軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話 異教徒の第一王子

翌日。グレイにアーサー・ホークウッドの件について、何の連絡も無しに話を聞いてしまったことを謝罪した。

そしてその後、彼と何を話したか説明すれば、グレイは反対に私に尋ねてくる。

「エニス嬢、実際に話してみてどう感じた」

「…………僭越ながら申し上げますと、拝見した限りでは極めて真摯なご性分で、とても虚言を弄される方とは思えませんでした。ただ───」

状況からするとマリーのブローチを《魅了の魔石》のブローチに付け替えたのは、セレスティアの他に彼の可能性が高いだろう。

パトリック王子が自らを陥れるような計画を企てるのは考え難く、そうだとしたらセレスティアやアーサーに容疑の矛先がいくのは自然な話だ。

それをグレイも思ったのか、静かに頷く。

「それからパトリック王子との面会が決まったぞ。───だが、エニス嬢が参加することは許されなかった」

グレイの話を詳しく聞くに、条件として面会には彼のみが向かうことになったらしい。

もちろんそりゃそうだと思う。

パトリック王子は女子生徒に《魅了の魔石》を使われたばかりなのだ。

本人にその事実が知らされていなかったとしても、調査機関経由で王である彼の父には伝わっているはず。

となれば、女である私は慎重な扱いを受けて当然だ。

むしろ事情を知っている国王が容疑者であるパトリック王子の面会に許可を出してくれたことに驚く。

(自分の息子の容疑が晴れるなら、という感じなのかな。…………面会を許されたグレイって一体何者なんだろう)

身内に調査機関の人がいるって言っていたから、そういった繋がりで特別に認められたのだろうか。

パトリック王子とはクラスも違い、あまり関わりもなさそうに見えるため学友として見舞いに行くと言っても違和感がある。

不思議に思いながらも、私はグレイに「よろしくお願いします」としか言えなかった。

放課後、空き教室でマリーにカーテシーの仕方を教えていた。

パトリック王子との面会はひとまずグレイに任せ、私はマリーの監視(もとい勉強会)を行っているのだ。

「まず足の位置ね。右足を少し後ろに引いて………そう。体の軸はまっすぐに保つの」

マリーの肩にそっと手を添え、姿勢を直してやる。

「そのままスカートの裾を軽く指先でつまんで。そうしたら、視線を相手から逸らさずに、膝を曲げて静かに腰を落とすの」

「こ、こう?」

「うん、悪くないわ。でも急に腰を落とすとおじぎになるから………優雅さを意識して、ゆっくり下ろすように」

しかしその時、空き教室の外からこつこつと足音が近づいてくる。

そして解説の手を止めた瞬間、何者かによって扉が開いた。

「やあ、久しぶりだね!エニス嬢!」

驚いて顔を上げれば、 綿帽子のような真っ白な髪に翡翠の瞳。

がっしりとした体格に穏やかな笑みを浮かべた───黒いローブのような制服を纏った青年に目を見開く。

「───ガラハッド会長!」

驚いて立ち上がって一礼すれば、彼はヒラ、と軽く手を振った。

彼──ガラハッド・フォードは去年私が留学していた隣国ヘザーディア皇国の学園の生徒会長だ。

手続きのことで色々と世話になり、本当は彼の双子の姉との関わりの方が多かったのだけれど───今日はどうやら、彼女はいないらしい。

「今日はこちらに用事があってね。ついでに君の顔も見ておこうと思ったんだ」

彼は変わらぬ穏やかさでそう言った。

そして私の後ろでマリーがおずおずと立ち上がる気配を察し、慌てて紹介する。

「紹介します。こちらはマリー・ギャザウェル嬢です」

「…………お初にお目にかかります。ギャザウェル男爵家長女、マリー・ギャザウェルと申します」

どこか警戒した様子であるものの、私が先程教えたカーテシーで頭を下げる。

良かった良かった。

ちゃんとできてる。

しかしガラハッド会長はマリーの名を聞いた途端、小さく眉をひそめた。

「ちょっといいかい?」

そして私に教室の外へ出るよう手招きする。

不思議に思いながらも「行ってくるね」とマリーに声をかけ、彼に続いて教室を出た。

すると廊下に出た瞬間、彼は小声で切り出した。

「彼女は《魅了の魔石》でパトリック王子を操ったと噂されている令嬢だろう。何故君が一緒にいる?」

その言葉に私は目を見開いた。

どうして、隣国の人間である彼がそんなことを知っているんだろう。

内心怪訝に思いながらも、極秘事項であるため精一杯きょとんした顔をしてみせれば、ガラハッド会長は「口が滑った」と言わんばかりの表情をする。

そしてしばらくして、観念した様子で口を開いた。

「これは内密にしてほしいんだが…………今回の訪問の本当の目的は、殿下の見舞いなんだ」

「見舞い、ですか?」

「ああ。何者かによって《状態異常》の症状を起こした殿下を治療するため、白魔術師である俺が派遣された」

白魔術───彼のいるヘザーディア皇国では、それを扱える者が多い。ガラハッド会長もその一人だ。

それにしても、魔石の影響が思ったよりも酷いパトリック王子の容態に心配になる。

人によってどれくらいの影響が及ぼされるか分からないが、ここまで魔石への耐性がないのは反対に珍しいかもしれない。

そして彼は続けた。

「殿下の母君はヘザーディア皇国の出だ。王妃としてこちらに嫁いで以来、ヘザーディア皇国の国教である《ヴェラリス聖教》の信仰を制限されがちだったが………彼女の信仰を守るために、父が定期的にミサを行いに来ていたんだよ」

ヴェラリス聖教。

通称『聖教会』───この世界を創造したとされる女神ヴェラリスを信仰する宗教で、白魔術師のエキスパートである少女を『聖女』として讃える。

そういえば、ガラハッド会長の父親はヴェラリス聖教の枢機卿であったことを思い出す。

「親父は忙しくてね。それで俺が見舞いと《 祝福(ミサ) 》のために派遣されたというわけだ」

なるほど、納得はできた。

そして彼はしばらく考え込んだ後、周囲に誰もいないことを確認して囁いた。

「去年君には大分 世話(・・) になったからね。その借りとして忠告しよう。───今回パトリック殿下の状態異常にはマリー・ギャザウェルの手によって行われた可能性が高い。

パトリック殿下は第一王妃である母君と同じヴェラリス聖教を信仰している。聖教の『真実の愛』の教えを冒涜するような行いをされ、さぞ病んでおられるだろう」

だから君も、あのマリー・ギャザウェルには気をつけるように。

そう忠告するガラハッド会長に頷く。

マリーが《魅了の魔石》事件の容疑者であることはすでに知っている。

しかしその上で、ガラハッド会長が口にしたある点が気になった。

「ガラハッド会長。…………パトリック殿下もヴェラリス聖教を信仰されているのですか?」

「? ああ、そうだが」

不思議そうに首を傾げる彼にふと思案する。

彼が把握しているかどうかは知らないが、この国の王は代々《アスガルド神教》を信仰してきた。

それはこの国の貴族も同じで。

特にセレスティアの生家であるリュベル侯爵家は敬虔なアスガルド信徒なのは有名な話だ。

母親である王妃ならまだしも───他国の宗教を信仰する、次期国王候補。

考えすぎかもしれないが、その事実は王宮内の政治に摩擦を引き起こすのではないだろうか。