軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十二話

戦いは楽しい。

私の心を満たしてくれる。

あぁ、あまりにも不謹慎……友人が、兵士が、王国が力を合わせて戦っているというのに私はこの状況を楽しむという異常な思考の元、戦場に立っている。

それでも敵を殺すような事をしないのは、私にもまだ人間性というものがあるからか……それともただ単にろくな覚悟もないまま戦場に出てしまったからか。

殺すという行為に忌避感があるのも事実だ。元の世界さながらの「モラル」を以て戦いを行っている。

元の世界に戻りたくないと思っている私が、未だにこの世界とは全く異なっている「常識」に縛られているという事は笑いものだな……本当に本当に、失笑ものだ。外面は綺麗に見えても、内面は醜く薄汚くずる賢しいだけの人……まるで中に泥が詰まったぬいぐるみのよう……。

「………はっ」

『ハァァァァァ!!』

闘いの最中―――フォークに似た棒状の槍をこちらに突き出してくる魔王軍の兵士。

当たれば痛いだろう、当たればただじゃ済まないだろう、当たれば死んでしまうかもしれない。それが一目で分かるほどの殺意が込められた脅威が私の心臓目掛けて突き進む。

色濃く感じる「死」。だがそれでも私は止まらない。否、止める事すらできない。

「ははは………」

『この人間ッ――』

体を捻り、回転しながら槍を交わし、敵兵の鎧に包まれた腹部に手を当てる。

剣は防御にしか使わない、シグルスのような膂力の無い自分には鎧を断ち切る力がないから。

だから必然的に私の攻撃は魔法を用いた攻撃になる。

そして、都合の良い事に私の魔法は『雷撃』、生物には効果抜群の魔法。

「ハァッ!!」

『グァァ?!』

だが魔法と言う便利な「道具」を使っている私は、一番命を軽んじている。

殺す覚悟も殺される覚悟もない私は、覚悟も持たずに戦場に立っている……これを命を軽んじているといってもなんらおかしくない。

カズキは、覚悟を持って戦場に出ている。

自分の弱さと向き合って、恐怖に耐えながらその足で立っている。

ウサト君は、完全に私の真逆の道を歩いている。

……いや、大きな枠に当てはめれば、彼は私と同じだ。殺す覚悟も殺される覚悟もない、そこだけは同じだ。しかし、それ以外では全く違う。彼は、どこか無気力に見えて正直者で負けず嫌いだ。私に対するそっけない態度は、こちらの心情をある程度察してのことだろう。

