軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

さわやかに

夕食にはカルロス王子も参加したが、ジャスパーはまだ部屋のようだ。

「夕食後に騒がせた謝罪をと言っていたので、時間を取ってもらえるとありがたい」

と言ったカルロス王子だが、夕食の時は先の話は一つも出ず、王都の知り合いの近況の話を聞いて終わった。

そのまま応接室に移動すると、迎えに行ったカルロス王子と一緒に、ジャスパーが入ってきた。

「ジャスパー!」

私は立ち上がって大きな声で名前を呼んだ。

「ジャスパー、ひさしいな」

ニコも笑顔を見せる。

ジャスパーは私たちに懐かしそうな目を向けると少しだけ微笑んで、すぐに真面目な顔になった。

少し休んでだいぶ回復したようで、ほっとする。

「お久しぶりです。まさかキングダムの皆さんがいるとは思わず、無礼な振る舞いをしたことをお詫びいたします」

「殿下も私たちも、何も気にしていないよ。事情は従者から聞き及んでいるから、謝罪の必要はない」

マークがキングダム側の気持ちをまとめてくれた。

「思わず家を飛び出してきてしまいましたが、本来なら先頭を切って復興の指示を出さねばならない立場です。明日にはグレイソンに戻ります」

「それで、いいのかい? リアやルーク、それにニコラス殿下とは友だちなんだろう?」

マークがゆっくりと確認する。

カルロス王子ではなく、直接キングダムの友だちに頼ることもできるんだよという、遠回しのアドバイスだ。

ジャスパーは何かを諦めたようにさっぱりした顔で、首を横に振った。

「確かに、そういう気持ちもあったから、カルロス様にすがってしまったんです。キングダムと親しいから、カルロス様に頼ってなんとかしてもらおうなんて、情けない。危うくファーランドとキングダムの国交の邪魔をするところでした」

この一行がどういう用件でファーランドに向かおうとしているのか、カルロス王子から聞いたのに違いない。

ということは、カルロス王子は、ジャスパーに手を差し伸べずこのまま領都に向かうということだ。

二人がそう決めたのなら、キングダム一行が口を挟むことなどない。

だが、私はただのニコの話し相手である。

聞きたいことは聞くし、言いたいことは言う主義だ。

「ジャスパー、きかせて?」

私はジャスパーのところに歩み寄ってにっこり笑うと、その手を引いて、椅子に座らせた。

「何を、だい?」

従者の話し方ではなく、初めてネヴィルで顔を合わせた時のように、砕けた口調が嬉しい。

「グレイソンのげんじょうと、ほしいものを」

何を言われたのか頭に入ってこなかったのか、ジャスパーは首をほんの少し傾けた。

「げんじょう、と、ほしいもの……」

なかなか理解しないジャスパーに、兄さまが畳み込んだ。

「何日前に山火事が起こったのか、今はどうなのか、民はどうしているのか、物資は足りているのか。これから集まる支援物資のあては。今一番必要なものは。リアの言っているのはそういうことです」

「いえ、それは……」

ジャスパーが慌てて見上げたのは、カルロス王子だった。

どう答えるべきか、そもそも答えていいことなのかの確認だろう。

「カルロス、あなたはジャスパーの求めに、どう答えるつもりですか?」

兄さまはカルロスが答える前に、鋭く問いかけた。

「あーあ、カルロス王子の選択に任せるって自分で言っていたのに」

マークが大きなため息をついた。

「オールバンスが、そんなお利口じゃないことくらいわかってたはずだ、私は。だって、あのディーン殿のお子で、リアの兄だぞ。何度いろいろなことに巻き込まれてきたか」

「しつれいな。がくいんほうもんくらいでしょ、リアがマークをさそったのは」

マークのせいで、兄さまの鋭い質問が台無しである。

と思ったら、マークと私の話が聞こえないくらいに、兄さまとカルロスはバチバチに視線を交わし合っていた。

「私はキングダム一行を親善大使使節として領都に連れていく公務の途中だ。グレイソンのことは遺憾に思うが、領都はグレイソン領がまず自分で復興に力を注ぐべきと判断した。私は王子としてそれに従うしかない」

