軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

牧場のリア

クライドが4頭、アリスターが2頭、ラグ竜を引いて町の南側のほうの人気が少ないほうに移動する。幸い、誰かに見られることはなかった。

「ラグ竜は群れたいからな。よほどの事情がない限り、こうして牧場に預けるんだ。それで必要な時だけ借りる」

アリスターが説明してくれる。

「各町には牧場の管理の人がいて、必ずしも同じ町にラグ竜を返さなくてもいいから便利な仕組みだぞ」

「あーい」

そんな話をしている間にも牧場にやってきた。柵などない、ただ広い草原に、たくさんのラグ竜がくつろいでいる。手前のほうに小さめの小屋と、その横に飼料を入れてあるらしい大きな倉庫がある。

「さあ、管理人を呼んで」

「キーエ」

「おい!」

クライドが管理人を呼ぼうとした時、ラグ竜が大きい声で仲間に呼びかけた。そのとたん、地響きと共にラグ竜が一斉に集まってきた。

ラグ竜は私の乗っているかごを揺らす。降ろせと言っているのだ。

「しかし、うっかり踏みでもしたら」

さすがにこの頭数の多さにクライドも戸惑う。しかし、これでは話が進まない。

「おりりゅ」

そう言ってアリスターに降ろしてもらう。しかし、地面に降ろさず抱いたままだ。その間にクライドがラグ竜からかごを外した。

「キーエ」

ラグ竜たちは私とアリスターに一通り鼻をくっつけると満足し、一頭、また一頭と離れていった。

「キーエ」

かごをつけていたラグ竜が、行きますよと私とアリスターを押す。

「駄目なんだ」

「キーエ」

どうして? アリスターの言葉に、ラグ竜がそう言っているような気がした。

「俺たち、仲間のところに帰らなきゃ」

「キーエ」

大丈夫かしら。

「ちゃんとご飯も食べるから。旅の間も大丈夫だっただろ」

ラグ竜はクライドをじっと見て、アリスターを見ると仕方ないわねと鼻息をふんと吐いて、ようやっと自由にしてくれた。

「驚いたな。ラグ竜がこんなに人に懐くなんてな」

「ああ、管理人さん。こないだケアリーまで借りた竜を返しに来たよ。勝手に戻っていったけどな」

アリスターが私をそっと下に降ろしながらそう言った。

「ああ、ラグ竜に飲み込まれる前に、こちらに歩いてくるのを確認したから大丈夫だ」

管理人はそう頷くと、私のほうを見てこう聞いた。

「ところでこのちびはなんだ」

クライドもアリスターも何も言わない。

「リアでしゅ」

黙っていようと思ったが、皆の圧力に負けてつい言ってしまった。

「ケアリーのそばで拾ったんだ。どうも何かの事件に巻き込まれたみたいなんだが、草原にたった一人でな」

「そうか、お前親はどうした」

管理人はしゃがみこんで私の顔を覗き込んだ。

「おまっ、これ」

そうして驚いて立ち上がり、クライドとアリスターを交互に見た。

「小さいからちゃんと喋れないだろ。何があったかわからないが、国境警備隊に預けるよりましかと思って連れて来た。ケアリーに戻るのも面倒だったし」

クライドが珍しく長くそう言った。

「かといってお前ら、アリスターだけでも目をつけられてんのに」

アリスターが何に目をつけられているというのか。

「領都はケアリーのまだ西側だし、遠い。往復二か月かかる。トレントフォースにいるアリスターに手出しをする権利はないし、直接来るには遠すぎるだろう。それにリアは、この小さいのはまだ一歳だぞ。何かに利用されるかもしれないとわかっているなら、ましてそうですかと素直には差し出せないだろう」

