軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

竜も実験が好き

「じゃあ、最初はニコ殿下だな」

「おねがいする!」

気合の入ったニコを、竜に乗ったバートが受け取り、鞍の前に乗せた。

「ゆっくり歩かせてみるぞ」

「キーエ!」

ラグ竜は承知したというように一声鳴いた。なんだかニコを乗せたことが誇らしそうに見える。

「キーエ!」

「キーエ!」

あら、小さい子、いいわね。

私ものせたいわ。

ラグ竜の目が私に集まった。私は慌てて首を横に振る。

「リアはいいの。あとでのるの」

「キーエ!」

それはざんねん。

集まってこようとしてたラグ竜が解散したのでほっとする。どうもラグ竜は子どもが好きで困ってしまう。

結界を張ることになるので、ファーランドの人にわからないように、少し離れたところで乗っている。

鞍に乗っていると、かごから見るよりずっと視界がいいはずだ。

ニコの笑い声が聞こえて、前だけでなく、横も、後ろも、きょろきょろとあちこちを眺めているのがわかる。

やがて、バートに抱っこされて、後ろの方に目をやりながら、ニコの顔が真剣なものに変わったのが見えた。

結界を張ったのだろう。

「バート、うごいてくれ」

「わかった」

バートにしても、ニコを抱っこして両手が手綱から離れているので、ラグ竜を慎重に進ませる。

「すこしはしれるか?」

「ああ。だが、ニコ殿下も首にしっかりとしがみつけよ」

「わかった」

幼児が首にぎゅっと捕まっているのはかわいいものだ。ぜんぜん結界と関係ないことを考えながら竜車で並走してもらっていると、やがてラグ竜のスピードが落ちてバートがゆっくりと止まった。

私も大急ぎで竜車から走り下りた。嘘です。本当は兄さまに抱いて下ろしてもらった。

「もう少しのっていたかったが、しかたがない」

「実験じゃなくてもいつでも乗せてやるよ」

残念そうなニコは、バートに次の約束をしてもらってしぶしぶと交代した。

「リア、しっぽだ。しっぽにちゅういだぞ」

「しっぽ?」

なんのことかわからないが、引継ぎのポイントはしっぽだそうだ。

「たかーい!」

ニコが大はしゃぎだったのがよくわかる。背の高い男性に抱っこされて竜の上から見る景色は一味違った。

「喜んでくれて俺も嬉しいけどさ。結界についてもちゃんとやってくれよ」

「わかってるわかってる」

軽く受け流すと、私は引継ぎを思い出してまず竜のしっぽを眺めた。いや、しっぽじゃなくて、尾ではないか?

「リア、余計なこと考えてないか?」

「かんがえてないかんがえてない」

トカゲがしっぽだから、竜もしっぽでいいだろう。

「リアはラグ竜に慣れてるから、さっさと走らせてみようか」

「うん!」

「キーエ」

任せて、小さい子。

バートがやる気に満ちたラグ竜を走らせると、しっぽは走るリズムに合わせて左右に優雅に振れている。

「そうだ、けっかい」

「やっぱり忘れてるんじゃねえか」

くつくつと笑い声が響くバートの体にぎゅっと抱き着いて、しっぽが入るように結界を張る。

「やっぱりなにかが体を通り抜けていく感じがするなあ」

「それがけっかい」

結界を張ったまま走ると、ラグ竜の揺れに合わせて体も上下し、張った結界も上下する。だが、結界は上にも下にも十分な余裕がある。一番距離があるのは、鞍からしっぽの先なのだ。

「だからしっぽにちゅういか。ふむ」

私は張った結界を大きくしたり小さくしたりしながら、その感覚を体に刻もうと頑張った。

頑張ったのだが。

「しっぽまでがだいじだが、わたしはながさをいわれてもわからない。だからひもをくれ」

ニコにこう言われて、なぜそれを思いつかなかったのかと自分にがっかりしてしまった。頑張ったことが無駄ではないか。

「紐か? 紐をどうするよ」

バートに顔を覗き込まれたニコは、真剣な顔で説明している。

「けっかいはくらからしっぽまでをちゅうしんに大きさをきめる。だから、くらからしっぽまでのながさを、ひもでくれ」

「そうか。ラグ竜が目の前にいなくても、紐の長さに合わせて結界を作れば、大きさの感覚がわかるってことか。ニコ、お前本当に賢いな」

「殿下ですよ、バート」

ニコの頭をぐりぐり撫でていたバートは兄さまにたしなめられて肩をすくめた。

「おっとニコラス殿下だった。リアにしてもルーク、あんたにしても、キングダムの人材は豊かだな」

褒められたのに浮かない顔の兄さまは、ぽつりとこぼした。

「本当に人材が豊かなら、城に攻め入れられたり、犯人を逃がしたりはしません」

「お、おう。そういうものか」

バートは戸惑っているが、確かにバートに言っても仕方がないことである。

「キーエ!」

これで終わりなの?

「もうおわりよ」

「キーエ……」

がっかりしたラグ竜が悲しそうだ。

「またあしたものせてもらうから」

「キーエ!」

「あしたもか!」

ラグ竜もニコも喜んでいるので、明日も乗せてもらうことにする。

バートの提案に乗って始めたラグ竜に乗る実験だが、やってみると有意義だった。

夕食後の今日の反省会で、さっそくそれが議題に上がっている。

「ラグ竜に乗ることを想定していたが、鞍の位置はラグ竜の真ん中じゃなかった。結界に頭が入れればいいかと思っていたが、そうするとしっぽが結界からはみ出ちゃうんだよ」

「しっぽまでけっかいにいれようと思うと、わりと大きくなる。大きいけっかいのためには、大きいませきがひつようだ」

ニコが指摘している。

「しっぽくらいよくないか」

ミルの冗談にバートは厳しい顔をした。

「駄目だ。しっぽだろうと、体の一部でも虚族に捕らわれたら、その時はなんとかやり過ごしても生命は確実に削られる」

バートは顎をかすかにアリスターの方にしゃくった。アリスターのお母さんは、虚族に襲われても生き延びたが、結局それで命を縮めたのだ。

「すまねえ。ラグ竜の命だって大事だった」

しっぽが出るか出ないかくらいの、いや、出たら駄目なので、結局は今までの結界箱より一回りだけ小さい結界箱を作ることになるのだろう。それもとても面白いが、私はやっぱり小さい結界箱をつくりたい。

そこで、こう提案した。

「だったら、リアとニコと、ちゃんとわけてじっけんしよう。それでまず、つかえるけっかいばこをひとつずつつくるの」

「分ける? どう分けるのだ」

ニコが不思議そうだ。

「ニコがラグりゅうのしっぽのはいるけっかい、リアがうんとちいさいけっかい」

小さいマールライトがうまく変質しないのが、実はちょっと悔しくてたまらないのだ。ニコばかり成功してちょっとずるいと思う。だからといって、真似もしたくない乙女心なのである。

「うまくいったらいいが、うまくいかなくてもいいんだ、これは」

バートがニカッと笑う。

「だからさ、ニコ殿下もリアも好きにやってくれよ。全力で協力するからさ」

「うん!」

「わかった」

こうして、30分とか一時間とか細かいことを言わず、子どもの本気で実験を加速させることとなった。