軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キングダムから来たもの

さすがにいつまでもぼんやりしているわけにもいかないので、外ということを生かして、兄さまたちは剣の訓練をしたりしている。一人前の顔をしてニコも参加しているのがおかしいが、私は剣など持ちたくないので、訓練を見たり、春の花を摘んだりとそれなりに忙しい。

剣の訓練が一通り済めば、カルロス王子一行の魔力の訓練もしたりする。

「魔力がそれほどない私たちがやっても意味があるのでしょうか」

リコシェとジャスパーにも訓練を施そうとすると、若干不安そうである。

「キングダムでは貴族の子どもたちは、学院で皆、魔力訓練を受ける。少ししか魔力がなくても、それを意識しておくことは大事だし、なにより君たちはカルロス殿下の従者だからな」

直接教える私より、実際学院に通っていたギルのほうが説得力があるのは仕方がない。むしろ説明してくれて助かるくらいだ。

「かるろすでんか、すぐさぼろうとするから。やりかたをしっている、おめつけやくがひつよう」

私はギルの言葉をよりかみ砕いて説明してあげた。

体の中の魔力を意識させれば、それを巡らせるのはそんなに難しくない。

教えるのは無理でも、従者が一緒にやってくれるとなれば、カルロス王子も少しはやる気が出るだろうと思う。

平和だとかノンビリだとか言いながらも、普段の生活では味わえない自由な時間を過ごしていた私たちだが、その日もいつものように花を摘んでいると、ハンスの声が響いた。

「リア様! しゃがんだまま動かずに。殿下、リア様の側に!」

他国の王子がいても兄さまがいても、相変わらずハンスは私中心である。私は素直に動きを止めると、顔だけ動かしてハンスのほうを見た。ニコも急ぎ足で私の側に来ると、小さな剣を足元に置いてしゃがみこむ。

ハンスが手を動かして合図すると、私たちを囲うように護衛が素早く動いた。剣を振っていた兄さまたちは、訓練用の剣を手に持ちながら、私とニコを守るように移動する。

いったい何が起こったのか、ハンスの厳しい視線は、キングダム側に向いていた。

「土煙。ラグ竜。統率の取れた動き。何者かがこちらに向かっているようですね」

「ブラックリー伯爵からは何の連絡もなかったが、敵か、味方か。数でいえばこちらの方が多そうだな」

割と危機的な状況だと思うのだが、兄さまもギルも落ち着いている。

「にいさま」

思わず呼んでしまったが、少し不安そうな声に聞こえたのかもしれない。兄さまは視線を前方に向けたままで少しかがむと、しゃがみこんだ私の背中にそっと手を置いてくれた。

「大丈夫、とは言えませんが、相手が敵だった場合、逃げるか、ここで立ち向かうか、二つに一つです。だったら、背を向けるより立ち向かったほうが勝率がいい」

子どもだからと馬鹿にせず、状況を丁寧に説明してくれた。もしかしたら、大きい人たちは、こういうことが起きた時の行動をあらかじめ相談していたのかもしれないと思わせるほど迷いがない。

「たってもいい?」

それならば、私もすぐに動けるようにしておきたい。しゃがみこんで足がしびれたままでは、いざという時にすぐには動けないだろう。

「いいでしょう」

ハンスが頷いたのを確認して、兄さまが許可を出してくれたので、私とニコはいそいそと立ち上がった。

小さい私たちでも、立ち上がったら遠くまで見える。重なるように私たちを守っている人たちの隙間から、確かに竜の姿が見えると同時に、ドッドっという足音が響いた。

「あのときと同じだな」

「うん」

領都の結界を張るセレモニーの時、ラグ竜の群れに襲われた時と同じ、重苦しい竜の足音だ。だが、この竜の群れは暴走しているわけではない。よく見ると、先導しているかのように一騎だけ突出しているように見える。

「あれは……」

驚いたような兄さまの声にかすかに喜色が混じる。

竜に乗るのにふさわしいとは思えない明るいグレーの服に、白くも見える明るい金髪は竜に乗っているにもかかわらずきっちりまとめられて揺れもしない。

「おとうさまだ!」

「まさか。オールバンス侯がか」

カルロス王子の呆然とした声が響くが、私が大好きなお父様を見間違えるはずがない。思わず走り出そうとした私を、兄さまが止めた。

「リア、ここで待ちましょう」

「でもにいさま! おとうさまは、こっちにこれないでしょ」

成人した四侯は、キングダムの結界の外側には出てはいけない。そして私たちがいるのは、ちょうどキングダムの結界のすぐ外側なのだ。

「だったら、リアがいかないと!」

お父様がいなくても楽しく暮らしていたのは事実だが、一度お父様を目にしてしまったら、なんとしても近くに行って抱き上げてもらいたいのだった。

「お父様がどういう事情で来られたのか、まだわかりません。ここは慎重になるべきです。もう少し我慢しましょう」

気持ちだけがはやるが、兄さまの言うこともわかるので、ぐっとこらえたらなぜだか涙がにじんだ。

「リア、ほら」

心配した顔のニコが手を差し出してくれたので、右手でニコと手をつなぐと、左の腕でごしごしと目をこする。

「もうすぐ国境だが……」

ハンスが小さい声でつぶやいた。まさか、いやご当主ならやりかねないと、もっと小さな声で独り言を言っている。

「スピードを緩める様子がないな」

「後ろは護衛隊ですね。グレイセスか!」

兄さまが叫んだ途端、お父様の後ろについていた人たちが大きく広がった。

「まさか止める気ですか! リアの時のように!」

私の脳裏にあの時のことが甦る。もう少しで手が届きそうだった。それなのに竜に引き離され、お父様は護衛隊に引き倒されたのだった。

「おとうさま! おとうさま!」

思わず叫んだ私の声が届いたのか、お父様は竜のスピードを上げてあっさりと国境を越えた。

警戒した護衛隊は単にお父様の後ろを警戒して守ろうとしただけだったようだ。ぶつかるかという勢いで竜を走らせてきたお父様は、竜を止めると同時にひらりと飛び降りた。

「ルーク! リア!」

ニコはつないでいた手をそっと離してくれた。私はありがとうと言う間も惜しみ、お父様の方に駆けだし、飛びついた。

「おとうさま!」

「おお、リア! 無事だとわかってはいたが、つい心配でな」

お父様はしゃがみこんで左手で私をぎゅっと抱きしめると、右手を兄さまに伸ばした。

「つい心配で来るには、ウェスターは遠すぎますよ。お父様」

兄さまの声が少しばかり震えているのは、嬉しさを隠そうとしているからだと思う。

私と兄さまを腕に抱え込んだお父様は、肩で大きく息をしていた。必死で竜を走らせて来てくれたのに違いない。

そんなお父様の後ろで、護衛隊の人たちが次々と竜から降りている。そのうちの一人が、笑いながらこちらに手を伸ばした気配がした。

「三〇をとうに過ぎた男に後れを取るとは……。私もまだまだだな、ニコ」

「おじ上!」

ニコが大きな声を上げた。お父様の腕から見上げると、既にアルバート殿下に抱き上げられているニコが見えた。護衛隊の黒っぽい制服に比べると、こちらも赤を基調にして華やかだ。