軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 とある男爵令嬢の事情①

私には前世で、親友と呼べる女の子がいた。

その子は幼稚園からの付き合いで、漫画やアニメが大好きで、自作の洋服や小物なんかも作ったりすることのできる器用な子だった。

ちなみに『悪役令嬢は優雅に微笑む』もその子からおすすめされたもので「よかったら読んでみて!」と言われたのを覚えている。

けれど、彼女とは違う高校に私が入学したことで離ればなれになって。

新しい環境で新しい友達を作り、部活も運動部に入ったから土日も練習で中々遊べることが減っていった。

たまにその子から連絡が来てもその日の内に返すことが出来ず、それに向こうも気を使って少しずつ疎遠になっていったのだ。

───そんな矢先、親友が飛び降り自殺した。

理由は学校でのいじめだった。

高校に入学し派手なグループに目を付けられて、酷いいじめを受けていたらしい。

それをあの子の母親から聞いた時、私は途方もない罪悪感に襲われた。

同じ高校に入学していれば、とか。

もっと連絡を取っていれば、とか。

今更後悔しても遅いことばかりが頭を過った。

もう、全部遅いのに。

その時の絶望は今でも鮮明に思い出せる。

転生しても、ずっと私はあの子のことを覚えている。

翌朝。私はグレイから聞いたスケープゴートの話が忘れられず、ぼんやりと思案したまま学園の校舎に向かっていた。

もちろん前提としてマリーが婚約者のいる男の子と仲良くなったり、セレスティアを陥れようとしたのが悪い。

けれどいざ報復の話を聞くと、何とも言えない気持ちになってしまう。

(それもきっと私が当事者じゃないから、そんな風に思えるんだろうけど………)

個人的に加害者はそれ相応の制裁が必要であると思っている。

しかしそれは法に則った適切な罰であって、 私刑(リンチ) という形でそれが行われるのには忌避感があった。

それに、もしそういったことが常態化してしまった時、学園の治安は確実に悪化するだろうし、弱い立場の人間がいじめられやすくなる環境になってしまわないかと心配になる。

───ふと前世で自殺した親友の姿が過った。

あの子みたいな目に遭う子が、今後学園にも現れるんじゃないだろうかと思ってしまうのだ。

いつの間にか校舎に辿り着いており、登校中の生徒の数が増えている。

そしてそのまま教室に向かおうとした時、周囲が騒めいているのに気付いた。

何だろう。

そう思って辺りを見渡せば、その原因はすぐに分かった。

マリーが、びしょ濡れになって廊下を歩いていたのだ。

(あ………)

ピンク色の髪は肌に張り付き、白い制服は水で塗れている。

寒さからか顔色は僅かに青く、彼女が歩くたびに廊下に水滴が滴っていた。

まるでつい先程局地的な大雨にでも降られたかのような姿だが、マリーは気にした様子もなく真っ直ぐ歩いている。

きっと登校中に誰かにやられてしまったのだろう。

そう思いながら鞄の中を探すものの、今ふけるものと言えば小さなハンカチしかない。

(…………でも無いよりはマシだよね)

そう思い彼女にハンカチを渡しに行こうとする。

しかしその時、すぐ後ろから令嬢達のくすくすと嘲笑する声が耳に飛び込んできた。

「やだ。また誰か手を滑らせて水瓶を落としちゃったのね」

「ギャザウェルさんも運が悪いわ。制服の替えはないのかしら」

「ほら、あの子去年あんなことを仕出かしたから生家にも頼れないのよ」

その声に思わず動きが止まってしまう。

足が地面に張り付いたように動かなくなって、背筋に冷水をかけられたような心地になった。

前世で成人まで過ごして、いじめられている子供を前に見て見ぬふりなんてできないと思っていたくせに。

いじめが理由で大切な親友を亡くしたくせに───いざ周りの目があると咄嗟に動けなくなるなんて。

そう思った瞬間、自分の浅ましさがたまらなく嫌になって自分自身に失望する。

そしてそうこうしている間に、いつの間にかマリーはその場から去っていた。

廊下に水滴をぽとぽとと垂らしながら、マリーは黙々と歩いていく。

最悪なことに、校舎まであと数分という距離で突然水をかけられてしまったのだ。

もう校舎は目の前だったし、寮に戻って登校中の生徒達にじろじろ見られるのは嫌だったため医務室へ寄ろうと決める。

タオルや着替えもあるし、先生がいなければいっそサボってしまっても良いだろう。

(学園に入学してから、こんなことばっかりね………)

何で自分がこんな目に。

そう思いながら、マリーは去年のことをゆっくりと思い出した。

入学した当初は普通にやれていたと思う。

といっても正直学園になんて本当は入学したくなくて。

無理矢理私を引き取ったギャザウェル男爵家に半ば命令される形で入ったものだから「誰がこの学園に馴染むか」と孤立気味だったのは否定できない。

けれど去年の夏頃からだろうか。

何故か私は男子生徒達に異様に好かれ始めたのだ。

王子や男子生徒達から理由もなく好かれ、彼らの暴走気味な執着や思い込みを止め切ることが出来ず、多くの令嬢から反感を買った。

だってついこの間まで平民だった自分に、家格の上の令息達を押さえ込むことなんてできるわけないだろう。

私は未だにあの時の異様な空気を忘れることはできなかった。