軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

円卓会議3(ディーン視点)

「だから老害だというのだ。監理局はそう取られても仕方のない発言ではないか」

私の静かな声は意外と響いた。

「な、老害などと!」

「失礼、常々思っていたことがつい口から出てしまった。しかしそんなことはどうでもいい」

「ど、どうでもいいとは」

「そのように怒っていては倒れてしまいますぞ、年寄りは心を落ち着けて」

「誰が怒らせていると思っているのか」

「さて」

私の一言に監理局の者はぐっと黙り込んだ。

「ローグ殿、あなたがそう思うのはもっともだが、監理局以外はそんなことは言っていないことに気が付いてもらいたい」

「しかし」

「しかしではない。ウェスターから要請が来た。魔力もちを派遣してほしいと。ウェスターではたまたま四侯の血筋の者を見つけたので領都で保護しようとしている。事実はこれだけである」

私はローグ伯にそう淡々と指摘した。

「ちなみにトレントフォースに娘がいることはオールバンスでは既につかんでおり、救出隊を向かわせるところだった。オールバンスとしては、ウェスターに礼は言うが恩を着せられる理由はない」

私の落ち着いた話ぶりに円卓の興奮も収まってきた。そこでスタンが静かに話し出す。

「リスバーンでは二年ほど前に消息を絶った係累が発見されて嬉しいと思ってはいる。しかし、もともと本人が必要ないというのであれば特に連れ戻すつもりはなかった。よってウェスターに恩を着せられる理由はやはりない」

「それは」

「監理局が言いたいことはわかる。それなら監理局のものが連れ帰ればいいではないか」

老人二人はスタンの言葉にまたぐっと黙り込んだ。監理局の者は監理し、アドバイスするが、それは四侯が素直に従うことが前提であることを忘れがちだ。

「キングダムの決定がどうであろうと、私はウェスターに娘を迎えに行く」

「それは」

また監理局だ。

「私がキングダムを出られないのは承知している。わがオールバンス家は必ず迎えを出すということだ」

「リスバーンも同様に迎えは出す。しかし、相手も11歳。本人の希望を優先する」

私とスタンはこう宣言した。

「つまり、国としてどう判断しようと、オールバンスとリスバーンは動く。ではキングダムとしてはどうすべきかと、そう考えてほしい」

そうランバート王子が改めて提案した。それにブライズがいらだったように答えた。

「ならば最初からそのように言っていただければ」

「なに、オールバンスとリスバーンがと言う話になれば、自分の領地は関係ないと言い出すものが必ず出たはずなのでな」

この王子の言葉には目をさまよわせたものが何人かいた。私はそれをしっかりと観察していた。

「キングダムは結界に守られ、中の住民は安全に暮らしている。辺境は虚族が発生しても対策は取られているが、主に夜の活動や移動が制限され、不利益を生じているのは間違いない。だからと言ってキングダムにすべての民を集めることなど不可能。これはキングダム建国以来のジレンマだ」

王子が静かに言った。

「建国の思いが民を守ることであったことを考えると、キングダムに関係がないからという理由で、ウェスターの、領都の民を守りたいという願いを切り捨てることが正しいのかを、改めて考えてほしいと思うのだ」

王家といえど、円卓会議では一人の発言者だ。今回は議長でもあるが。それでも、王家の者が、ウェスターの要請に前向きな意見でいるということは明らかで、それは少なからぬ影響を参加者に与えた。

円卓をしばらく沈黙が支配したが、やがて声を上げたのはネヴィル伯だった。

「私は基本的にはキングダムが安易に他国に手を差し伸べるべきではないという考えだ。だが、オールバンスが何かしらの行動をとるというのなら、ネヴィルからは護衛を出そう。ネヴィルは武の地だからな。それから、必要なら魔力もちも改めて募ってみるが、正直なところ北の地にはそれほどの魔力もちはいないぞ」

先ほど反対に回っていたネヴィル伯が、反対だということははっきりさせつつも、オールバンスの側に立つとはっきり主張してくれた。

「ネヴィル殿、そなたは……、そうか、オールバンスの幼子は孫娘か、なるほど」

一人で納得しているのは同じ北部のダットンだ。

「それならわがコールターも、何かしらの援助は出そう」

先ほど中立であったコールターも動いた。当事者である四侯が自ら動くということに、監理局は渋い顔であった。しかし、各自の負担がそれほど多くないとわかると、伯爵たちは多くが賛成に回った。

「キングダムが定期的に魔力の補充を援助するというのは、懸念した者がいた通り現実的ではない。今回はウェスターから、四侯の血縁の者を条件に出してきたことを逆手に取り、とりあえずオールバンスとリスバーンの二侯が個人的に援助をするという形を取りたい。それをわが国も後押しするという形でな」

今まで黙っていた王がゆったりと口を開いた。私とスタンは頷いた。すでに王家と四侯では話し合っていたことだ。

「しかし、その負担が二侯にのみ偏るのは好ましくないし、逆にウェスターが二侯にのみ親しむというのも好ましくないだろう」

王家には関係ないという口調は、逆に伯爵たちをはっとさせた。今、協力を表明しないということは、やがて盛んになるかもしれないウェスターとの交易で不利になるということではないかと言うことに気が付いたからだ。

最終的には、キングダムは公的には要請には応えないが、個人としてオールバンスとリスバーンが協力、各領が何らかの形でそれを支援するという形に落ち着いた。

「しかし、協力すると言っても、先ほどコールター殿の言っていたように、四侯でも当主以外には大きな魔力もちはいないのが現状でしょう。いったいどのような形で協力されるおつもりなのか」

素直に頭をひねっているのはローグ伯だ。そのことについて話さなくて済むなら話すつもりはなかったのだが。

私はちらりとランバート王子を見た。王子は肩をすくめた。好きにしたらいいということだ。

「ルークを。息子を送るつもりだ」

「当然、わがリスバーンからはギルバートを」

円卓は一瞬、水を打ったように静まり返った。

「なりませぬ!」

「なんということを!」

「跡継ぎではないか!」

「四侯はキングダムの外には出られぬはず!」

悲鳴のような声が飛び交う中、ネヴィル伯だけは驚いたように目を見開き、静かに頷いてくれた。

ひとしきり騒いだ後、声を上げたのはブレイズだ。

「四侯の跡継ぎと言えば、次代の結界を支えるもの。決して失われてはならぬキングダムの共有財産のようなものです。それをあえて結界の外に出すとは、何を考えておられるのか」

正論である。

「失われてはならぬはずの共有財産が、なぜかウェスターに二人もいる。キングダムの中にいても安全とは言えぬことは確かだろう」

しかし私のこの言葉にそれ以上の反対は出なかった。

「ウェスターに出た後、あるいは出る前もだが、何かあればそれこそ大きな問題になる。何の問題もなく行って帰ってくると信じて送り出すつもりだ」

ルークは11歳、ギルは14歳だ。まだ若いどころか、幼いとさえいえる。しかし、リアを連れて帰るのに、彼らほど安心して任せられるものはいない。そう信じる。

こうして、ルークとギルを中心とした使者がウェスターに派遣されることになったのだった。