「従うしかないですって。腰抜けですね」

「に、にいさま?」

こんなケンカ腰の兄さまは初めて見た。

「リアが仲良くしなければいけないというから、ずっと我慢してきましたが、あなたには本当に芯がない。いったいなん何のために生きているのですか」

「そこまで言うかい?」

マークの突っ込みはとりあえず放っておいて、私は驚いて立ち上がろうとしているジャスパーの膝に両手を当てて止めた。

「だめ。きいてて」

カルロス王子は肩をすくめた。

「何のために生きているのかなんて、なぜ考えなくてはいけないんだい? 私は第一王子だ。いずれ王になるために日々努力して過ごすのに、そんなことを考える必要はないだろう」

「このままでは、王にならないかもしれないとしても?」

そこまで突っ込むか、と誰もが思ったに違いない。

「それは余計なお世話じゃないか?」

「王にならないとしたら、あなたの今まではいったいなん何のためにあったんですか? そして、これからどうやって生きるつもりなんです? グレイソンがやっと復興して普通の生活に戻れたとして、そこに住む民が納めた税金を使って、のんびり王族として過ごすおつもりですか?」

「それは……」

いきなり詰め寄られても答えられないだろうなと、兄さまの勢いに押されるカルロス王子がちょっと気の毒になる。

だが、それよりもこんなに熱くなる兄さまを初めて見た私は、そっちの方に驚いていた。

他人のことなんてどうでもいいというように、一歩距離を置いているのが兄さまなのである。

そういうところは実はお父様にそっくりだといつも思っている。

まあ、お父様の場合、本当に他人はどうでもいいのだが。

「やめてください! カルロス様に、無理をお願いしようとした私が悪いんです! 今、余計なことをしたら、それこそお立場が悪くなってしまう。侍従を経験した私だからこそ、してはいけないことでした……」

私を払いのけられずに、中腰の姿勢で必死にで主君自分をかばうジャスパーに、両脇にだらりと垂れていたカルロス王子の手がぎゅっとこぶしを作る。

何も感じていないわけではないらしい。

「王になることですらどうでもいいなら、なぜくだらない指示に唯々諾々と従っているのか。友のため、思うがまま動いたらいいのです。臆病者め」

兄さまはさげすむようにカルロス王子をにらむと、すっと視線を私に向けた。

私を見る目はもう、すっかり優しく変わっていた。

「リア、私は行ってもいいでしょうか」

私は、にかっとかっこよく笑って見せた。連れて行ってほしいとは言わない。

だって足手まといだから。そのくらい、わかっているのだ。

「うん、いいよ。リアのあったかポシェット、ありったけもっていって」

「はい。ころころ考えが変わって、ごめんね」

私はぐっと親指を上げた。

「じんせい、いろいろ。りんきおうへん!」

「ありがとう」

兄さまはくすっと笑うと、今度はジャスパーと視線を合わせた。

「リアの許可も出ましたし、私が一緒に戻りましょう。ひとまず、現地を見なければ対策の立てようがありません」

「何を言っているんだ、ルーク。君にだって、領都に行く親善大使という役割がある。そんな場合じゃないだろう」

兄さまは、カルロス王子を無視してジャスパーに話し続けている。

「ジャスパー。君と私は、友だちでしょう? 偶然とはいえ、話を聞いてしまった以上、黙っているわけにはいきません。リアにも叱られてしまいます」

わたしは叱ったりしないけど、ここは空気を読んで黙っておく。

「オールバンスは今回、友のために動きます。領都へ行く前に、友だちの領地に立ち寄るだけのことです。旅の途中ゆえ、今の手持ちの札ではたいしたことはできないけれど、小さい結界箱ならいくつかあるから、それだけでも役には立ちませんか?」

「はい! 領内をかき集めても数個しかなく、この状況でハンターから借り受けるわけにもいかず……。結界箱があれば虚族を気にせず夜でも活動できる。一個でも二個でも本当に助かります」

