軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 『   』がもし転生者ならば

セレスティアに『転生者』の可能性がある。

前世の記憶があって、もし原作『悪役令嬢は優雅に微笑む』の内容を知っていた場合、彼女は一体何をするだろう。

原作通りの流れであるならば、彼女は最後きちんとハッピーエンドを迎えるため特に何をする必要はない。

腹黒い男爵令嬢のマリーが現れて、それに魅了される情けない男達を横目に冤罪の証拠を集め、クライマックスである婚約破棄騒動で彼らを断罪すれば良いだけなのだ。

乙女ゲームの悪役令嬢とは違い『悪役令嬢は優雅に微笑む』の世界の主人公は彼女なのだから、破滅するフラグを折る必要もなく、原作通りに過ごしていればハッピーエンドを迎えることができる。

───けれどもし、男爵令嬢マリー・ギャザウェルが原作とは違うキャラクターだったら?

予定通りの時期に転入してこないマリー。

おまけに原作とは違って腹黒くもなく、素直で、パトリック王子に色目を使わない少女であったら、転生者のセレスティアはどう思うだろう。

(…………別に、もしそうだとしても、セレスティアは平穏無事に学園生活を送れて、順当にパトリック王子と結婚して、王妃になれる)

けれどもし、自分の生家からパトリック王子を陥れる計画を聞かされていたとしたら───原作の通り動かないマリーに焦るのではないだろうか。

あの後、マリーと別れて私はグレイを探していた。

まだ自分の中で何も整理されていないし、不明なことが多すぎる。

けれど一度グレイに相談したかった。

セレスティアが『転生者』であることはもちろん伏せるが、あと少しで何か分かりそうだったのだ。

(確かグレイはセレスティアを監視すると言っていた。セレスティアがいつもいる場所は中央棟のサロンだから、もしかしたらそこに…………)

「───ハボット嬢」

するとその時、後ろから声をかけられた。

驚いて振り返れば、そこにはアーサーが佇んでいる。

そして彼は私の前までやって来た。

騎士養成所の訓練で中々学園に顔を出さないアーサー。そんな忙しいはずの彼が、一体何の用事だろう。

「悪い。その、気がかりが一つあって………」

そう言いかけるアーサーに首を傾げる。

不思議に思って彼を待っていれば、アーサーは「大したことじゃないんだが」と話しずらそうに口を開いた。

「以前、去年の舞踏会のことを聞いてきただろう?………それは、マリー・ギャザウェルが去年起こした騒動と何か関係あるんじゃないか?」

「───いえ、それは、」

「否定されても流石に分かる。あの舞踏会の翌日からマリー・ギャザウェルの雰囲気が変わったのは確かだからな」

苦笑しながらそう話すアーサーに耳を傾ける。

そして彼はぽつりとこぼした。

「俺の知り合いが手荷物検査の衛兵として駆り出されたと話したのは覚えているか?その知り合いから改めて話を聞いてみたんだが………。

会場の周辺で───セレスティア嬢の侍女らしき女を見かけたらしい。すぐにどこかへ消えてしまったそうで、気のせいかもしれないからと今まで黙っていたそうだ」

その言葉に思わずアーサーを凝視してしまう。

そんな私にアーサーは目をそらす。

そして気まずげに言った。

「いや、悪い。こんなことを言っても困らせるだけだった。だが、俺の知らないところで何か重大なことが起きているのなら、こういった些細なことも伝えておいた方が良いと思って………ハボット嬢?」

立ち尽くす私に、アーサーが怪訝そうに尋ねる。

けれどもう、それどころではなかった。

今まで起こってきた事象が私の脳裏に走馬灯のように駆け巡る。

異教徒だという疑いのあるパトリック第一王子。

敬虔なアスガルド教信徒のリュベル侯爵家。

転生者であるセレスティア。

原作とは違う何も知らないマリー。

舞踏会が行われたパヴィリオンの中庭の工事。

その場にいなかったはずのセレスティアの侍女。

付け替えられた───《魅了の魔石》のブローチ。

「───ありがとうございます。申し訳ありません。たった今用ができましたので失礼いたします」

「あ、おい………!」

まだ憶測にすぎないけれど、こうなんじゃないかという予想が頭を閉める。

そして私はアーサーに一礼し、彼のもとから踵を返した。

いよいよ走り出す。

廊下を走るなんて本当は駄目だけれど、そんなこと言ってられない。

ふと窓の外を見れば、いつの間にか空は分厚い雲に覆われていて、風が強く吹いていた。

嵐が来そうだ。

このことを早くグレイに伝えないと───

セレスティアがよくいるサロンの、中央棟の2階へ辿り着く。

そしてどこかにグレイがいないか辺りを見渡した、瞬間。

「───ッ!?」

廊下の物陰から何者かが現れ、後ろから羽交い絞めにされてしまった。

ガーゼらしきもので口を押えられる。

そしてアルコールのような匂いを嗅いだ途端、私の意識は暗転した。