軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

タヌキは話を聞かない

「ありしゅた!」

私は着替え終わると、アリスターのところへ連れて行ってもらった。アリスターも細かい刺繍の入ったジャケットを着せられていたが、黒を基調としているのでそれほど派手ではない。

「リア! なんてかわいいんだ!」

アリスターは私を抱え上げるとくるくると回った。

「よーし、次は俺だ」

珍しくそう言って私を持ち上げ高い所でくるくると回してくれたのはクライドだ。

「ほーら、高いぞ!」

仲間内で一番大きなクライドに持ち上げられて、私は思わずキャッキャッと笑った。楽しい。いやいや、そうじゃない。残念だが、私はクライドに下に降ろしてもらった。

「ありしゅた、にーに、きてる」

「なんだって! リアの兄さんがか」

「あい! ありしゅたも、にーに、いりゅ」

「俺の? 兄さん?」

アリスターは私の言葉をそんな風に繰り返すと、誰とはなしに迎えの一行のほうを見た。着替えの手伝いに来ていた人たちはおそらく身分の低い人達だったので、誰も率先して口を開けずにいたが、ドリーが代わりに口火を切ってくれた。

「この者によりますと、どうやら領都には四侯の跡継ぎが二人来ていて、お一人は確かにリア様にそっくりだとか。ねえ、お前」

「は、はい!」

「もう少し詳しく聞かせておくれ」

ドリーがさっきの人にそう尋ねると、その人は目を輝かせてしゃべりだした。

「本当についこないだなんですが、キングダムから使者がいらして、それも四侯のうちオールバンスとリスバーンの二侯の跡取りだというので領都はもう大騒ぎで」

オールバンスとリスバーン。確かにそう言った。

「私達は普段は城で働いておりますが、お二方とも精力的に出歩くものですから、私達でもお見かけする機会がけっこうありまして」

なるほど。私もアリスターもどきどきしながら聞いていた。

「少し幼い方がルーク様とおっしゃって、その、リーリア様に本当によく似ていらっしゃる。もうお一方は大人のように大きいですがまだ14とのこと、そこにいらっしゃるアリスター様をそのまま大きくしたような方でございます」

「そうなのか」

「知らない。会ったこともないから」

ミルの言葉にアリスターはそっぽを向いた。私はギルを思い出す。アリスターより甘い、優しい顔だちだったように思う。似ているのは色あいだけのような気がするが、たまに見かけただけではやはりよく似ているということになるのだろう。

「にーに! どこ?」

領都が近くならば、もしかして来ているのではないか。

「それが」

着替えを手伝ってくれた人たちは気まずそうに目をそらした。

「最後までその、ルーク様は迎えに来るとおっしゃっていたのを、ハーマン様が」

ハーマン? あのタヌキおじさんか。私はお腹をぽんぽんとしてみせた。

「まあ、リーリア様、そ、その通りでございます」

下働きの人は思わず口元を押さえた。あちこちからくすくすと笑い声が聞こえる。

「そのハーマン様が、四侯ともあろうものがふらふらと落ち着きがないのは体裁が悪いとか、ここは自分が迎えに行くから城で待てだの言いくるめられて」

ちょっと待って。それをなぜ下働きのこの人たちが知っているのか。ドリーも不審に思ったようで、それを尋ねた

「あなた方、なぜそれを……」

「だって、出立のさなかにみんなの見ている前で大騒ぎですもの。これ以上騒ぎを大きくしないほうがいいと判断したルーク様がお引きになったのが私達にもわかりました。私たちはそれを間近で見ていたのですもの」

あのタヌキおじさんがいなかったら今頃に兄さまと会えていたのか。私はしゅんとなってうつむいた。

「リア様……」

ドリーがしゃがみこんで私の背中をそっと叩いた。

「めんどくせえなあ」

バートがぽつりとつぶやいた。そうだ、こんなところでうなだれている場合ではない。もう少しで会えるのだ。私は顔を上げると、ドリーに頷き、アリスターとバートたちのほうを見た。おや、バートたちも着替えていた。

「ばーと、みりゅ、かっこいい」

「そ、そうか。面倒だけど、リアが喜ぶんならまあいいか」

「だな」

「なんだよ、リア、俺たちは?」

もちろん。

「きゃろ、くらいど、ありしゅたも、かっこいい!」

みんなは照れくさそうに鼻の頭をかくと、にっこり笑った。

「さあ、仕方ない、行くか」

「あい」

「ああ」

バートの掛け声に返事をして、宿屋の一階に下りていく。階段の途中からでも王子がいらいらしているのがわかった。王子は顔を上げると、椅子から立ち上がって、

「お前……」

とつぶやいた。そうでしょう、愛らしいでしょう。私はニコッと笑ってみせた。部屋にほうっというため息のような声が満ちる。幼児はかわいいものなのだ。

「おお、やはり身分の高いものはこうでなければなりませぬ。先ほどのみすぼらしい格好とは比べ物にもなりませんな」

同じく立ちあがって体の前で大げさに両手を広げたのがぽんぽんタヌキのハーマンだ。

「さ、このじいじと一緒にラグ竜に乗りましょうな」

「にゃい」

反射的に言葉が出た。何を言っているのだこのタヌキは。見知らぬ人と一緒にかごなど乗るわけないではないか。ドリーがすっと前に出てきた。

「ハーマン様、リーリア様はおひとりでかごに乗られますゆえ」

「なんと! ドリー、そなた面倒を見る身でありながら、ずっとリーリア様をおひとりでラグ竜に乗せてきたというのか!」

ぐっと唇をかむドリーにハーマンが大げさに首を振った。私は王子を見て、早く行こうと合図した。王子はかすかに頷くと、

「さあ、ハーマン、リーリアはずっとそれでやってきたのだ。こんなことで時間を取るのは無駄だ。早く出発するぞ」

「殿下……」

「さあ」

ハーマンは渋々と同意した。領都に入るときに私を膝に抱えて、自分が迎えに行ったことを自慢したいのに違いない。本当に面倒だ。

各々がやっと竜に乗ろうという時、私はクライドがかごに乗せてくれるのを待っていた。バートたちは何かに手を取られていてなかなか来られない。その時、肉厚の手が私を後ろから掬い上げた。

「さ、リーリア様、なかなか供の者も来ないようす。このハーマンと一緒にかごに乗りましょうな」

「にゃい!」

「にゃいとは何ですかな。これ、暴れなさいますな。はい、これでよし、と。おい、扉を閉めろ」

「は、はい」

なんということだろう。バートたちが来られないでいる間に、私は肉厚のタヌキにさらわれて一緒にかごに乗る羽目になってしまっていた。周りの者も呆気に取られたようにそれを見ている。まさかタヌキがこのように素早く行動するものとは思わなかった。

「ひゅー!」

「リーリア、仕方ない。ここでもめるより、早く領都に行くことを考えよう」

「さあ、リーリア様、じいじのお膝に」

「にゃい!」

王子もあてにならず、私は不安定なまま肉の塊とかごに乗ることになってしまった。