ジャスパーの目に涙がにじんだ。

「もしかしたら、私がここに来てしまったことは、ファーランドとキングダムの将来にも、カルロス様の将来にも影を投げかけるものかもしれない。それでも今は、手が差し伸べられるのならどんな手にだってすがりたい」

ジャスパーの目には覚悟があった。

「私は、将来より、今の領民の命を守りたい。カルロス様、申し訳ありません」

カルロス王子は手をぎゅっと握りしめたまま、黙って部屋から出て行ってしまった。

「カルロス様……」

「いい年した大人なんだから、自分の機嫌くらい自分でとるでしょ。さあ、ジャスパーだったか。君、最初からやり直すよ」

マークが何もなかったかのような顔で、話を進め始めた。

「リア、お願い」

「うん、わかった」

マークのお願いを受けた私は、本当に最初からやり直す。

「ジャスパー、きかせて。グレイソンのげんじょうと、ほしいものを」

「は、はい」

おおよその話は、従者が話していたが、山火事のあった場所はミラル山地、グレイソンの領主館のあるディーブルという町が三分の一ほど焼けてしまったそうだ。

「建物を壊すことでなんとか延焼は防ぎ、山火事も鎮火した状態ですが、山地のほうから虚族が押し寄せて来て、現在では日が陰ったとたん、まるで山からだけでなく、町からも湧き出すように虚族が出る状態です」

「冬で夜が長い分、民の活動時間が限られるうえ、普段出てこない町中にも出てくるというわけか」

「はい。焼け出された町の人で空いた建物は埋まり、救援が来ても物資を置く場所も滞在する場所もなく、結界箱をかき集めていますが、持っているのは主に商人かハンターで、どちらも今、動いてもらわねばならない存在ですから、無理は言えません。どこを優先するべきか、悩ましい状況で」

「それで結界と言えばキングダムに、とひらめいて、すぐに飛び出してきてしまったというわけか」

「カルロス様がキングダムに行かれるという話は聞いておりましたから」

長期的には、家を建て直すための建材や、窓枠などに使う虚族よけのローダライト、短期的には食料や衣類などが必要だが、これらは領都だけでなく、他の領地にも支援を求めたので、いずれは集まるだろうという。

「では、何より結界箱が必要だということか。結界箱がありさえすれば、虚族を減らすことも、町の再建も早いだろうからと」

「昼の寒さもあり、領主館も、空いている場所はすべて領民の避難場所となっています。たくさんの人が詰め込まれ、争いごとも多いです。不満はたまる一方で、その中で、領都から救援がないとなったときの絶望感とい言ったら……」

「そんな状況だからこそ、第一王子が視察に来たという一点だけでも領民からの評価が上がるというのに、あいつは!」

兄さまはまた怒りが再燃している。

「いいんです。無茶な願いだとわかってはいました。むしろ、キングダムの皆様にはなんとお礼を言っていいか」

「まだどれだけ役に立てるかわからないから、感謝は後にしましょう」

とりあえず、兄さまはジャスパーと一緒に竜に乗ってできるだけ急いでグレイソンに行くことになった。

「できるだけ身軽に行きたいので、持っていくものは結界箱とあったかポシェット、それから自分たちの食料と必需品ですね。ハロルド」

「は、はい!」

兄さまにいきなり呼ばれたハロルドが肩を跳ねさせた。

「護衛のメインはお前だ。遅れをとるなよ」

「そ、そんな。いえ、はい! 承知いたしました!」

返事の最後はやけくそだっただろう。

「ルーク様。護衛と荷物持ちと合わせて、ハロルドの他に三人付けます。物資なしの四侯など行っても意味がないですから、荷物持ちに合わせた速さで、焦らずお願いします」

ハンスがハロルドの起用について何も言わないということは、護衛がハロルドで大丈夫ということだ。

私もちゃんと頼んでおこう。

「ハロルド、にいさまをたのみます」

「誠心誠意、努めます!」

兄さまはハンスと概要だけ決めると、細かい手配をするために、ジャスパーを連れて部屋を出て行ってしまった。

「マーク、ニコ殿下、リアを頼みます。領都で再会しましょう」

さわやかに言い残して。