軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私と魔石とセバス

それからどうなったかって。お父様とは時間が合わないからと、朝会うことは相変わらずないが、仕事から帰ってくると必ず顔を出し、夕食後から寝るまで、何をするでもなく私と一緒にいてくれるようになった。

忙しい時は執務室にも連れて行ってくれる。お父様が難しい書類を片付けているところで、デスクを伝い歩きしてみたり、ソファによじ登ってみたり、落ちている書類を読んでみたりする。

面白がって少しでも読みやすい本を与えてくれようとするが、それはさすがに簡単なものしか読めない。それをお父様が少し和らいだような気がする鋭い目で時々見ているのを感じる。

兄さまの休みの日になると、これに兄さまがプラスされる。お父様はお休みでもそれなりに用事があるようで、きちんとした服を着て出かけることもあれば、どうやら馬に乗りに行ったりすることもあるようだが、そうでない時はたいてい私たちと一緒だ。

私たちが寝転んで絵本を見ていると、隣で寝転んで資料を読んでいたりする。仕事が大変なのだろうか。そもそも何の仕事をしているのだろうか。謎である。

「小さきものの視界は面白いな。ルークとリアはこんな風に世の中を見ているのか」

寝転がったままあちこちを見てお父様は感心したようにそう言う。

「私は見ていませんよ。リアだけです」

「なーい、にーに、おにゃじ」

「リアはお前も同じだと言ってるぞ」

「生意気な口め」

そう言って兄さまが私の頬をつまむから、寝転がって抵抗する。それを兄さまが捕まえて、お父様が兄さまを押さえ込んでと、お休みになるのが本当に楽しみになった。

私が一歳になろうとする頃には、兄さまにはお休みには遊びだけでなく魔力循環の訓練も始まった。私には、ただ座って目をつぶって集中しているようにしか見えない。それに私は、魔法というものを見たことがない。なぜ魔法がないのに魔力循環の訓練をしなくてはいけないのか。

「知っての通り、四侯爵家の中でもわがオールバンス家と、スタンのところのリスバーン家のところがこの国の結界を支えている。ルーク、お前の力は十分大きいが、大きいまま力を注いでも自分の命を縮めるだけだ。効率よく、無駄なく、魔石に魔力を注げるようにならなければならない」

お父様はいつもお兄様にそう繰り返す。これでやっと家名がわかったし、どうやら他にも貴族がいるらしいこともわかった。

「一世代に二人、紫の瞳が出ることはまれ。しかもリアにも大きい魔力を感じる。二人手を取り合っていけば、今よりずっと楽になるだろう」

この話を聞いて私はかなり驚いた。私にも魔力があるらしい。その力は、魔石に力を注ぐもの。私と兄さまとお父様にあって、ハンナやセバスにないもの。それを知る機会は案外早く訪れた。

ある日ハンナが部屋の灯りのところで何かをしていた。そんなことをしているのを初めて見た。

「はんな、にゃに」

ハンナは高い所にある灯りから何かを取り出し、私に見せてくれた。それはほんのりと赤い、小さな水晶のようなものだった。

「灯り用の魔石ですよ。そろそろ力が薄れてきたので、これに魔力を入れてもらうのですよ。そうするとまた使えるようになります」

「まりょく」

「はい」

私は少しは喋れるようになっていた。魔石とは、電池のような感じなのか。そしてお父様には魔力があるということは。

「とうしゃま、しゅる?」

ハンナは私の質問にくすくすと笑った。

「ご当主様の魔力はすべて結界のために使われます。私たちでも少し魔力があるものは入れられますし、でもだいたいは魔力屋にまとめて頼むのですよ」

そう言うとハンナは興味津々の私にその魔石を持たせ、自分はまた高い所に交換の魔石を取り付けに行った。交換する魔石は濃い紫色をしていた。

私は預けられた魔石をお座りしながらしげしげと眺めた。赤ちゃんの手に収まる小さな小さな石で、向こう側が透けて見える。これにどうやって魔力を入れるんだろうと握っていたら、ふと何かのスイッチが入るように自分の体から何かが魔石に流れ始めた。暖かいものがどんどん流れ出ていく感じ。立ちくらみの時、さーっと血が引くような感じ。それは始まった時と同じように、すっと止まった。

石は濃い紫に変わっていた。

立ちくらみのように思えたが、具合は悪くない。とすると、今流れたのが魔力なのだろう。そっと魔石を握りしめると、もういらないよというようにかすかに魔石から反発を感じる。もういくつか石を握ってみたら、魔力の感覚がもう少しわかるのに。

「リーリア様? 魔石がお気に召しましたか? ひいっ!」

ひいっとは、15歳の女の子にしては色気のない叫び声ではないか? 私は残念に思い首を振った。

「はんな、にゃい」

「にゃいとか言っている場合ではありません! どこか具合の悪い所は、ええ、とにかくセバス様に!」

そう言うハンナに魔石ごとさっと抱き上げられてセバスのもとに連れていかれた。そもそも、魔石を取り上げたほうがいいんじゃない?

「申し訳ありません。リーリア様は賢いから、魔石を持たせても食べたりしないと思って……」

ハンナがセバスに言い訳をしている。失礼な。そもそも何かをうっかり口に入れたりしたことなんかなくてよ? それに問題はそこではない。ハンナは時々本当に残念である。セバスは私を椅子に座らせると、膝をついて私の手を握り、目をのぞきこみ、首を触り、そうして椅子から降ろして少し歩かせた。

「ふうむ、冷えてもいない、熱も出ていない、顔色も正常、普通に歩ける」

そうしてほっとした顔をして私を抱き上げた。

「リーリア様、何をしたかおわかりですか?」

魔力をうっかり注いでしまったのだと思うのだが、何といえばいいか。私は手を振ってみせた。

「すーっと、にゃにかが、こう」

「手から何かがスーッと出たのですね」

「あーい」

「ふむ」

セバスは難しい顔をすると、ハンナに、

「とにかく、リーリア様に、魔石関係のものは一切近づけてはなりません。場合によっては体を壊すこともありますからね」

と言い聞かせた。

「はい」

ハンナは泣きそうだ。まあ、仕方がない。

「リーリア様?」

「あい」

「ハンナは仕方がないと思っている場合ではありませんよ」

「うえっ」

しまった。なぜかセバスは私の思っていることがわかるようだ。今度は矛先がこっちに向かってきた。

「ご当主が、なぜ賢いルーク様にあんなに訓練をさせているとお思いか。魔力を注ぐだけなら魔力があればできるのです。しかし自分の身に合わない魔石にいっぺんに魔力をそそぐと、命を縮めかねないのですよ」

「セバス様、そんなことリーリア様に言っても」

ハンナがとりなしてくれようとする。

「いいえ、リーリア様はおわかりです。リーリア様の魔力は多い。それでも万が一のことがあったら、ルーク様とご当主がどんなに悲しむか」

私はうなだれた。ただでさえお母様を失ってあんなに悲しんだ二人を、私が悲しませてどうするのだ。

でも待って? 魔石一つくらいなら? お父様かセバスが見てくれていたら?

「そんな目をしても駄目です。10歳から。それが決まりです」

ちぇ。ぽふっとセバスの胸にしがみついて、頭をぐりぐり押し付けた。

「くっ。だめです!」

作戦失敗。「危なかった」というセバスのつぶやきが聞こえたような気がしないでもない。魔力については、もう少し我慢だ。