軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハードモードすぎない?

さらったものたちがキーンと結界を抜けた途端、虚族が揺らめき、集まっていたところから何体かがこちらに向かい始めるのが見えた。

「ちっ、思ったより虚族の反応が早い」

「すぐそこの木立までだ。急げ」

私ははっと目を見開いた。この声は記憶がある。

「こいつをさらう機会をうかがってたら二週間もかかっちまった。この町にとってはぜんぜん大事じゃないだろうに、なんでそこまでするかね」

偽の使者だ。

「さ、ラグ竜に乗りさえすれば虚族は振り切れる。急ぐぞ!」

確かに虚族はまだすぐそばまで来ていない。そして黒く浮き上がっていた木立の陰にはラグ竜が二頭、つながれもせずに隠してあった。

「こっちはどうする!」

「町長の娘か! 騒がれるとうるさいから連れて来たが、足でまといだ。このまま捨てていく」

そんな馬鹿な! このまま置いていかれたら、助けが来る前に虚族に命を吸われてしまう。

このままではまずい。私は小さい体で思い切り暴れ始め、エイミーも必死で暴れた。その結果、

「あっ」

エイミーは木立のそばに放り出されてしまった。呆然としている。私をさらった方は暴れる私を抱えなおし、ラグ竜に乗ろうとした瞬間、やっと私の口から手を離した。

「えいみー、おおきいこえ、だちて!」

「リア!」

私を呼んでいる場合ではない。

「だちて!」

「こいつ、あ、いて!噛みやがった」

口を抑えようとした手に少ない歯でかみついて、そして私は、

「ぎゃー!」

と叫んだ。エイミーも叫んだ。

「ちっ、屋敷の奴に気づかれたぞ! いそげ」

「ぎゃー! やー! らぐりゅう! たしゅけて! りゅう!」

とりあえず手近にいるのはラグ竜だ。もう一人はすでに竜に乗っているが、ラグ竜が私の声に反応して落ち着かないのでバランスをとるのに精いっぱいだ。

「りゅう! たしゅけて!」

「キーエ!」

何も乗せていないラグ竜が不安そうに私に口で触れようとするので、私を抱えた男はなかなか竜に乗れない。

「急げ! 虚族がもうすぐそこだ! やばい! 先に行くぞ!」

「待て!」

一人は先に行ってしまい、残された男は振り向くと、

「わあっ」

と叫び私を放り出した。

「ちっ」

そう舌打ちすると、ラグ竜のたづなを無理やり引いて飛び乗り、虚族から逃れるように走り出した。

「キーエ!」

心配そうなラグ竜の声だけ残して。

「うう」

「リア!」

何とか起き上がると、エイミーに抱え込まれた。どうやら無事なようだ。

「エイミー! リア!」

屋敷のほうから声がする。結界ギリギリからここまで距離はおよそ50メートル、あるかどうか。

「離せ! エイミーを助けに行くんだ!」

「なりません、レイ! ハンターがいなければ、レイも私たちもやられるだけです! 早く! 早くハンターを!」

「離せ! ローダライトの剣ならその腰にあるだろう! 虚族がもうそこに!」

「あの数では我らでは焼け石に水だ!」

レイの声に顔を上げると、木立にはもう、虚族が迫っていた。

「えいみーだけなりゃ」

走って間に合うか。エイミーは私を抱きしめてブルブル震えている。

「むり。はちれにゃい。おいつかれりゅ」

私も走ったら?

「りあ、ちってる。ほんとはよちよち」

走ったとしても歩いているのと変わらないのだ。

私は、抱き着いているエイミーの肩の上から空を見た。もうほとんど夜になる。町のハンターは狩りに出ている時間だ。

助けは、来ない。

「ちかたにゃい」

やれることをするしかないのだ。

「えいみー、ちゃんとしゅわって」

「リア?」

「ちゃんと。そう」

エイミーには虚族は見えない。膝立ちではなく、ちゃんと座らせる。

「しょして、と」

エイミーに抱えられるように私も座る。

「リア?」

「このまま、うごかにゃい」

私は目をつぶった。魔力を外側に。私とエイミーを覆うように。そして魔力の質を変えていく。結界と同じものに。

ヴン、と。

「きゃあ!」

「うごかにゃいで!」

結界がずれてしまう。

すぐそばで虚族を感じる。手を伸ばせば届くところに虚族はいた。結界を大きく展開しすぎたら、魔力がなくなってしまう。バートやアリスターは必ず迎えに来る。それまでこの結界を持たせなければならない。

「こわいわ」

「こわくても、うごかにゃい。りあ、まもりゅから」

「リア」

エイミーは私をしっかり抱え込んだ。それでいい。

自分の魔力で作った結界だ。虚族が当たると、ヴン、という振動が直接響く。目の前には森の生き物もいる。兎だろうか。イノシシのようなものもいる。そしてもちろん、人間も。これがすべて、虚族だ。

「エバンスさん……」

「えいみー?」

「知ってる、この人、知ってる。助けて、助けてエバンスさん!」

「うごかにゃいで!」

立ち上がろうとしたエイミーを私は大きな声で止めた。

「だってリア」

「えばんす、だりぇ」

「ノアの、お父さんよ。ノアの」

「おもいだちて、ノア、おとうしゃま、いにゃい」

「虚族に、襲われて、なくなった……」

この虚族に襲われたのだろう。襲った生き物の姿を写し取る。それが虚族なのだから。

「父さん! 父さん!」

「違う! あれは虚族だ!」

ノアの声が聞こえる。

ヴン、と結界が揺らされた。喋りながら結界を維持するのは厳しい。それにこの虚族は力が強いような気がする。

「えいみー、しじゅかに」

エイミーは力なく頷いた。

ヴン、ヴンと結界は揺らされ、隙間なく虚族に囲まれる。油断すると魔力は結界から変質し、普通の魔力に戻ってしまう。

「はやく、はやく、ばーと、ありしゅた」

「リア! エイミー!」

空耳だろうか。遠くにアリスターの声が聞こえるような気がする。

「はやく、はやく」

虚族の気配が薄くなった?

「ばーと、ありしゅた」

エバンスと言われていた人が、肩から斜めにずれて、しゅっと消え去った。その後ろに見えたのは。

「ばーと、ありしゅた……」

どうやら幻ではないようだ。

「リア! よくやった!」

「さあ、こっちにおいで!」

「えいみーは」

「大丈夫だ」

いつの間にかエイミーは私の後ろからいなくなり町長に抱かれていた。よかった。それにしても。

「ようじには、ちゅらしゅぎる」

私はあおむけに倒れた。

「リア!」

それを誰かが受け止めた。きっとアリスターだ。でもね、疲れたんだよ。

「リア……」

少し休ませてね。