軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22・国王と対峙してみました

あの後、私はレヴィシアによって部屋から追い出された。ご丁寧に、頬を打った証拠隠滅として 回復薬(ポーション) を飲まされてから、だ。

『フィオーレ。大丈夫だったか。念話で助けを求められないから、かえって心配だった』

『心配してくれて、ありがとうございます。命の危機に陥るようなことはなかったので、念話も使いませんでした』

私とヴィルフォードは昨夜泊まった宿に戻り、今日のことについて話すことにした。誰かに聞かれるのを警戒し、心の声で会話する。

『さっそくだが、レヴィシアと会話した記録を見せてほしい』

『はい。といっても正直、吐き気を催すようなやりとりでしたが……』

『それでも、全て知っておく必要がある。それに、君が受け止めた言葉だろう。俺も聞くのは当然だ』

『そうですよね。いろいろと情報も得られましたので、共有します』

レヴィシアの暴言などは、彼の耳に入れたくない気持ちもあったが……。彼は全てを知りたがるだろう。ありのままの記憶を、映像にして見せた。

すると、彼は私がレヴィシアに暴力をふるわれた場面を見て絶句する。

『フィオーレ。何故俺を呼んでくれなかったんだ』

『命の危険性はないと判断したので。それに、レヴィシアが暴力的な人間だという記録は、後々私達にとって有利なものになると考えました』

『だからといって……君を、こんな目に遭わせる気はなかった』

『いいんです。これは、後々の布石のようなものですから』

『……俺は、確かに奴らへの復讐を望んでいる。だが、そのために君を傷つけたくはない』

彼の眉間に、深い皺が刻まれる。私がレヴィシアに虐げられたことを、心底後悔しているようだ。

『……私はレヴィシアの本性を暴けて満足だったのですが、ヴィルフォードは納得がいかないようですね。では……』

じっと、彼を見つめて微笑んだ。

『頑張ったご褒美に、頭を撫でていただけますか?』

私の言葉に、ヴィルフォードは珍しく目をぱちくりさせる。

『……あれと引き換えに要求することが、それなのか?』

『はい。ヴィルフォードに撫でてもらえたら、私はすごく嬉しいですから』

『……君は、欲がなさすぎる』

彼はそっと、頭を撫でてくれた。

優しくて、私を労わってくれる指。レヴィシアとのやりとりでささくれ立っていた心も、すっと穏やかになってゆく。

「気持ちいい……もっと……」

「……君は、欲がなさすぎるだけじゃないな。無防備すぎでもある。そして……」

「そして?」

ヴィルフォードは、私の耳もとに唇を寄せ、囁きを落とす。

「……可愛すぎる」

「……っ」

身体が溶けてしまいそうなほど、甘い声。

今までも、彼に口説き文句のような言葉を贈られることはあったけれど、ここまで芯から甘い響きは初めてだった。危うく、立っていられなくなるくらいに……。

『さ、さて……話を本題に戻しましょうか』

本当はもっとこの甘さに浸っていたいけれど、そんな場合でもない。こほんと咳払いをし、真剣さを取り戻す。

『レヴィシアの発言について、どう思いますか』

『嘘だとは思えないな。母の暗殺については、レヴィシアは関与しておらず、国王が単独で行ったのだろう』

『国王の舞踏会での言葉については、どう思いますか。あなたに、悪かったと言っていましたが』

『あれは演技だ。国王は俺を油断させ、罠にかけようとしている』

『ですよね。私もそう思います』

『……ただ。俺の今までの推測は、少し外れていたようだな。国王の真相は、きっと――』

心の声で、彼は暗殺事件の真相を推理する。

それが真実なのだとすれば……国王は想定よりも、更に最悪な男で。

だが、だからこそ私達の復讐に、一筋の光がある。

『……明日。やっとあの男と話すことができる。必ず、真実を吐き出させてやる』

『はい。私も、ヴィルフォードの指示で記録しておいたアレを見せれば、きっと自白すると思います』

王が己の罪を自白したら……ヴィルフォードは「復讐」を果たすのだろう。

そうしなければ、この人の心の闇が晴れることはないから。

私はそれを邪魔しない。協力すると決めた。だけど、どうか……。

どうかこの人が、この先もずっと、生きていてくれますように。

◇ ◇ ◇

国王との待ち合わせの場は、街外れのひと気のない空き地だった。

国王は大勢の護衛を伴うわけでもなく、お忍びとして控えめな衣服を纏い、一人の魔術師だけを同行させていた。

国王は、もとから愛想のいい人ではないようで、笑顔は少ない。

「久々にお前と話すのだ。せっかくだから、ゆっくり過ごしたいと思ってな。別邸で散歩でもしよう。今の時期、庭園の花が美しいのだ。王都からは離れるが、転移魔法を使えばすぐ行けるさ」

国王がそう言うと、後ろに控えていた魔術師が、転移魔法陣が描かれた布を敷き、さっそく準備に入る。一般人では到底使えない転移魔法を私用で使うとは、やはり国王だ。

次の瞬間、私とヴィルフォード、国王の姿が眩い光に包まれた。

そして瞼を上げると、目に映る光景は全く別のものになっていた。

「わあ……」

サア、と風が吹き、無数の花が穏やかに揺れる。

ここが先程、王が言っていた別邸の庭園なのだろう。果てが見えないくらい広大な場所だった。よく晴れた青空に、濃い緑と鮮やかな花が映え、まるで絵画の中に迷い込んだかのようだ。

