軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空に開いた穴

直接脳内に響く声に、俺は即座に視線を上に向ける。

俺と同じタイミングで、同時に動いたのが波多野さんだった。それに少し遅れて残りの4人も同じ動きを見せる。

視線を向けた先には、変化は何もなかった。──視線を向けた時点では。次の瞬間には空の光景が大きく歪み、そしてひびが入った。

そう、空間にひびが入ったのだ。

そのヒビは見るまに半径100mを超える空間に広がっていく。

「もー、リリちゃんが変なフラグたてるから~」

「わたくしのせいですのっ!?」

異常な状況が広がる中女性陣二人のなにやら気の抜けたやりとりが耳に入るが、視線は空の光景から目が離せない。

一定範囲まで広がったヒビは今後はその幅を広げていく。それによって空の向こうに何か別の空間が見え始めたが、歪んでいてよくはみえない。

《世界が繋がるわ》

アイリスの言葉が脳に響く。その言葉に俺はしばらく前に自身が経験をした事を思い出す。もしかして、房総ダンジョンの時と同じことが起きようとしている?

《違うわ。あの時は事象としては似たマナを持つ世界が二つ、ダンジョンのコアを中心として引き寄せあい重なってしまった事によりおきた現象。きっかけは何かはわからないけど、起きた事としては他の世界でも起こりうる自然現象のようなものよ》

あんな事は自然現象として起こりうるのか……

《確率は低いけどね。でも今回のは違う、あの亀裂から感じる力はこの空間のマナとはそれほど近くはないから──これは無理やり作り出された穴だわ》

とうことは──

《誰かが、この状況を生み出している》

ろくでもない事になりそうな気しかしないんだが!?

とにかくこの情報は皆に説明した方がいいよな、と俺が口を開こうとした時だった。

「何か出てきやがるぞ!」

荒木さんの怒声。そしてその言葉通り、幾重にも走っていたヒビが広がり切り、一つの穴と化したその場所からそれは姿を現した。

「……船?」

思わず口から漏れ出た言葉。その言葉の通り、それは船だった。恐らくは金属製の、白い光沢を放つ船。その船は穴から勢いよく姿を現すと、その勢いのまま轟音を立てて地面へと不時着する(穴の角度が下向きだったので、そのまま突き刺さるんじゃないかという感じだった)

周囲に響き渡る轟音と振動。そして船は勢いのまま地面を抉り取り土煙を上げて、数秒滑った後ようやく制止した。

「なんだありゃ」

呆気にとられたような反応を見せる皆の姿を見て俺は先ほどのアイリスの言葉を思い出し、全員に伝える。

「……ということは、アレはどこかの世界からやってきた船の可能性が高いって事だね」

そう口にする波多野さんは、船の方から目を離さない。

「ありゃ明らかに人工物だよなぁ。まぁ異世界帰りが沢山いる昨今、異世界からの来訪者なんて珍しかぁないがなぁ」

「でも基本は私やトワちゃんみたいな異世界帰りしかいないわよ?」

「確か異世界人がこちらにやってきたのは、ルーティエさんが初めてのはずですわね?」

空間系の術を扱う者として気になるのかじっと空にいまだ開いたままの穴を見つめていたるーが、リリさんに名前を出されて視線を落とすときょとんとした顔で首を傾げる。

当人はあまり意識していないだろうが、現状こちらの世界にやってきたと認識されている異世界の住人はリリさんが言う通りにるーだけだ。だが"世界の壁"が薄くなっている今、るーが自分の意思でこちらにこれるようになった以上他の世界から別の住人が来ること自体はおかしくない。ただ、

「普通に元地球人がアレでこちらの世界に帰還した可能性もありますよね?」

異世界に渡っている地球人が全員こっちに戻ってきているとは限らない(実際異世界転移が想定されている行方不明人は何人もいる)から、あの船の乗組員は地球人、というか日本人の可能性はある。

「だとしたら楽なんだがな」

「保護して、後は協会に引き渡せばいいだけですものね。日本語も多分通じるでしょうし……」

「どーする? あの船の方に行ってみる? あの穴はとりあえずどうにもできないだろうし」

そう口にして、東風ヶ瀬さんが空の穴を見上げる。空に開いた穴は、まだ変わらずそこにある。

「るー、なんとか出来たりする?」

「むーりー。あの穴は私が開くものと力の質が全然違うもん」

一応るーに聞いてみたけど、速攻で首を振られた。空間系の術使いのるーでも無理か。じゃあここの面子ではどうにもならんかな。

「よくないだろうけど、あれはひとまず放置だろうね。あれの対応はファミィさんに任せよう」

波多野さんがそう告げ、俺達は頷く。マナの質が見れる波多野さんがそう判断したということは、やはりここにいる人間では対処はむりなのだろう。

「とりあえず、船の方を確認してみます? 人がいるようなら下手に動かれる前に保護しておきたいですし」

「んだな」

リリアンジュさんの提案に荒木さんが頷き、歩き出す。それに続いて東風ヶ瀬さん達も歩き出し、最後尾で俺とるーが穴の方に背中を向けた、その時。

《頭上、結界!》

脳内に端的に響いたアイリスの指示に、俺は反射的に俺達の頭上に結界を展開し──次の瞬間、そこで光が弾けた。