軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

発表会

そして、発表会当日がやってきた。

会場となる王子宮の図書室には、兄さまこそ来られなかったが、なぜか生徒のいないモールゼイまでやってきて、四侯そろい踏みといったところだ。

その他にも、見かけたことのない人たちも何人もいたが、図書室はとても広いので、全然問題ない。

あまり見かけたことのないニコのお母さんも来ていて、ニコが張り切っているのが微笑ましい。

そして発表会のトップは私が飾る。

やはり見ごたえがあるのはニコの発表なので、それを真ん中に持ってきて観客を飽きさせないようにという工夫である。そしてクリスのお茶会でなごやかに会を閉めようという作戦だ。

さて、虚族のことについてはニコが説明するので、私はウェスターにしかない産業を中心にした発表だ。もともとはクリスがウェスターに興味を持つための組み立てなので、交易とか難しいことは避け、ファッションに特化した説明をする。

「ウェスターのりょうと、シーベルからにしにむかうとちゅうにあるまち、それがクレストです」

黒板にはオッズ先生が地図をかけてくれている。

私は台に乗って、オッズ先生が昔ニコを叩くのに使っていた細い棒でクレストをトントンと指し示す。

なぜかくすっという笑い声が聞こえたりもするが、今は発表に全集中だ。

「クレストは、ぬのとレースのまちです。ナタリー、みほんのぬのを」

「はい」

アシスタントのナタリーが、手に持ったピンクの布を教壇にふぁさっと広げると、会場の女性たちから感嘆の声が上がる。

「つぎに、レースを」

「はい」

ナタリーが細かい模様のレースを、布の上に丁寧に並べていく。

「よくみたいひとは、ちかくでどうぞ」

女性陣はためらいもせずに席を立つと、布とレースをしげしげと観察している。

「レースはおおきなこうぼうであまれているものと、おうちであんで、こうぼうにおさめるのと、にしゅるいあります。ふくざつなあみかたは、おうちであむひとがおおく、めずらしいから、たかねでとりひきされます」

「この左側のレースがそうね。この複雑な模様、キングダムでは見たことがないわ」

私からするとおばあさまに当たる世代のご婦人が、興味深そうにレースに手を伸ばしている。

「いってんものです。そして、りゅうつうりょうがすくないので、キングダムには、いまはリスバーンをとおしてしかはんばいされていません」

正確には、キングダムとは取引はなかったが、ウェスターに行ったときにギルが販路を開拓してきたばかりなのである。もちろん、ジュリアおばさまは知っていて、ニコニコと私を見ている。

「また、このあわいピンクのぬのですが、げんちでは、やすいからしょみんがきるふくにつかいます」

「まあ。こんなに美しいのに、なぜかしら」

このおばあさまのおかげで授業がスムーズだ。

「いろがあわいのは、そめるかいすうがすくないから。いろがこくなればなるほど、こうかになります」

「そういう理由なのね、なるほど」

ふむふむと上品に頷くご婦人の横で、私は台の上で、その布地を使ったスカートをひらめかせた。

「でも、こうして、こいいろとかさねたり、くみあわせたりすると、とてもかわいいの」

オールバンスの衣装班が鋭意作成した、もうすぐ四歳になる三歳児を最大限かわいらしく見せる配色だ。

「ちくちくするから、こどもにはレースをつかわず、あわいピンクをかさねてふわっとさせています」

ちくちくしない、これ、大事。

「おとなようにしたてると、ナタリーのきているようなドレスになります」

モデルのナタリーが着ているのは、淡いピンクとグレーを組み合わせた、落ち着いた印象のドレスだ。

これには女性陣だけでなく、男性陣からも反応があった。

「クレストはぬのとレースのまちでしたが、にしのはしのトレントフォースは、もっこうのまちでした」

今度はハンスが、トレントフォース産の積み木セットを教壇の下に並べ、教壇のレースの上にそっとアリスターの作った箱を置く。

「うみのそばには、おさかなをたくさんうっているまちもありました。ウェスターは、とてもおもしろかったです」

私はこれで終わりというようにぺこりと頭を下げ、盛大な拍手をもらった。

たったそれだけかって?

もともとクリスに興味を持ってもらうための組み立てである。できるだけ短く、できるだけ実物を見せ、できれば手に取ってさわれるように。

その工夫を凝らした発表なのだ。

私は満足して、階段になっている台からしずしずと一人で降りた。

もっとも、クリスは練習のときに実物をさんざん見ているので、本番ではただニコニコして私を眺めていただけだった。

私の発表からニコの発表までの間に、私が置いた布や木工を見にわいわいがやがやと人が集まっている。正確にはナタリーとハンスだが。

「リスバーンに言えば手に入るのね」

授業に参加してくれたおばあさまが、ジュリア叔母様をロックオンだ。

「おばあさま。クレストのレースのハンカチは、わたしがおみやげにわたしたでしょう」

ニコがあきれたようにおばあさまの手を引いて椅子に座らせようとしている。

「もちろん、あれはここぞというときに持って歩いているわ。ほら」

おばあさまはどこからかニコが買っていたレースのハンカチを取り出して見せた。

「でもね、これはほら、レースの模様が違うのよ。だからね」

「だからねではありません。それはあとにしてください。次はわたしのはっぴょうですから」

苦笑したニコは、このできごとのせいかかえって落ち着いたようだ。

というか、この上品なおばあさまは、現王妃様ではないか。ほとんど見たことがないから気がつかなかった。

「さあ、それでは次にニコラス殿下の発表になります」

オッズ先生の進行の声に、見学していた皆さんはさーっと席に戻り、侍女や護衛が急いで布や木工を片付けた。私が使った地図はそのまま残されている。

ニコも私が使った台に、指示棒をもって静かに上がる。

こうしてみると、初めて会った時のふくふくとした幼児から、少しほっそりとした子どもにとずいぶん成長したように思う。

「わたしはウェスターにまねかれて、りょうとシーベルをおとずれ、それからウェスターをおうだんし、ファーランドをけいゆして、ついこのあいだおうとにもどってきた。はじめからおわりまでかたろうとすればいくにちかかるかもわからぬゆえ、へんきょうならではの工夫についてふれたいと思う」