「どうだ、見事だろう。この光景をお前達に見せたかった。ヴィルフォード、フィオーレ」

「……ええ。まるで楽園のようですね。ありがとうございます、父上」

穏やかな風が吹き、また花や葉を揺らしてゆく。あまりにも平和な景色。

国王は美しい庭園の中を、ゆっくりと歩いてゆく。

……相手が息子とはいえ、一国の王が護衛も伴わず、こんなに無防備に歩くなんて。あまりにも無警戒だ。明らかに、何か企んでいる。

表面上は平静を保つけれど、緊張感が走る。

花を眺めながら歩いていた国王は、ふと足を止めた。

「……ヴィルフォード。お前は、本当にルシアヴェールによく似ているな」

「……そうですね。私も鏡を見るたびに、そう思っていますよ」

この世界に、カメラやビデオはない。人の姿を記録したいなら肖像画を残すくらいがせいぜいだが、ゼラニウムから追い出されるようにティランジアへと送られたヴィルフォードが、母の肖像画を持っているとは思えない。……国王だって、きっと所持していないだろう。

ルシアヴェール様のお姿は、私もお目にかかったことがない。どこにも残らず、もう、ただ人々の記憶の中で霞んでゆくだけのもの。

だけどヴィルフォードは、鏡を見るたびに、過去のことを思い出しているのかもしれないし。

国王は……ヴィルフォードを見るたびに、自分が死に追いやった彼女のことを、思い出していたのかも、しれない。

「ああ、本当に……生き写しだ」

「……母が亡くなって、もう十四年も経ちますね。本当に……母を殺した魔獣のことが、憎いものですね」

「……そうだな」

「それにしても、父上。私が生まれる前のことですが、あなたの兄エインズも、魔獣に殺されて亡くなっていますよね。それ以外にも、ゼラニウムでは、身分の高い者が魔獣被害に遭うことが多い。……まるで、あなたの邪魔者が次々葬られてゆくように」

ヴィルフォードの言葉に、国王は答えない。

「そうそう、母が亡くなったときのことといえば。覚えていますか、父上?」

「……なんだ?」

「あなたの部屋に、空の薬瓶のようなものがありましたね」

「国王の業務で、疲労が溜まっていてな。回復薬だ」

「おや。それを見られた程度で、あれほど取り乱しますか?」

ヴィルフォードは、微笑を浮かべている。まるで、チェックメイトを仕掛けるように。

「あれが、あなたが母を殺した証拠隠滅のためのものだから、あれほど取り乱したのですよね」

「何の話だ?」

国王は、あくまでシラを切り続ける。「犯人」として当然の対応だろう。ずっと隠し通せていた秘密を、今更わざわざ自白するなんて馬鹿だ。

そんなことは私もヴィルフォードもわかっていた。だから、考えた。

どんな状況、どんな相手であれば、自分の罪を口にするか?

それは――

「そうですか、あくまで知らないとおっしゃるのですね。……ところで父上。実は、フィオーレには特別なスキルがあるのです」

「はい。どうぞご覧ください」

私は、空中に映像を映す。

それは――

「私のレアスキルは、『過去の真実を映す』という能力です」

もちろん、 嘘(ブラフ) だ。

私の能力は、自分の目で見たもの、聞いたものを記録し、映像としてそのまま他者にも見せること。自分の知らない過去を探るなど、できるはずがない。

今私が映している映像は、舞踏会までの二週間の間に準備しておいた……ヴィルフォードの記憶を再現したもの。

スカビオサ領の劇団員の子どもに賃金を払い、幼いヴィルフォード役を演じてもらった。その子が、空の薬瓶を発見する場面。衣服も、部屋も、ヴィルフォードの財を尽くして可能な限り彼の記憶の中のものを模した。子役の顔は、化粧を施したうえで、角度を調整しあまりはっきり映らないようにしてある。いわば再現VTRのようなものであり、証拠としては偽物だ。

しかし、カメラもビデオも何もない世界である。国王だって、当時の記憶など朧だろう。細かい違いなどわかるまい。

全ては、国王に真実を語らせるため。

――人は、どうしたら己の罪を自白するのか?

どんな相手であれば、嘘偽りなく全てを白状するのか?

その相手といえば……「もう全てを知られてしまっている相手」。そして――

「……そうか。知らないふりで通しても無駄というわけだな。ならば、仕方がない」

国王は淡々とそう言って……その目に、冷たい殺意が宿る。

「貴様らには死んでもらう」

人が、己の罪を白状する相手といえば。

これから自分が殺す相手、だろう。

どんな罪を知られようが、殺してしまえば無意味なのだから。

死んでもらう、と口にした国王から、戸惑いは感じられなかった。国王は護衛をつけていない。だから、怪しいと思っていた。……奴は最初から、私達を殺すつもりだったのだ。

緊張感で息を呑んだ瞬間、国王の視線が、私達の背後に向いて――

「ヴィルフォード、フィオーレ。そしてもう一人……貴様にも、な」