「あぁ、ウサト君………」

思いに浸る。この世界は素晴らしい──例え異常者と罵られようとも私は今の世界が楽しい、新しい出会い、未知、希望、不可能に溢れている。

だからこそ、この戦場で生き残らなければならない。

「次、だね」

倒れ伏した敵兵を見つめ、次の敵を探す。

何時の間にか、私の周りには敵が居なくなっていた。相手は警戒するようにこちらを見ている。

恐れをなしたか、これで敵の気勢を削げればいいのだけれど──

「カズキ君……」

彼は戦っていた。

剣を振るい敵を切り裂く。その様相にはどこか鬼気迫るものが感じられたが……彼からはそれ以上の激情が感じられた。

彼の魔法は、私のような便利な能力じゃない。

光の魔法―――魔族なら、一撃で再起不能に陥れてしまう対魔の魔法。この戦争では彼の能力はかなり有利だろう。だがカズキにとってはそれは重荷になってしまう。

「ハァ──ッ、ハァ──ッ、ハァ──ッ」

問答無用で戦闘不能に陥れてしまうという事は、手加減が効かないという事。

それがどれだけ、カズキにとってツライ事か、相手が魔族でなければ、まだ手加減の余地もあっただろう。

彼が私と同じ「頭のおかしい人」だったのなら、冷静に相手を手加減し戦闘不能に陥れる事が出来ただろう。

殺意を持って攻撃されたら、殺意を向けられた側も、それ相応の敵意と殺意を以て応戦してしまうだろう。

周りを警戒しながらカズキ君の元に走り寄り、彼が相手取っていた魔族の一人を電撃で攻撃し戦闘不能にする。

「大丈夫かい?」

「ええ……でも、キツイですね。精神的に」

「さがってもいいんだぞ」

「心配は無用です。……俺はまだ……やれます」

これは言うだけ無駄だね。

彼は存外に頑固だ。思い込みが激しく、自己嫌悪に陥りやすい。

だがそれは彼の短所でもあり長所でもある。自分の悪い所を理解できるという事は、中々できることじゃあない。

「そうか、でもきつくなったら退がるといい」

「……」

そう彼に言い放った後に、剣を構え敵兵に向かって走り出す。

カズキ君も私の後を追うように走り出す。

闘いは、まだまだ終わらないようだ。

戦闘開始からもう何人目の怪我人の治療だろうか。

血の匂いに慣れてしまった頃、慌ただしく入れ替わる怪我を負った兵士たちを治している中、自分の請け負った兵士の傷を癒したローズがそう一言呟いた。

「そろそろ……だな」

彼女の言葉を皮切りに、オルガさんの表情が引き締まる。

「行くんですか?……ローズさん」

「馬鹿野郎、ここでは団長と呼べオルガ」

ローズの言葉を聞いて数秒後、僕は自ずと理解した。

ああ、これから僕も戦場にいかなくちゃならないんだ、って。

魔力も十分余裕はある、身体に違和感もない。

貰った白色の団服は綺麗なまま。これが今の僕の責任とするべき役目の証。そして誇り。

「どうだウサト。お前は覚悟はできてんだろうなァ?」

不意に途切れる、負傷者の波。

その最中、ローズは何時ものような獰猛な笑みで僕にそう問いかける。

決して軽はずみな質問ではない、これは試されている―――何故こんな時にという事は、言われなくても分かる。今だからこそ、今じゃないとこの質問には答えられないと直感的に理解できた。

