軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

余裕をもとう

こうしてやっと出発できた。久しぶりのラグ竜の旅だが、トレントフォースに来た時と違ってだいぶ体力も付き、辺境の生活もわかってきた私には余裕があった。

「ふんふん、ふーん」

「キーエ」

「ふん、ふーん」

「キーエ」

鼻歌を歌うくらいには楽しい。合いの手が入るのは仕方がない。

「おい」

「ふんふんふーん」

「おい、そこのとぼけた幼児」

おや? こんな呼び方をするのは一人しかいない。いつの間にか王子のラグ竜が隣に来ていた。

「りあでしゅ」

とぼけた幼児という名前ではない。

「リーリア」

まあ、リーリアでもよい。

「にゃに?」

「その変な鼻歌をやめろ」

「ブフォ」

これは絶対キャロだと思う。

「にゃんで?」

「ラグ竜がはしゃいで足が速くなる。予定が狂う」

それなら仕方ないか。

「あい」

「うむ」

私の素直な返事を聞くと、王子は先頭に戻っていった。しかし、せっかく楽しく鼻歌を歌っていたのに、これでは調子が狂うではないか。私は鼻歌を止めたが、頭の中で歌を奏で、それに合わせ手を振った。ふんふんふん、ふふーん。手はぶんぶん、足はぶらぶらだ。

「キーエ」

「キーエ」

「キーエ」

「おい」

ぶんぶん、ふふふーん。

「おい、とぼけた」

「りあでしゅ」

「……リーリア」

「あい」

ぶんぶん。

「それを止めろ」

「にゃんで?」

「ラグ竜がはしゃいでいるのが見えないのか」

「にゃるほど」

それなら仕方ない。王子は私のほうを何度も振り返りながら前に戻っていった。そんなに見なくても何もしないけれども。さて、することがなくなった。きょろきょろしていたら、ポケットががさっといった。

「おやちゅ」

町の人がくれたお菓子はまとめて荷物に入れてあるが、いくつかポケットにしまっておいたのだ。私はガサゴソしておやつを取り出した。

「キーエ」

私の乗っている竜が小さい声で鳴いた。

「だいじょぶ。おやちゅ」

「キーエ」

それならいいわ、と言った気がした。ポケットに入れていたお菓子は、紙でくるんでねじってあった。このねじねじを戻すのが案外難しい。ねじねじ、ねじねじ、っと。あと少し、

「あ」

「ブッフォ」

「ぐっ」

「キーエ」

落ちちゃった。まあ、後で拾ってたべればいいか。あと笑ったの絶対キャロだから。まったく。他にも何か音がしたようだけど、気にしない。さて、まだおやつがあったはず。ガサゴソ。

そうしているうちに、ラグ竜が止まった。皆やれやれと言うように竜を下りた。休憩かな? そろそろ私も下ろしてもらえるはず。クライドがなぜだか笑いながらやってきて、ベルトを外してくれた。

「リア、やるな」

「にゃにが?」

「なんでもねえ」

そして笑いながら、下に落ちたお菓子を手渡してくれた。ふむ。紙が付いたままだから大丈夫だろう。私は最後のねじねじを戻して、紙から出したおやつをあーんと、

「いけません、お嬢様!」

止められてしまった。ドリーだ。おそらく落ちたものだからとかなんとかいうのだろう。私はそう言われる前に急いでお菓子を口に入れた。

「あっ」

もぐもぐ。クッキーだ。おいしい。もぐもぐ。そして近くの護衛の人に、

「おみじゅ、くだしゃい」

とお願いした。思わずふたを開けて渡してくれた水筒に口をつけてごくごくと飲む。

「ああ、コップにも注がずに!」

向こうでドリーの悲鳴のような声が聞こえる。

「ありがと」

「どういたしまして」

私のお礼に護衛の人の顔が緩む。

私は満足してアリスターたちのもとにさっそうと歩いて行った。

「ちょっと休憩だってさ」

アリスターがそう教えてくれた。

「あい」

私はアリスターの隣に座り込んだ。

「お嬢様が! 地面に直接! なんということ!」

面白い人だ。

「こちらに椅子をご用意してありますので、さあ」

ドリーのほうに振り向くと、そこには簡易な椅子とテーブルがセットされ、そこにお茶と軽食が用意されていた。私はこの短い間に用意されたことに感心した。しかし、

「いりゃにゃい。みじゅでいい」

別にお茶が飲みたいわけでもないのである。

「ほら、水」

アリスターから水を分けてもらう。おやつは今クッキーを食べたから大丈夫。

「休んでいる間に、ちょっと遊んでこようか」

「あい。ふえ、ちゅくって」

「ああ、プーってなるやつか」

「あい」

アリスターと二人で立ち上がって、草を探しに行く。

「お嬢様! 危険です!」

「キーエ」

ドリーだけでなくラグ竜まで何か言っている。

「おばさん、大丈夫だから。みんなの目に見えるところで遊ぶだけだから。竜も、大丈夫」

「キーエ」

ラグ竜は納得してくれたようだ。

「お、おばさん……」

ドリーが倒れそうだ。そのすきに遊ぼう。ちゃんとみんなの目に見えるところで、草を取って葉っぱをむしってもらい、笛を何本か作ってもらう。

そうこうしている間に休憩は終わったようだ。次の休憩はお昼だろうか。

「出発!」

王子の声と共にラグ竜が動く。草原を渡る風は秋の気配がして、風になびく草も少し黄色みを帯びている。夏になる前教えてもらった草笛の茎も、心なしか前より硬くなっている。

私はちょうどいい大きさに切ってもらった笛をポケットから取り出した。

「プー」

「キーエ」

「プー、プー」

「キーエ」

うむ。いい音がする。さあ、もう一度。

「おい」

「プー」

「おい、とぼ」

「りあでしゅ」

「……リーリア」

「あい」

また王子か。私はちょっとうんざりした顔をしてしまったと思う。

「お前、私のほうがよほどうんざりなのだが」

「プー」

「そ、れ、を」

「プ?」

「や、め、ろ」

別にラグ竜は平気そうだが。

「そののんびりした音がイライラする」

「よゆう、にゃい」

「なんだと?」

王子は竜を止めて、かごを開けると私から笛を奪っていった。横暴な。隊列はまた進みだす。

仕方ない。のんびりした音が嫌なら、のんびりしていなければいいのだろう。私はポケットから別の草笛を取り出した。これは少し短く作ってもらった。さっきのより長いやつもある。

「ピー」

「キーエ」

「ピー、ピー」

「キーエ」

これはのんびりした音ではないだろう。

「ピ、あ」

「残りも出せ」

「……」

「休憩時間に吹いてもいいから」

「ブッフォ」

これはキャロではないような気がする。私は渋々笛を渡した。

「私は無事に領都にたどりつけるんだろうか」

王子はそうつぶやいて先頭に戻った。もっとゆったり生きたらいいと思う。