軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

家族旅行はいいものだ

私たちがラグ竜を乗り回している間、お父様にファーランド一行の相手をしてもらわなければならない。

申し訳ない気持ちはあったが、それはお父様が屋敷の中に戻っていくまでのことだった。

「ラグりゅうに~」

私はみんなの前で片手を空に突き上げた。

「のるぞ!」

「おー!」

「お、おー!」

ノリのいい兄さまに一瞬遅れて、みんなが片手を空に突き上げてくれた。

満足である。

とはいえ、私はまだかごに乗るか、大人に乗せてもらうことしかできない。

おじいさまの大きなラグ竜に乗せてもらおうと一歩踏み出そうとすると、ナタリーが急いで屋敷から走ってきた。片手に何かを持っている。

そういえば朝食の後から見当たらなかったと気がついた。

身支度なら一人でできるからまったく問題はないが、ナタリーには珍しいことだ。

「リア様、ルーク様、これを懐に」

「なあに? あっ、これは!」

それは小さく平べったいポシェットのようなものだった。

受け取ると、ちょうどいい温かさが手のひらに伝わる。

「リア様が作った予備のマールライトを使って、ひそかに作成しておきました。上着の中で肩からかけておけば、ポケットがなくても大丈夫かと思いまして。それに、体験者が私だけでは、評価が十分とは言えませんからね」

ナタリーが得意そうに胸を張り、珍しくたくさんしゃべっている。

肩からかけて上着の中にしまうと、ちょうどお腹の当たりに当たるようになっている。

「これは工夫しましたね」

兄さまもニコニコだ。

ネヴィルの皆さんが興味津々だが、まずは遊ぶことを優先してくれた。

「俺の分は?」

自分の胸を指さすハンスは、期待に目をきらめかせているが、ナタリーはにべもない。

「ありませんよ?」

「そ、そんな」

「ハンスは寒さに強いはずです。さあ、ちゃんとリア様をお守りしてください」

絵にかいたようなショックの表情を顔に浮かべたまま、それでもハンスは、おじいさまのラグ竜に私を乗せて、さらにおじいさまの上着の中にすっぽりと納まった私を見届けてから、自分もラグ竜に乗った。

