軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

婚約はまだ早い

「もし婚約者を決めるとしても、ダイアナ、君と血筋が近いということはつまり、ルークにも血が近いということだろう。君たちの一族からは選ばないだろうな」

「あら、あなたと私との組み合わせだからこそ、優秀なルークが生まれたのよ。次の世代のことを考えたらむしろ賢い選択ではなくて」

そういう考え方があるのは知っている。

「いいか、もう一度言う。ルークにはまだ婚約者を決める予定はない」

「二人はずいぶん仲がよさそうだったけれど」

「あれは大人の話を聞かせまいとしてルークが気を使っただけだ」

「まさか」

ダイアナは本当にルーク自身に興味がないのだなとがっかりする。

それからは私にとっては面倒くさい沈黙が続いた。

「そういえば、四侯が分裂しているという噂があるのをご存知?」

ダイアナがふとそんなことを言う。私はそんなことは聞いたことがなかったので驚いた。

「そうなのか。どことどこに分裂しているのだ?」

「あなた。まさか本当に?」

「何がだ」

本当にイライラする。

「オールバンスがリスバーンをそそのかして他の二侯や監理局から距離を置こうとしているって」

「知らなかった」

私は正直に答えた。

「そんなことだろうと思ったわ」

ダイアナはあきれたようだ。

「あなたは不愛想でまったく女心のわからない人だけれど、同時に陰謀をたくらむような面倒なことはしない。それだけの熱量もない人だもの」

「ひどい言い方だな」

「でもね、そう思うのはごく一部よ」

その言葉に真剣なものがあることに気づいて、私は初めてダイアナの顔をきちんと見た。

「老けたな」

「大嫌いよ、そういうところ」

しまった、ついうっかり口に出してしまった。

「あなたがどんなに四侯の責務を嫌だと思っても、周りは当然だと思うし、力がある上に利益を享受するばかりでうらやましいと思うものなの」

「それは」

「そうではないと知っているのは身近な一部だけ。本当に一部だけなの」

ダイアナは私の言葉を遮った。

「できるならその力をそぎ落としたい、できるなら四侯に成り代わりたい、少しずつでも四侯に近い力をつけたい、たとえ自分の世代でなくてもと思う輩は多いということよ」

「お前の実家のようにか」

「……ええ、そうよ。わかりやすいだけましよ」

ダイアナはプイと横を向いた。そう言えば横顔のきれいな女だった。

「老けたが、相変わらず横顔は美しいな」

「そういうところも大嫌いよ」

ほめても怒る。どうしようもない。いつも怒り出すから始末に負えない。

「お父様」

「ダイアナおば様」

そうこうしているうちに二人が帰ってきた。チェルシーと言う少女は楽しそうに頬を赤らめている。ルークはいつも通りだ。

その後は、遊び疲れたチェルシーにルークがお茶を勧め、菓子を食べさせ、学院の話題を振り、それなりに楽しく盛り上げてくれた。

「それでは用件は済ませたし、これで失礼するわ」

「ああ」

そっけない私たちの挨拶とは違い、子どもたちは和やかだ。

「今日は楽しかったです」

「私もだよ」

「あの」

チェルシーと言う子は、ルークより幼いせいか、もともとの性格なのか、素直にこう言った。

「ルーク様と婚約すると聞きました。今日はそのために会いに来たと」

ルークは少し驚いたように片方の眉を上げた。

「それはどなたが?」

「えーと、おじいさまとおばあさまです」

「お父様やお母様ではなく?」

「はい。お父様とお母様、それにダイアナおばさまはまだ早いと」

ダイアナは面倒くさそうに顔をそむけた。

「でも、私ルーク様ならお嫁に来てもいいです」

チェルシーはにこにこしてそう言った。

「チェルシー」

ルークは困った顔をした。

「気持ちはありがたいけれど、私はまだ年端も行かず、学ぶべきことがたくさんある。婚約など考えられないんだよ」

「でも」

「いいかいチェルシー、お父様やお母様の言う通り、まだ早い。もっと大きくなってからのことだよ」

「はい。ではもっと大きくなってからまた来てもいいですか?」

チェルシーは無邪気にそう言った。ルークはこっそりため息をついた。

「庭を見に来るのはいい。でも婚約のためなら来ないで」

チェルシーは涙を目に浮かべた。それでもルークはごまかさなかった。

「婚約も結婚も、もっと大人になってからだよ」

「希望すら持たせないなんて、ちょっとどうかしら」

ダイアナはそう言うと席を立ち、チェルシーの肩を抱き寄せて帰ろうとした。そしてルークの顔を見ずにこう言った。

「でもそういうはっきりしたところ、好きよ」

そしてそのままさっさと帰っていった。

「あれがダイアナだ」

「はい。なんとなくわかりました。リアのほうがまだ大人だ」

「ぷはっ」

「お父様?」

「リア、確かに、ははっ、そうか、あの赤子らしからぬ割り切りのよさ、そういう性質かと思っていたが、大人だと思えばしっくりくるな、はは」

思い出すまいとしていたリアの姿がよみがえる。ドアの隙間からこっそり這い出して来るリア。気づいているはずなのに気づかないふりをするリア。それなのにキャッキャッとはしゃぐさまはかわいくて。

「リア……」

「お父様……」

ルークの肩に手を回すと、ルークの手は私の腰に回った。そのままリアに思いをはせていた時、ドアがノックされた。

「なんだ」

「ジュードでございます。至急の要件です」

「入れ」

ジュードは入ってくるなり、こう言った。

「お嬢様を捜させていたものが戻っております」

時が止まったような気がした。しかし私の腰に回っているルークの手に力がこもった。リア。

「すぐに会う。執務室へ案内しろ」