軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リアの奨学金

なぜかジュードが胸を張り、お父様がそわそわし始めた。

「で、リアの欲しいものはなんだ? ちょうど明日はお休みだし、何時に業者を呼べばいい? いや、家族で出かけるのもいいな。ジュード、リアの衣装班を呼べ!」

「まってまって!」

私は暴走お父様を止めるべく、椅子に座っているお父様の膝に抱き着き、お腹に顔をうずめた。

嬉しくて泣きそうなのをごまかすためでもある。

買い物に行くのはもちろん嬉しいが、それ以上に、私の買い物に行くと言わず、家族でお出かけと言ってくれたことが胸に響く。

オールバンスは、三人で家族。何も言わなくても、兄さまも一緒だとお父様が考えていてくれることが、何よりうれしい。

だが、そんな感動に浸っている場合じゃない。

「ちがうの。ものがほしいんじゃないの」

私は一生懸命に説明した。

「ひとがほしいの」

お父様の執務室に、一瞬沈黙が落ちた。

それから、キングダムでは人身売買は行われていないこと、それは四侯でも王族でも許されないことを三人からこんこんと説かれたが、いい加減話を聞いてほしい。

「リアは、しょうがくきんをだしたいの!」

「奨学金?」

ようやっと三人の声が重なった。

「もう」

私は腰に手をあててぷん、と頬を膨らませた。

魔石に魔力を補充する仕事は、魔石が大きくなればなるほどお金がもらえるというのは、ウェスター暮らしで知っている。もはや魔石の充填は趣味のようなものだから、いくつやったかも覚えていないが、人ひとり学院に通わせるくらいは稼いているのではないかと思ったのだ。

「リアがしょうがくきんをだして、がくせいをひとり、たすける。ふたりでもいいけど、たすけたがくせいは、がっこうがおわったら、なんねんかオールバンスではたらいてもらうの。リアといっしょにまどうぐやはどうかしら」

私は腰に当てた手を今度は胸の前で握り合わせて、キラキラとお父様のほうを見た。

「なんとかわいいことか……」

お父様は椅子から立ち上がると、ふらふらとにひざまずき、私をそっと抱きしめた。

だが、私はそんなお父様をぐっと押しやった。

「かわいいかどうかは、どうでもいいの」

「そんな……」

押しやられたお父様はショックを隠せないが、本当にどうでもいい。

「リアがしょうがくきんをだせるくらい、おかねはある? ってききたかったのに」

それだけの話がこんなに時間がかかるとはなにごとかと言いたい。

「仕方がありませんよ。リアは行動的なようでいて、いつも自分のやりたいことは我慢してしまうから。リアがなにかをお願いするかもと思ったら、お父様じゃなくても舞い上がるに決まっています」

兄さまの隣でジュードが深く深く頷いている。

やりたいことは遠慮なくしているつもりなのだが。

「リアの帳簿を見た限りでは、今あるお金で、学院六年間の学費、数人分は余裕で出せるでしょうね。一〇人は無理かな」

兄さまがやっと最終回答をくれた。下級貴族の家が建つお金で、学院の学費、数人分。

学院がどれだけお金がかかるかよくわかる話だ。

「ぜんぶたすける、いちぶたすける、おかねをかすだけ、やりかたはいろいろあるとおもう」

私は、いつの間に全員ひざまずいて私と目線が同じになった三人と目を合わせた。

「おかねのあるひと、みんながすきなように、たすけたらいい。でもリアは、おかねをだすなら、しょうらいリアをてつだってくれるひと、ひとりかふたりのためがいい」

無償で何かするほど、善意の人ではない。

「ふうむ」

お父様が床にどかっと腰を下ろし、顎に手を当てた。

どうやら真剣に考え始めたようだ。

「幼児が奨学金を出すなどありえないことだが、やり方を工夫してみたらどうなる?」

兄さまもお父様の隣にすとんと腰を下ろした。

「リアが出すというなら、私も出したいです。私自身の商会も人手が欲しいですし、優秀な人材が確保できるなら、それに越したことはありません」

兄さまは、いろいろな生徒に目を付けていると言っていたので、卒業まで待たなくても人材に声をかけられるというのは魅力的なようだ。

いや、待て。

「にいさまの、しょうかい?」

「ええ。お父様から、少し販路を分けてもらって、自分で魔道具の商会を運営しているのです。リアとニコ殿下の魔道具は私が扱っています。ありがたいことに、なかなか順調なのですよ」