仕事のできる護衛なのである。

ちなみに、私が鞍に落ち着いてすぐに、オールバンス考案の、子どもを包み込むコート急造版でおおわれている。

昨日到着してすぐに、こういうものは作れないかとお屋敷の人に頼んだようだ。

おじいさまも私もそれぞれ厚着をしているが、その上から二人まとめてポンチョのような上着を着る。私はその上着から顔だけ出して、手はしっかり鞍をつかんでいる。

ふとナタリーから預かったポシェットを思い出し、お腹側から背中側に移動させる。

これでおじいさまにも少し暖かさが移るとよい。

「おお、リアの体温で私まで温かいな。この服は少し動きにくそうだが、なんにしても試してみないことにはな」

おじいさまはハイと声を掛けて、竜をゆっくり歩かせる。

視界は良好、風がさえぎられて、寒いのは顔だけだ。

「あったかーい」

「ふむ、裾がひらひらと落ち着かないが、ラグ竜には影響なし。思いのほか暖かいな。リア、竜を走らせてもいいか?」

「もちろん!」

おじいさまは何もない草原を、少しずつスピードを上げながら竜を走らせていく。

「フー!」

本当はヒャッハーと叫びたいところだが、ラグ竜が驚くと困るので小さな声で歓声を上げる。

「キーエ!」

小さな声だったはずなのに、ラグ竜はちらりと私のほうを見ると、大きな鳴き声を上げた。

わかったわ。もっと速くってことね、小さい子。

「え? ちがうよ」

「キーエ!」

「キーエ!」

隣を走っていた兄さまのラグ竜も、後ろを付いてきていたハンスのラグ竜も、何なら近くにいたラグ竜全部が、大きな声で鳴き始めた。そして足取りも軽くなる。

「ちがうよー、ただ、たのしいってきもちをね、こう、あらわしていたというか、あー!」

「おい! お前たち! チッ、仕方がない、ルーク、付いて来いよ」

おじいさまが少し慌てた声を上げたが、すぐに竜に合わせ、私のお腹に左手を回した。

「はい!」

兄さまがやや前傾姿勢になったのが見える。

見えたのだが、グンとスピードを上げたラグ竜に運ばれて、すぐに見えるのは前と通り過ぎる草原の景色だけになった。体が上下に跳ね、冷たい風が頬に当たり、目ににじんだ涙は凍り付きそうだ。

