軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 ユリウスの初恋

私の名はユリウス・ウンブラ。

宰相を父に持ち、由緒正しき伯爵家の次男として生を受けた。

殿下とは同い年であること、そして父の影響もあって、幼い頃から将来は側近の道を歩むことを期待されていた。

選ばれた以上、恥じることのないようにと、幼少期から徹底的に学びを叩き込まれた。社交も、遊びも、異性との接点すら制限され、私の世界は勉強と義務だけで構成されていた。

異性とまともに話す機会といえば、せいぜい殿下の婚約者であるエリザベート嬢くらいのものだったが――

正直なところ、彼女を女性として意識したことは一度もなかった。会うたびに、また一段とふくよかになっているように思えたし、口を開けば自己主張ばかりで、まったく愛らしさがない。

そんな私は、恋というものを知らなかった。

いや、恋などという感情がこの先の人生に必要だとも思っていなかった。

……ルチアに出会うまでは。

初めて会った時の衝撃は、今でも鮮明に覚えている。

薔薇のように色づいた頬、艶のある唇、抱きしめたら壊れてしまいそうなほど華奢な体つき。

その大きな瞳で真っ直ぐに見つめられた瞬間、私は呼吸するのを忘れた。

――地上に舞い降りた天使、そう思ったのは、決して誇張ではない。

ルチアは見た目だけでなく、心までもが天使のようだった。

私の話に頷き、「すごいわ」と微笑んでくれた。何も否定せず、すべてを肯定してくれる。

男を立てることも知らず、男にも臆せず意見する、あの誰かさんとは大違いだ。

気がつけば、私は恋に落ちていた。

彼女こそ、私が求めていた理想そのものだったのだ。

……どれだけ成績が良くても、愛想のない女には何の価値もない。

やはり、女性はルチアのように物腰柔らかで、控えめで、可憐であるべきだ――そう思うようになった。

だが、生憎ルチアは私ではなく、殿下に恋をしていた。

それでもいい。

彼女が私に恋していなくても、そばにいてくれるだけでいい。

彼女は、私にだけは本音をこぼしてくれた。

ある日、エリザベートに酷いことをされたと、ルチアが涙ながらに話してきたのだ。

なんてひどい女だ――見た目だけでなく、心まで醜いとは。

あんな女が王妃になるなんて、考えるだけでおぞましい。

それよりも、見た目も心も美しいルチアこそ、王妃に相応しいではないか。

それに……

もし殿下とルチアが結ばれたなら、私の影響力はますます強くなる。

幼馴染として、側近として、私は二人に深く信頼されている。

影の支配者として裏から糸を引くのも、きっと夢物語ではないだろう。

――そう、思っていた。

望みどおり、ルチアは殿下の婚約者になった。

だが――まさか彼女が、貴族なら誰もが扱えるはずの共通語すら話せないとは思いもしなかった。

自分の話にルチアが「すごいすごい」と繰り返していたのも、内容が理解できず相槌代わりに口にしていただけ。案の定、外交では取り返しのつかない失敗をしてしまった。

恋は盲目とは、こういうことか。見えていなかった現実が、ようやく見えてくる。

ルチアの可憐さに目を奪われ、肝心なものを見誤った代償はあまりにも大きかった。

肝心の殿下も頼りなく、エリザベートの助力があってこそ、ようやく王位に手が届いていたのだと、今さら気づかされた。

結局、殿下は廃嫡が決まり、王座から遠ざけられた。

国を掌握するどころか、今の私は“後始末係”だ。殿下とルチアは王都の厄介者となり、寂れた領地で幽閉同然の暮らしを強いられるだろう。そして私は、お目付け役として彼らと共に赴くことになる。

――ああ、あのままエリザベート嬢が王妃になっていれば……。

彼女なら、外交の場で取り返しのつかない失敗など起こさなかった。貴族のたしなみである共通語を流暢に操り、場に応じて的確な言葉を選び、相手の懐にも入り込む術も持ち合わせていた。

以前の私は、彼女の強い自己主張やはっきりものを言う態度を嫌っていた。女は男を立て、控えめに従うものだと信じていたからだ。

けれど、自らの意見を貫き、男と対等に議論できることこそ、真に王妃にふさわしい資質だったのではないかと、今ではそう思うようになっていた。

甘さと未熟さが目立つ殿下にとって、エリザベートのような存在はかけがえのない支えとなっていただろう。

彼女が隣にいれば、王座の道はもっと堅実で、揺るぎないものとなっていたはずだ。

しかし今更、後悔したところで遅い。

今や私たちは、誰からも見放され、陽の当たらぬ道を進む身。

一方で彼女は、もうとっくに、輝かしい栄光の階段を歩き出しているのだから――。