それはわざわざ魔石に魔力を入れて稼ぐ必要はないというものだ。

というか、兄さまはいずれオールバンスの事業をすべて引き継ぐ人だ。

そもそも私みたいにちょこちょことアルバイトをする必要はないのである。

「私からも、お願いしたいことがございます」

いつの間にか同じように床に座っていたジュードが、いきなりそう言いだした。

「ルーク様が人手を確保するなら、ぜひ、侍従候補になるものをお願いしたいのです」

「私は侍従はいらないよ。今までも専属はいなかったし、私生活に立ち入られるのはむしろ不愉快だから」

兄さまは軽く眉をひそめている。

兄さまにもお父様にも、屋敷にいるとき、着替えを手伝ったり身の回りの世話をしたりする侍従の役割をする人はいる。でも、確かに一人に固定はされてはおらず、何人か交代でやっている印象である。

「確かに、ご当主のルーク様も一人でいることを重んじられる。しかし、ルーク様に侍従が付けば、そのまま次の世代の執事候補として早くから教育ができます」

確かにジュードは、屋敷の人材確保に悩んでいた気がする。

「ルーク様の時代を見据えることも大切かと」

「なるほどな。お前も出身は伯爵家だったか」

「伯爵家とはいえ、小さい領地の三男ですから、いずれどこかに婿入りするか、自分で仕事を探すかせねばなりませんでした。もちろん、学院もでておりますよ。私のような立場の者は、学院にいる間に卒業後の進路が決まっていたら、どれだけ気が楽なことかと思います。ひも付きの奨学金は願ってもないことですな」

ひも付きの奨学金、いい得て妙である。

「オールバンスの事業は拡大傾向だから、人手はいくらあってもいい。商会を中心に、屋敷の使用人。実はレミントンを当たろうと思っていたが、学院経由で人材を確保できるなら、それもいい。オールバンスとして奨学金を出してもいいし、親ごと抱え込んでもいいな」

「お父様。我が家ばかりそれを推し進めては、オールバンスばかり利を得ると言われかねません」

「自分たちは静観していたというのにか?」

「ええ」

お父様と兄さまだって、私が言い出さなければ、この状況を静観していたではないかと私は言いたい。

「ぷー」

膨れた私に、お父様が慌てて機嫌を取ってくる。

「もちろん、リアが最初に考えたことだとも」

「オールバンスの奨学金の名前は、リアの名前を取って、リーリア基金と名付けましょうか」

自分でも一度、「リーリアの奨学金」と考えたくせに、実際に自分の名前が基金に付いてみると、なんとなくいやなのはなぜだろう。

「それはいや。でも、やっぱりリアもじんざいをかくほしたい」

話が大きくなって、奨学金を私個人じゃなくてオールバンスがやることになってしまうなら、それでもいい。勉強したい人がたくさん救われるなら、それはそれでいいことだから。でも、やっぱり最初に思いついたことは大切にしたいのだ。

「では、将来リアの役に立つ人、私の将来の執事候補、商会や屋敷で働けそうな人など、幅広く候補を上げてみましょうか」

「うん」

それなら私も満足である。

結局、次の日はおしゃれをして家族みんなでお出かけをすることになり、お父様のお金で買い物を楽しんで楽しく過ごした。

だが、私が疲れて昼寝をしている間も、夜寝た後も、お父様と兄さまとジュードは、長いこと何かを話し合っていたようだった。

そして奨学金の話は、いつのまにかとても大きな話になっていたのだ。