「キーエ!」

「ハハハ!」

だが面白い。

跳ねる体のてっぺんから、王城でたまった何かが天へと抜けていくような気がする。

「はしれ! はしれ!」

「キーエ!」

「キーエ!」

鞍をつかんでいた手がしびれて動かなくなった頃、気がつくとお屋敷の前に戻ってきていた。

「どうどーう」

走っていたラグ竜は徐々にスピードを落とし、やがてゆっくりと止まった。

「おもしろかった! ありがと、りゅう」

「キーエ」

どういたしましてとラグ竜が頭を上下に動かす。

「一度降りようか」

おじいさまが上着を外すと、草原の冷たい風が体に当たりお思わずぶるっと震えた。

ハンスの伸ばした手に私を預けようとしたおじいさまだが、私の手は固まってしまって鞍から離れない。

「リアはすぐに無茶をするから。本当は怖かったのではないか?」

寒さと緊張で固まってしまった指を、おじいさまが一本一本外してくれる。

「こわかったけど、すかっとしたよ」

ようやっと手が外れたので、おじいさまからハンスへと私が受け渡される。

「リア、心配しましたよ。おじいさまが落とすわけがないとわかっていても、すごい速さでしたからね」

兄さまも心配して眉根が下がっている。

「すごいはやさでも、かおいがいは、ぜんぜんさむくなかった!」

「それは私もです。リアとおじいさんの着ていた上着もそうですが、やはりこれはいいものです」

兄さまが抑えたお腹を、おじいさまが興味津々でのぞきこむ。

「これとはなんだ?」

兄さまが答える前に、私はおじいさまに背中を向けて、首の後ろからひもを引っ張った。するすると、首のところからあったかポシェットが出てくる。

「じゃじゃーん。けいたいよう、あったかポシェットです」

いい加減、正式な名前を決めなければならないが、今はこれでいいだろう。

「温石か? 熱の魔道具か? いずれにしても、幼い子どもが持つには危なすぎる」

おじいさまは眉をひそめると、私からあったかポシェットを急いで受け取り、手袋を口でワイルドに外して、温度を確かめた。

「これは……。もう冷めたのか? いや、まだ温かい? というか、冷えた手に心地よいぬくもりだな」

おじいさまはしばらく放心したようにポシェットを握り締めていたが、冷たい風が吹き、私がぶるりと震えたのを見て、慌てて抱き上げた。

抱き上げても冷たい上着に当たるだけで大して温かくはならない。むしろポシェットを返してほしい。

「おじいさま、それは一定以上温度の上がらない安全な、ええと、あったかポシェットです。リアに返してあげてください」

「ああ、すまない」

兄さまとおじいさまの奮闘で、あったかポシェットは無事私の背に戻ってきた。

「子どもを抱えて竜に乗ったのは久しぶりだ。子どもとはこんなに温かいものだったかと思っていたが、これがリアの背中に潜ませてあったせいだったか」

上着越しでも温かさを感じたのなら、なかなかよい結果が出たのではないか。

「私のほうも温かかったですよ」

兄さまの声に、ハンスは不満そうな顔をした。

「俺は寒かったですね。冬にラグ竜の早駆けは、なかなかにつらかったです」

「まあ、ハンス。口が過ぎますよ!」

ハンスの気安さはオールバンスでは大目に見られているが、さすがにここは客先だ。

私にならともかく、おじいさまのすることに不満があるようなそぶりはアウトである。

私が主として叱らねばならないと思っていたら、待機していたナタリーが先に叱ってくれた。

「申し訳ありません。失言でした」

ハンスは一歩も二歩も下がって、頭を下げた。さすがに言い過ぎたと自覚したようだ。

「かまわぬよ。ラグ竜はなぜか、リアとルークがいるとはしゃいでしまうようだからな」

「キーエ!」

わかっているのかいないのか、おじいさまに返事をしたラグ竜に場はなごみ、ハンスの失態は不問となった。

「ハンス、気が緩んでいるわよ。しっかりなさい。ほら、これ」

下がったハンスに、ナタリーがスカートのポケットからあったかラグ竜を出してそっと手渡している。

「おいおい、ナタリーが冷えちまう」

「私はお屋敷で待機なので大丈夫です。最初から渡しておけばよかったわ」

ナタリーはハンスの手にラグ竜を押し付けると、もう用はないとばかりに正面を向いてすんとしている。

「ありがとうな」

ナタリーがかすかに頷いたような気がするが、どうだっただろうか。

私意外、誰も気がつかなかったとは思うが、不器用な二人のやり取りに、心までぽかぽかと温かくなるようだった。

竜に乗って、走って、降りて、それで外遊びが終わりなわけがない。

活躍しようと待っていた、私の小さなラグ竜のミニーにも乗らなければならない。

「りゅう! 今度はミニーのかごにのりたいの!」

「キーエ!」

ミニーの声に応えて、近くにいたラグ竜が大きな顔を寄せてくれる。

私が顔にしがみつくと、ミニーの籠の上で止まってくれたので、私は手を放してぽすんと落ちた。

「ミニー! しゅっぱーつ!」

弾むように歩き出したミニーの後を、皆が慌てて追いかけてくる。

流れるような私と竜のやり取りに、とっさに反応できなかったようだ。

「こら! リア! 待ちなさい!」

「ハハハ!」

ミニーはお利巧だから、全力で走ったりしない。

今度は駆け足ではなく、踊ったり歌ったり笛を吹いたりしながら、ラグ竜と一緒に楽しく過ごしたのだった。

ミニーから降りたら兄さまと追いかけっこだ。

走っているうちに、地面に珍しい綿毛を見つけてじっと観察していたら、今度こそ本格的に冷えてしまった。

背中が温かいせいで汗をかいたからかもしれない。

「さむくなってきたから、おうちにかえる」

私がすっくと立ちあがると、隣で一緒に綿毛を観察していた兄さまも立ち上がって背伸びをした。

「やっとですね。でも楽しかったな」

兄さまと手をつないで、おじいさまに見守られながら家に戻ると、もう昼食の時間になっていた。

王城でニコとクリスと過ごすのも楽しいが、椅子に座るのではなく、思いっきり動き回ることのなんと楽しいことか。

「頬がリンゴのように真っ赤だな」

屋敷の入り口では、お父様が外に迎えに出てくれていて、私はすぐに抱き上げられた。

「えい!」

「つめたいっ!」

頬をくっつけると、思わずお父様も叫んでしまったほどに冷たかったらしい。

「おとうさまで、かおをあっためるさくせん」

「その作戦はどうかと思うぞ」

苦笑するお父様は、言葉とは裏腹に反対側の頬も差し出してくれた。なんと寛大なことか。

「お父様は嬉しいが、温かい飲み物で温めたほうがいいのではないか」

「それ、さんせい!」

「ちょうど昼食の時間だからな。さあ、手を洗いに行こう。ルークも」

こんなに楽しいことばかりなのに、おじいさまの家に着いてまだ二日目なのだ。

家族旅行って素晴らしい。