軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

トレントフォース一日目

「それにしても、ヒューバート殿下、なんというか、ずいぶん雰囲気が変わりましたな」

「私は何一つ変わってなどいないが」

「ハッハッハ。ずいぶん優しい目で小さい人たちを見ていますよ」

「なっ! そんなことはない!」

そこをそんなに強く否定する必要があるだろうか。

「あの時の寒々しい交渉を思い出すと、今のこの状況は今の季節にふさわしい春の陽だまりのようですよ」

「当時も寒々しくなどなかった」

話が弾んでいて、並んで歩いている二人は仲良しなのではと思うほどだ。

「ファーランドのお方も、申し訳ありませんが屋敷まで歩いてもらっても大丈夫ですかな」

「竜車にも乗り飽きていたので、かえって都合がいいくらいだ」

カルロス王子も絶好調である。歩きながら爽やかに手を振るので、町のお嬢さんやお母さんたちから黄色い歓声が上がっているのもいつものことだ。

「これだけはありがたいと思いますよ」

兄さまがこそっとギルにこぼしているのを聞いてしまった私である。

「カルロス殿下のおかげで、俺たちが愛想を売る必要がないからな」

「全くその通りです」

だが、私はカルロス王子が愛想を売ろうが売らなかろうが、やっぱり手を振る。

なぜかというと、こんな声があちこちから聞こえるからだ。

「リア、おかえり! 大きくなって……」

元気だったよと、一人一人に返すわけにもいかないから、私はにっこりと笑って手を振るのである。

「もうよちよちしていないなんて……」

そんながっかりした声も聞こえるが、そもそもよちよちなどしていなかった。

ブレンデルの店の前を通って、山の方に向かうと、やがて町長の屋敷が見えてくる。

こうして改めて見てみても、ケアリーの町長の屋敷よりはだいぶ小さい。それでも町の人が避難できるように大きな部屋があったりと、辺境にしては充実した屋敷なのである。

「この人数が泊まれますかね」

兄さまの途方に暮れたような声に、バートがブフッと噴き出した。

「さすが兄妹。リアもちっちゃいって言ってたよなあ」

「それは四侯のお屋敷に比べたらそうでしょうが」

町長が困ったように笑った。

「俺、キングダムに行ってリアんち見てきたけど、ほんとに大きかったぜ。ウェスターの城より大きいかもしれねえ」

これはキャロだ。大工の仕事もしていたので、建物には目が行くのだろう。ちょっとわからないという顔をしていた町長に、キャロは言い直した。

「ケアリーの町長の屋敷よりもずっと大きかった」

「ああ、それなら想像ができるよ」

領都はトレントフォースから遠すぎて、町長も行ったことはないのだという。

「あのケアリーだからちょっと下品かなと思うがそんなことはなくて、同じ町長でもこうも違うのかと思うほど立派なお屋敷だったな」

ケアリーは行ったことがあるよと目を輝かせた町長にキャロが何気なく話を振る。

「そのケアリーの町長の話は聞いたか?」

「なんのことだ?」

私たち一行に緊張が走った。道中のどの町も、ケアリーの町長が罪を犯して領都に護送されて行ったという話は私たちより先には届いていなかったが、やはりトレントフォースにもまだ届いていないのだ。

「それはまた後で話す」

そうしてその日はとりあえず町長の客室でお世話になることになった。

ヒューだけでなく、なぜファーランドのカルロス王子までやって来たか。そして何より、なぜ私たちキングダムの一行までトレントフォースに来ているのか。

大人たち、というか兄さまやギルまで含めて、大きい人たちは夜まで真剣に話をしていたが、私はと言えば何の役にも立たないので、ニコ、そしてレイとエミリーと一緒にいつも遊んでいた部屋に送り出された。

「なつかしい」

ここにいた当時、何やら怪しい人影が見え隠れするようになったせいで、日が暮れるとここに預けられて、夜にバートたちが迎えに来るまで過ごした部屋だ。

「リアがいなくなってからもね、ここが子どもたちの遊び場になっているのよ。働いているお母さんお父さんには好評なの」

エイミーが指さした先には、たくさんの積み木や、古いラグ竜のぬいぐるみなどが置いてある。

「積み木も試作品は全部ここに来るから、いろいろな物があるよ。ニコだっけ、遊んでみないかい?」

レイが優しくニコを誘う。ニコは素直に目を輝かせると、積み木の方に向かった。レイは私がいたころも面倒見がよかったが、たとえキングダムの王子様だろうと分け隔てなく面倒を見る方針のようだ。町長としての素質がある気がする。

「アリスターも誘ったんだけど、仕事があるからって断られちゃったんだ。ここにいた時も確かに働いてたけど、なんだかずいぶん大人っぽくなっちゃってさ。ちょっと悔しいな」

私はエイミーとラグ竜の方に向かいながら、窓から見える暗い外の方も少し気になっていた。

アリスターが仕事というからには、それはバートたちが仕事だと言ってるのと同じことだ。バートの仕事と言えば、最近はハンターではないが、ハンターで慣れているから、夜に出かける仕事をすることも多いと言っていた。何か気になることでもあるのだろうか。

私はぶるりと震えると、気を取り直すように肩から掛けているラグ竜を外した。気にしても仕方がないこともある。

「新しい着せ替えがあるのよ」

「たのしみ!」

レイとニコがきっと積み木でお城を作ってくれるだろう。私とエイミーはそこでラグ竜を遊ばせるのだ。私もエイミーも、そしてニコもレイも、もう寝る時間ですと呼び出しが来るまで、まるで昔から一緒に遊んでいたかのように楽しく過ごしたのだった。

「いいあさ! あれ?」

いつものように爽やかに起きた朝であるが、なんとなくいつもと違う気がする。

「トレントフォースだから? そうか、けっかいがあるからだ」

最近は旅暮らしなので、毎日違う天井を見ることにはもう慣れていたが、キングダムの結界の中がこれほどまでに安心するものだとは思ってもみなかった。

「あと、にいさまがいない」

いつもなら一緒の兄さまが見当たらない。昨日の夜も、私が眠るまで部屋には戻ってこなかったし、なんとなく寂しい。

「昨日夜に出かけたバートたちに何か動きがあったらしくて、その話を聞きに早くから起きられたようです」

そう教えてくれるナタリーの手には、縫いかけのぬいぐるみがあった。

「むりしてない?」

「夜はちゃんと寝ておりますよ。昨日はリア様たちが遊んでいるのを見守りながら、縫物をしていましたし」

ナタリーが私をからかうかようにほんのちょっと口元を緩める。

「リア様のマールライトより先に、ぬいぐるみができちゃいますよ」

「あといちにちだから、きょう、がんばる!」

私も午前中にちょっと部屋にこもって頑張ろうと誓うのだった。

朝ご飯を食堂でおいしくいただいたが、昨日何があったのかを幼児に話してくれる人はいなかったので、もくもくといただく。その後私とニコは暗黙の了解で、一時間だけお互い一人の時間を作ってもらった。客が来ても、エイミーもレイも自分たちでする勉強があるので、朝から遊び放題というわけにもいかずちょうどよかったようだ。