軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第202話 3年Sクラス一学期期末試験初日

期末試験初日の朝。

三年Sクラスの教室は、いつもより静かだった。

試験前特有の、浮つきと緊張が混ざった空気だ。

俺たち六人も、それぞれ席に着いていた。

セレナはいつも通り落ち着いている。

エドガーも静かに資料を閉じ、筆記用具を整えていた。

ナディアは最後に一度だけ要点を確認し、ゆっくり息を吐く。

ヴィクトルは眠そうな顔をしていたが、机の上の紙にはびっしりと要点が書き込まれている。

ガイルは無言だった。

ただ、参考書を閉じる時の目は、昨日より少しだけはっきりしていた。

「ガイルさん」

ナディアが小さく声をかける。

「実戦に置き換えれば大丈夫です」

ガイルは短く頷いた。

「分かっている」

その一言に、昨日までの勉強の跡が見えた気がした。

教室の扉が開き、ベルンハルト先生が入ってきた。

その瞬間、教室の空気がさらに締まる。

先生は教卓に試験用紙の束を置き、教室全体を見回した。

「今日から一学期期末試験に入る」

低い声だった。

「初日は筆記だ。暗記だけでは点は取れんぞ」

誰も口を開かない。

「学んだ知識を使って判断しろ」

それだけ言うと、先生は試験用紙を配り始めた。

紙が机の上に置かれる音が、やけに大きく聞こえる。

俺は問題用紙を裏返したまま、開始の合図を待った。

心臓が速いわけではない。

だが、軽くもない。

三年Sクラスで頭角を現し始めた。

それは確かだ。

だが、試験は別だ。

ここで結果を出せなければ、五年への飛び級など口にできない。

「始め」

ベルンハルト先生の声が落ちた。

俺は問題用紙を表に返した。

最初に全体を眺めた瞬間、思った。

難しい。

一年の頃の試験とは、明らかに違う。

単純に用語を書かせる問題は少ない。

制度。

魔法理論。

戦術論。

それらが一つの状況の中に混ぜ込まれている。

覚えているかどうかだけではなく、どの知識をどの場面で使うかまで問われている。

だが、全く解けないわけではない。

そこが、春休みの頃とは違っていた。

最初に三年の教科書を開いた時は、知らない言葉が多すぎた。

二年の内容を飛ばしている分、穴も多かった。

けれど、春休みに詰め込んだ。

三年Sクラスで応用課題を解いた。

訓練場で失敗した。

その一つ一つが、問題文の中の言葉と少しずつつながっていく。

俺はペンを持ち、最初の問題に取りかかった。

制度の問題は、少し迷った。

領主、ギルド、騎士団。

どこが先に動き、どこで報告が必要になるのか。

文字だけで追うと、少しややこしい。

だが、森沿いの村を思い浮かべると、流れが見えた。

小型魔物が出た。

まず村と領主側が状況を確認する。

必要ならギルドへ依頼を出す。

被害が広がれば騎士団へ報告する。

昨日、ナディアがガイルに説明していた内容が頭に浮かんだ。

誰が一番強いかではない。

誰がどの段階で動くか。

そう考えると、問題文の見え方が変わる。

俺は答えを書き込んだ。

魔法理論の問題では、セレナとの勉強を思い出した。

魔法は、敵を倒すためだけのものではない。

味方の進路を作る。

相手の動きをずらす。

消耗を抑える。

そういう使い方もある。

戦術論では、ベルンハルト先生の演習が頭に浮かんだ。

敵を倒すことだけが目的ではない。

指定地点へ到達する。

守るべきものを守る。

時間内に戻る。

目的を見失えば、どれだけ戦えても評価は落ちる。

難しい。

だが、手は止まらない。

分からない問題もある。

言葉に詰まるところもある。

それでも、白紙で固まる感じではなかった。

視界の端で、仲間たちの様子が少しだけ見えた。

セレナは落ち着いていた。

最初から最後まで、ほとんどペースが変わらない。

エドガーも淡々と問題を処理している。

何度か問題用紙全体を見直し、時間配分を調整しているようだった。

ナディアは、一問ごとに丁寧に読んでいる。

急いではいない。

だが、止まってもいない。

ヴィクトルは途中で少し顔をしかめた。

しかし、商人や物流に関わる問題に入ったのだろう。

急にペンの動きが速くなる。

分かりやすい。

そして、ガイル。

最初の数分は、やはり止まっていた。

だが、昨日とは違った。

問題文を睨んだまま固まるのではなく、一度目を閉じる。

それから、ゆっくりとペンを動かし始めた。

実戦に置き換えているのだろう。

言葉はまだ遅い。

たぶん、答え方も固い。

それでも書いている。

その姿を見て、少しだけ安心した。

もちろん、人の心配をしている余裕があるわけではない。

俺はすぐに自分の問題へ視線を戻した。

時間は思ったより速く過ぎていった。

簡単な問題は少ない。

だが、全部が難問というわけでもない。

確実に取れるところを落とさない。

迷う問題は、問題文を状況に置き換える。

細かい用語で詰まったところは、前後の流れから筋を作る。

完璧ではない。

だが、戦えている。

そう感じた。

春休みに机に向かい続けた日々。

三年Sクラスで何度も食らいついた課題。

休日に森へ出て、現場を見た時間。

図書室で弱点を潰した夜。

それらが、今、答案の上に少しずつ形になっている。

ベルンハルト先生が言っていた。

知識を使って判断しろ。

今なら、その意味が少し分かる。

知識だけでは足りない。

感覚だけでも足りない。

覚えたものを、状況の中で使う。

三年Sクラスの筆記は、そういう試験だった。

「そこまで」

ベルンハルト先生の声が響いた。

教室の空気が一気に緩む。

ペンを置く音。

息を吐く音。

椅子にもたれる音。

試験用紙が回収されていく。

俺もペンを置き、軽く指を開いた。

思った以上に力が入っていたらしい。

問題用紙が回収された後、ヴィクトルが机に突っ伏した。

「終わった……いや、まだ初日か」

「まだ初日ね」

セレナが冷静に言う。

「今それ言う?」

「事実でしょう」

「そうだけどさ」

ヴィクトルが顔を上げずに答えた。

ナディアはガイルの方を見る。

「ガイルさん、どうでしたか?」

ガイルは少し考えた。

「前より書けた」

「それなら良かったです」

「まだ遅い」

「それでも、白紙ではなかったのでしょう?」

「ああ」

ナディアは柔らかく微笑んだ。

ガイルはそれ以上何も言わなかったが、少しだけ肩の力が抜けたように見えた。

エドガーが静かに言う。

「筆記は終わった。次は応用課題だ」

「分かってるけど、少し休ませてくれ」

ヴィクトルがぼやく。

その言葉に、少しだけ笑いが起きた。

教室を出る頃、三年Sクラスの生徒たちもそれぞれ表情が違っていた。

手応えがあった者。

難しかったと呟く者。

もう次の応用課題へ意識を向けている者。

クラウスはいつも通り落ち着いている。

ライオネルも、特に崩れた様子はない。

この人たちは、やはり簡単には揺れない。

筆記試験は終わった。

一年の頃より、ずっと難しかった。

だが、全く歯が立たない試験ではなかった。

期末試験はまだ始まったばかりだ。

応用課題。

実戦演習。

三年Sクラスで上位に入るためには、ここからが本番だった。