軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話

目の前でニタニタ笑っている5人の悪人面の男達。

一瞬、ここは盗賊のアジトかと錯覚してしまい、思わずローズの顔を見てしまう。

ローズさん……。

「ん?何だウサト。ああこいつらの名前が分からねえのか?じゃあ、お前ら自己紹介しろ」

駄目だ。この人全然分かってねえや。

この女性は目の前の男達の顔が怖くないのかと割と本気で疑う。

……あっ、そっかー。団長だから、この人達の顔は見慣れているんだ。

悪人面の男達は僕の周りを取り囲むように並び始める、何を始めるつもりですか? 土下座ならいつでもできますよ?

「オレはトング、特技は消毒。ヨロシクなァ新人」

一歩前に出た一際身長が高い男、トングが低い声で僕に自己紹介する。

ニヤァと歪な笑顔を浮かべているトングに汗が止まらない。くっそ肉掴みみたいな名前しやがってからに……ッ。

トングに続いて他の男達も一人ずつ自己紹介を始める。

「ミルだ、ヨロシクゥ新人」

「アレクだ、ヨロシクゥ新人」

「ゴムルだ、ヨロシクゥ新人」

「グルドだ、ヨロシクゥ新人」

「ごっ、ごめんなひゃい……」

泣いた。

高校二年生になって泣くのはかっこ悪いと自分でも自覚している。

でもさ、この状況は誰だって泣くと思うんだ。周りを強面の男達に囲まれて、四方八方から僕に自己紹介するのだ。

この儀式のような自己紹介はなんだろうね! これで泣かないやつは鋼の心臓を持っているね!

「おい手前ら、新人を怖がらせてんじゃねぞ」

「ウゴァ!?」

僕を取り囲んでいた男の一人、トングの姿が一瞬で視界から消える。

ローズが彼を蹴り飛ばしたのだ。

呆れたように額を押さえたローズは、僕の周りの4人に怒声を上げる。

正直、僕はあなたの方が怖いです。

「仲良くやるのは別に構わねえが……分かってるよな?」

「ローズの姉御!俺達は俺達なりの出迎えをしたまでですぜ!!」

これで、出迎えのつもりだったの!?

小太りの男、ミルの言葉に愕然とする。このおもてなし精神の履き違えに戦慄を隠せない。

猛獣のように目を鋭くしながら、ミルを蹴り飛ばしたローズは僕の方をギロリと睨む。

「ったく、ウサト。こいつらは治癒魔法使いじゃねえが、私の部下だ。こいつらの仕事は、戦地での怪我人の確保。それと、治癒魔法が使える奴は私を除いて二人いるが、生憎そいつらは暫く戻ってこねえ。その間、私がお前に治癒魔法が何か教えてやる」

「え?」

「返事はどうした?」

「は、はい!」

「よし。それじゃ、明日から訓練を始めるぞ? 部屋は……トング、手前ェの部屋が空いてたよな?」

僕の意思はどこかへフライアウェイですか?

「オレだけ一人部屋です」

「じゃあ丁度良い、こいつに色々聞け。もう夜も遅せえから、お前ら休んでいいぞ」

「「「へい」」」

「はい……」

「ついてきな、部屋を案内してやる」

トングについて行き、部屋に案内される。

案内された部屋は、普通の相部屋だった。散らかってもいないし、無駄な物を取り払った部屋。自分の部屋とは大違いだと思いつつベッドに腰を下ろす。

意外だな、鎖とか火炎放射器とか置いてあるかと思った。

「おい、新人」

「なんでしょうか?」

「オレに敬語はいらねえ、タメ口で構わねえ」

「……分かった」

突然声を掛けてきたトングにビクリと体を震わせながら、応答する。この人すごく背が高いから威圧感がある。話しかけられるだけで、体力ゲージをがりがり削られる。

トングは手に持った、素朴な作業服に似た服を僕に投げつけ、ぶっきらぼうに言い放つ。

「それが訓練時に使う服だ。上下揃えて三着ある、着回して使えよ。トイレはこの部屋を出た少し先にある。詳しい事は姉御から聞かされると思うが……」

「あ、ありがとう」

流石にずっと学生服でいるのは辛かったので、この服はありがたい。とりあえず、学生服から着替え、トングに聞いておいた場所に服をしまう。

対してトングは、既にベッドに横になりながら僕のいる方向とは逆の方向を向いている。

「訓練はキツイ、早く寝やがれ。特に手前ェは治癒魔法の訓練だ……明日は地獄だぜ」

「じ、地獄?」

「治癒魔法は自分の傷も治せる……後は頭の足りねえ手前ェでも分かるだろ」

「……」

つまり、どんな怪我を負っても続行ということになる。

顔から血の気が抜ける、僕の顔はまさに顔面蒼白といっても良い表情だろう。

自分の傷すらも治せる。休ませて貰えない訳ですね分かります。でもローズさんは救命団の団長、彼女から治療魔法を習う前に少しくらいは予習しておきたい。

「治癒魔法使いについて教えてくれないか?」

自分は、治癒魔法を教わるためにここに連れてこられたのだ。

望んだ形ではないけど、これは一種のチャンスだ。

僕が、カズキや犬上先輩のサポートができれば、戦えなくても役には立てるはずだ。

「あぁ? ……仕方ねえな。治癒魔法使いってのはな、良く言えば治すことに長けた魔法使い。悪く言えばそれしか能がない魔法使いだ」

「能がない?」

「攻撃魔法が使えない。戦闘では常に的になる。数年前までは治癒魔法使いは侮蔑の対象として見られていたんだぜ? 『治癒魔法使いは役に立たない』なんつー風潮が各地で起こるほどにな」

確かに普通の魔法使いは応急処置程度の回復呪文を扱えると聞いている。

そのことを考えれば、戦いの中で狙われる治癒魔法使いはいらない物と扱われてもしょうがないだろう。

僕だってゲームでは回復要員から先に潰すし。

「まあ実際オレもそうだった。攻撃魔法の使えねえ治癒魔法使いなんて雑魚……そう思ってたんだけどよ」

「思ってた?」

「……少し喋りすぎた。寝るぜ」

「え? 中途半端すぎるよ」

「うっせぇ早く寝ろ!! ボケ!!」

横になりながらも叫んだトング。

別に怒鳴んなくても良かったじゃん。

怒鳴られた事に精神的な傷を負った僕は、ベッドの中で少し涙を流しながら明日行われるという訓練に備える。

「治癒魔法かぁ。地獄とか言っていたけれど、全然イメージできないなぁ……」

誰かを治すための魔法。

聞いた話では、僕の魔法はそういうものらしいけれど、トングの話を聞く限り、明日に行われる治癒魔法の特訓は、生易しいものじゃなさそうだ。

でも、望んだ形ではないにせよ、自分の魔法を鍛えられる機会を得られたんだ。

明日は、自分なりに頑張ってみよう。