「勿論ですよ。僕は貴方の右腕をするよう訓練されたんですから」

「ああ、そうだな……お前はそういう奴だったな。なら心配はいらねえな」

「心配してくれたんですか?意外です」

「このッ……口が減らねえな……まあいい。オルガ、ウルル、ここは任せる。もしもここに敵が来たらお前達は真っ先に逃げろ。理由は言わなくても分かるだろ」

後方担当の最重要事項。

敵と遭遇したら真っ先に逃げる事。

僕とローズはともかく、二人は肉体的には強くないので、危険な状況になったら早く逃げるべきだ。

「分かっています。僕達の事は気にせず、思う存分人助けしてください」

「怪我しないでくださいね」

「おう」

オルガさんとウルルさんに背を向け軽く手を振るローズ。

あまりにもそっけない仕草だけど、なんとなく僕はそれが彼女なりの意思表示だと思えた。素直じゃないなあ、僕もそれが言えるような性格じゃないけど。

「じゃ、オルガさん、ウルルさん。これが今生の別れにならないように頑張って来ます」

「気を付けて……」

「危なくなったら逃げてねウサト君……あと、無事に戻って来る事ね」

ありがとう、オルガさん、ウルルさん。

二人から背を向け、僕は先を歩いて行ったローズの後を追うべくテントから出る。

「おせーぞ、さっさと行くぞ」

意外、テントの外にローズは待っていた。

腕を組み見るからに不機嫌そうな彼女に無言でついていく。

テントから離れる際、守衛さん……アルクさんの激励の言葉を受けながらも、兵士から現在の戦況を聞いた後、テントから離れる。

僕は高鳴る鼓動を抑え込みながらローズの一歩後ろを歩く。

戦闘が行われている場所まで、ほんの少し、この時間が最後の安息といっていいだろう。

じわりと額に滲む汗を感じながら、歩く僕に前を歩くローズが、こちらを片目で一瞥しながら話しかけてくる。

「………テメエが戦場に出る前に最後に一つアドバイスしてやるよ」

「はい? アドバイ……ス?」

「どうせお前の事だ。人の形をした相手に傷つけることなんてできねえだろ?」

「いや、それは……僕の役目は人助けですから」

「追い詰められても、同じことをほざけたらお前は余程のバカだな」

……いや、傷つけるどころか、そんな事を考えすらもしてなかった。別に攻撃されてもすぐに治せるから避ける事に専念すればいいかと思っていたから……。

「まあ、そんなバカなお前にとっておきのアドバイス……いや、技を教えてやる、聞いておけよ?一回しか言わねえ」

「………はい」

「それは――――――――――」

ローズの口から発せられた『アドバイス』。

その技はあまりにも、暴力的で野蛮で粗暴で破天荒で――――何がしたいのか分からない技だった。

使っても意味がない、うまく決まっても気絶させるくらいだろう。

だがその「技」は―――治癒魔法の間違った使い方を形容したようなものだった。

でもその間違った使い方は――――

「僕にピッタリじゃないですか」

「そうか、それは良かった」

「まさか僕の為に考えてくれたりとか?」

「……んな訳ねえだろ」

「ありがとうございます」

「………おう」

兎は臆病だ。

そんな僕だからこそ、これは使わない技だし、使ったとしても相手にとってある意味で害がない技なのだ。

僕の答えに、満足気に前を向き直るローズ。

戦いの場は目と鼻の先。

獣に似た声と人の声が響き、砂塵が舞う。

この頼もしい人がいる戦場ならば、怖くはない。

「行くぞ、ウサト」

「ええ、団長!!」

僕と、ローズは駆ける。

無言で僕とは別の方向に駆け出すローズを、一瞥し一気に戦場の最前線にまで翔ける。ローズは僕とは別の場所をカバーする。

血、血、血、血の匂い。もう慣れた。この程度で立ち止まってなんかいられない!入り込んでいる魔王軍兵も無視、中の怪我人は全て信頼する仲間に任せる。

真っ直ぐ、真っ直ぐ、突っ切ったその先は最前線。

「ここが戦場……」

心を強く持つ。

決して呑まれないように。

最前線は文字通りに総力戦だった。血で血を洗う戦いとはこのような事を言うのだろうか。

それは、回復すらさせる暇がないほど熾烈な戦い。

だが、その中で僕のすることは決まっている。即座に視界に映った二人の重傷人を確認し。足に力を籠め走り出す。

動体視力は森で鍛えた。

体力も訓練で鍛えた。

人の間を走る事も街中で鍛えた。

疲労も魔法で解決する。

治癒魔法、本日絶好調。

混戦する人と魔族の間を縫うように走り、最短ルートで1人目の怪我人の傍に駆け寄り担ぎ上げる。

「っ!? 貴様が治癒魔法持ちかァ!!」

「……」

近くの魔族がこちらに向けて斧を振りかぶっているが、遅い。恐怖も威圧感もあの蛇以下、恐怖はあるが、全然耐えられる。

戦う事が僕の戦いじゃない、僕の戦いは人を助ける役目にある。

人一人を抱えたまま、ひらりと避け攻撃を仕掛けてきた魔族を無視し、次の怪我人の元へ難なく辿り着きもう片方の腕で担ぐ。

「うぅ……き、君は?」

意識はある。この程度の傷ならば数秒ほどで治る。

もう一人は既に傷の治療を終えているが、こちらも意識がある。流石最前線を任せられる兵士、凄まじい忍耐と精神力だ。

「治療は済んでいます。動かないでください」

最前線から一歩離れた所まで移動し、担いだ二人を降ろす。

降ろされた二人は、傷を負った場所をさすりながら驚いた顔で僕の方を見ていた―――が、いちいち構ってる場合じゃない。

現在進行形で、人の生き死にがかかっているんだ。すぐに戻らないと。

「もう大丈夫です。まだ体に不調があれば、前線からさがってください」

そう言い放ち、僕はまた最前線に戻る。

──僕の手の届く範囲の人は、絶対に死なせない。

同じく最前線、ウサト出撃と同時刻。

犬上とカズキは、難敵と対峙していた。

『あーつまんない、少し強いくらいの人間に手古摺っちゃってさー。所詮は人間に毛が生えた程度……つまんない、つまらない、つまらなーい』

生き物のようにウネウネと動く黒色の鎧を纏う騎士。不自然な光沢を宿すその鎧は、見る者に強烈な不快感と恐怖を与える。

見るからに普通の鎧ではない。

実際、彼(?)の周りにも王国軍の兵士が転がっている、全員が夥しい血を流して倒れている。

「どうやら、こいつは私達が相手するしかないようだね……」

「です……ね」

『はぁ? やるの? 別にいいけどさぁ、あまりにも退屈だったら……すぐに殺すから』

とびっきりのヤバイ奴、だけどここで仕留めて見せる。