クライドが今までで一番長く喋った。

「トレントフォースの町自体はいい町だ。だけど、気を付けてやれよ」

「ああ」

「それにしても、これが竜の仮親か」

「仮親?」

管理人は聞きなれない言葉を出した。

「竜は緩い群れを作ってるだろ。どこかの群れに何かがあれば、残されたものは新しい群れが引き取る。特に幼い竜は、必ずな」

「それが仮親か」

「だが、それが時々他の動物の赤んぼや、人間にも適用されることがあるんだと」

「それでリアがかまわれていたのか」

なるほど。

「でも、他の動物をラグ竜のえさで育てられるわけがないから、結局死んじまうことが多い。このまま連れられてたら、たぶん死んでたな」

それは怖い。

ラグ竜に大事にされていたから、お父様と離れてしまった。でも、ラグ竜は身を挺して虚族からかばってくれた。トイレには行かせてくれなかったけど、いつも見守ってくれていた。

「キーエ」

ちゃんと世話してもらうのよと、そう聞こえた気がした。ありがとう。ラグ竜。

「さ、リア、行くぞ」

「あーい」

アリスターと手をつないで歩く。てくてく、てくてく、町まではそう遠くないはず。てくてく、てくてく。

「なあアリスター」

「わかった」

一生懸命歩いている私の横で、二人は何やら相談すると、クライドが私をひょいと抱き上げた。

「いや。ありゅく」

ずっとかごの中にいたのだ。少しは歩きたい。

「な、リアだって、早く俺たちの家見たいだろ」

それは見たい。でも。

「よちよち歩いてたんじゃ、夜になってもつかないぜ」

そう横から話しかけるアリスターを私はきっとにらんだ。

「よちよちしてにゃい!」

「え、ええ。えーと、てくてく?」

それでいい。

「なあ、リア。古いけど広い家だぜ」

「あーい」

クライドの言う新しい家を楽しみに、アリスターの抱っこより高い場所を楽しむことにした。

「たかーい」

「そうか。俺背は高いからなあ。ほーら」

頭の上まで抱え上げてくれた。きゃっきゃと喜ぶ私を見て、

「俺だってそのうち大きくなる」

とつぶやくアリスターだった。でもアリスターが大きくなった頃には、私も大きくなっているのだった。残念。

町に入ると、さっきはほとんどいなかった人がちらほらと見え、そのうちの一人がクライドに気づいた。若い女の人だ。

「あら、クライド、久しぶりね」

「あ、ああ」

クライドが少し不愛想に答えた。少し体が硬くなっている。顔を見上げると、嫌なのでも怒っているのでもなく、単に緊張しているだけらしい。

「あら。赤ちゃん? まさかクライドの?」

「違う! 仕事の途中で拾ったんだ」

「まあ、いいことをしたのね。すてき」

その人は手を胸のところで握り合わせた。

「す、すてき?」

「だって、なかなかできることじゃないでしょ? クライドが小さい子を抱えているとちょっといいわね」

「い、いいい?」

確かに大きい人が、小さい子を抱えていると微笑ましいものだ。

「今度その子連れてうちの雑貨屋にいらっしゃいよ。何か似合うもの見繕ってあげる」

「ああ」

「みんなにも言っておかなくっちゃ! またね」

「ああ、また」

これはいいお客を見つけたという商魂たくましい女の子のようだ。クライドはぼそっと口にした。

「俺、いまもててた?」

「もててにゃい」

とっさに答えてしまった。クライドは不服そうに私を見た。

「なんでだよ。絶対いい感じだったって。キャロにもミルにも教えてやらないとな」

「クライド、かも」

「かも? かもってなんだよ」

ねぎをしょってくるかもなんてこの国にいただろうか。

「リアがわけわかんないのはいつものことだろ。行こうぜ」

もててももてていなくても興味のないアリスターの声で、クライドはやっと動き出した。結構みんなハンサムだと思うんだけど、なんでもてないのかな。

「女心がわかってないんだよ」

アリスターが横を見ながら小さい声でそう指摘した。

「なんだアリスター」

「なんでもない」

11歳のほうがわかってた。