指示棒で地図をたどりながらのこの出だしは、オッズ先生と皆で意見を出し合ってこの形になった。

ニコの経験の概要と、発表の主題とをわかりやすく。

「まずキングダムとへんきょうのちがいはなにか。それは、けっかいのあるなしであり、けっかいのあるなしとはつまり、きょぞくがでるかでないかのちがいである」

私のようにゆるい話だと思った人がいたら、度肝を抜かれただろう。

ニコの話も最初はクリスに聞かせるためだったが、発表会という形式に変わったため、少しばかり王子らしさをアピールする、大人向けの内容となっている。

「わたしはウェスターで、きょぞくのいるくらしをしてきた」

ここで一拍置いて、皆を見ることで注目を集めましょうと、オッズ先生の指導が入っている。

「きょぞくのいるくらしとはなにか。それは、よるにいっぽも外に出られないくらしだ」

私やニコ、クリスのような子どもは、そもそも夜に外に出ないのでピンとこないが、集まった大人たちには動揺が見られた。

「人々は日の出とともにかつどうをはじめ、日がしずむまえにいえにいそぐ。しょみんはけっかいばこなどこうかすぎて手が出ないから、よるがあけるまで外に出ることはない」

ニコは静かに話を続ける。

「よるにみせがひらくこともなければ、よるのみちを人があるくこともない。しずかなとおりに、きょぞくがゆらりゆらりとさまよいあるく」

私たちも夜には家の中にいたけれど、ガラスの窓から外を眺めることができた。

「そうまでしても、すきまがあればきょぞくはいえの中に入ってくる。だから、ウェスターではいえの出入り口やまどに、ローダライトのけんざいをつかう。ここへ」

ニコが指示を出すと、護衛がローダライトの原石と、ローダライトを使った窓枠とを持ってきた。

「あれはうみべのニクスの町に行ったときのことだ」

ニコは地図のニクスのところを指し示す。

「とまるはずのやどの、まどわくのローダライトがなにものかによってこわされていた。そのせいで、まえのきゃくがとまったとき、やどにきょぞくがしんにゅうしたそうだ」

ニコの話はすっかりと見学者の心をつかんでいる。

「わずかなゆだんが、しにつながる。そのさまを、わたしは見てきた」

ニコはそこから、キングダムの結界に守られた町トレントフォースへと話を移し、旅をすることの楽しさ、大切さを語った。

「キングダムに住む者は、けっかいに守られているというじかくをもっともつべきかもしれぬと思った。いじょうでわたしの話はおわりだ」

ニコには私以上に盛大な拍手が送られ、それはしばらく鳴りやまなかった。

本当はもっと恐ろしい経験をたくさんしてきたのだと、私は大声で伝えたかったが、ここはそういう場ではない。夏休み後の課題の、単なる発表の場にすぎない。

拍手が鳴りやんでも、ニコの素晴らしい発表に対して語る人々の声が止まらない。

その間に、クリスはニコのお母様と一緒にお茶会の準備に入った。

「さて、それでは場所を移して、クリス様と一緒にお茶会をいたしましょう」

オッズ先生の声と共に、侍女が皆を一階に案内する。

私もめったに入ることのない、広いダイニングルームの入り口で、クリスの発表はニコのお母様と一緒にお客様を迎えるところからスタートだ。

身長の合う相手ならニコなのだが、今日はニコはおばあさまのエスコートだ。私はお父様と並んで、入り口のクリスにご挨拶する。

「きょうはおまねきいただき、ありがとうございます」

「よくいらっしゃいました。お話できるのをたのしみにしていますね」

年相応に、無理せず、でもしずしずと。ニコと同じ金髪と、透き通った水色の瞳のニコのお母様がクリスの隣で微笑んでいる。ニコはお母様似かもしれない。

案内されて、お父様にクッションで底上げされた椅子を引いてもらい、素直に抱き上げてもらって座る。

クリスは、私たちがウェスターからお土産に買ってきた茶葉を使ったお茶の説明をし、お茶の席らしい話題選びをし、ホストとして見事にお茶会を乗り切った。

最後にオッズ先生が立ち上がり、お茶会を終える挨拶をする。

「本日の発表は、これでおしまいです」

大きな拍手がおさまると、オッズ先生は言い足りないというように続けた。

「今日の授業は、子どもたちがすべて自分で考えたもので、私はときおり助言をするだけでした。よろしければ、もう一度拍手でねぎらっていただければと思います」

温かい拍手が続くなか、私たちはクリスのもとに集まった。

「さて、このまま昼食の用意がございます。気軽なものですので、ぜひご参加を」

ニコのお母様の合図で、お茶会の席はそのまま立食パーティへと変わり、発表会は無事終わったのだった。