妻がいれば商会は上手く回り、館や領地は母親が牛耳っている。

自分の居場所が無く、妻に劣る自分への憤りとあの医者への劣等感。それらを弱い私を支配し、縋られることで自分を慰めていたのだろう。

馬鹿だなと思う。欲しいものは手にしていたのに。ただ、大切にすればよかっただけなのに。

あれを立派な男にするのが一番大変かもしれない。

まあ、もともと愛も情もないからこれ以上嫌われても何も困らない。地道に頑張ろう。アシュリー様が任せて下さったのだから。

…………閨ごとだけが嫌だけど。

痛いし、気持ち悪いし、汚いと思う。

でも、それも刑罰だと思って乗り越えるしかないのだろうか。

……とにかく仕事をたくさんさせよう。疲れ果ててすぐに寝てしまうように。

「先生、お願いがあります」

男が嫉妬していた医師が診察をしてくれた。これもアシュリー様のおかげなのでしょう。

「どうした?」

「子供が出来なくする方法はありますか」

「……何故だ」

「私はこの子以外に子供を産む気が無いからです」

アシュリー様に許されたからと、何人も産むつもりはない。

ただの自己満足に過ぎなくても、これ以上彼女を傷付けたくなかった。

「……アシュリーはそんなこと望まないぞ」

「それでもです」

他所で種をまかれない為には私が相手をするべきなのだろう。でも、子供は二度と作らない。

「男の子種を殺す薬もあるが、高熱と後遺症の危険があるからおすすめ出来ない。やはり避妊薬を都度飲むべきだ」

「分かりました。定期的に購入することは可能ですか」

「ああ。手配しよう」

「ありがとうございます」

これでいい。

私のこれからの人生は、ウィリアム様とこの子を守る為にある。

アシュリー様の宝物と私の宝物。

罪人である私が守ることを許されたのだ。

絶対に貴方達を幸せにするわ。

アシュリー様の願いを叶えるために。

アシュリー様への贖罪のために。