軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルークの思い(お父様視点)

「ルーク様がまた倒れたと学院から連絡がありました」

屋敷に帰るとすぐに、ジュードから報告があった。

「またか。また魔力訓練でか」

「そのようです。同時に剣の訓練でも無理をしてけがをしがちであると」

「ルーク……」

リアがさらわれてからもうふた月が過ぎようとしていた。四侯がそれぞれ担当する魔石は、普通五日に一度充填すればよい。10日までなら充填された魔力ももつが、それ以上は結界がもたなくなる、と言われている。一度期限ぎりぎりまで王都を離れていた私は、動きたくても警戒されて王都を動けないでいる。

できたことはと言えば、捜索人を雇ってウェスターまでリアを探しに行かせていること、リアをさらった犯人をひそかに捜索していることだ。また、もともと持っていた魔石の事業に力を入れている。リアは今辺境にいる。辺境とつながりがあるのは魔石だけだからだ。

魔石の充填と国政の補助のほか、四侯には特にすべきこともない。ちなみに領地もない。領地は伯爵以下爵位もちに分配され、管理が任されている。王家と四侯は、そこからの税収で豊かに暮らしているということになる。

わがオールバンス家のように、それを元手に商業を展開している家もあるが、これは先祖が慧眼だったと言えよう。ただでさえこの国と王都に縛られている私たちが、せめて金銭面で自由であるようにとの言葉が残っている。何の感慨もなく受け継いできた事業だが、今はそれがとてもありがたい。

「とにかく一度、ルークの話を聞いてみよう」

「そうしていただければ」

ジュードは頭を下げる。セバスがいなくなり、内向きの管理も任せているジュードは疲れ気味で申し訳なく思う。しかし、新しい執事を雇う気持ちにはまだなれなかった。主に、信頼と言う点によるが。

すぐに週末が来たので、私は自らルークを迎えに行った。

「お父様!」

私を見て顔を明るくさせる息子がいとおしい。以前はほとんど無表情だったのに。しかしその顔は成長期の少年としては薄くとがり、やつれているのがよくわかる。よほど無理をしているのだろう。

「お父様、人のことは言えませんよ」

「何がだ?」

「お父様も、やせて服が少しあっていません」

「む、大人はよいのだ。お前は成長期だろう」

竜車で冗談とも本気ともつかぬことを言い合う。

「しかし、お前が倒れたという報告を聞くのはこれで何度目だと思う。ルーク、お前が元気で成長しなければ、リアが帰ってきた時に心配して泣いてしまうぞ」

「そしてきっと、『にーに、にゃい!』と言うのです」

ルークは微笑み、しかし、

「だけどリアは、まだ赤子。たとえ我らのもとに戻ってきても、覚えているかどうかと思うと」

と唇を震わせた。そう、赤子の記憶など長くはもたない。数か月引き離されただけでも忘れてしまうだろう。それは私も不安に思っていた。

「なに、我らのリアだ。あんなに賢い子だ。小さいのに自立心旺盛で、元気で、よくしゃべり、そして我らのことをそれは愛してくれていたではないか」

「はい。はい。そのためにも」

ルークはきっと顔を上げた。

「授業で教わるのは、四侯も諸侯の子女も同じ。いかに倒れずに魔石に魔力を注ぐかです。ですから、細かい魔力循環や、魔力の増量など教わりようがない」

「魔力の増量……いや、ルーク、お前はすでにオールバンスとしてふさわしい十分な魔力量がある。それは同じ年だったころの私に勝るとも劣らないほどだ。何を目指している」

「自由を、お父様、自由をです」

自由をとルークは言った。

「そもそも10日しか王都を離れていられないから問題なのです。どうしても四侯の役割から逃げられないのなら、せめて充填する魔力を増やして、15日、20日、そして一か月あれば、辺境に直接探しに行けるではないですか!」

「ルーク」

「学院や王宮の文献を当たったところ、その方法は魔力をギリギリまで放出することとしか書かれていない。ギリギリとはどのくらいなのか。あと少しで、あと少しでわかりそうなんだ!」

わずか11歳のこの子が、そこまで考えていたとは。

「18歳になってしまったら、お父様と同じように、私もキングダムから出られなくなる。あと6年と少ししかない。リアをすぐ取り戻せるとはどうしても思えないのです。それならば私が18までに強くなって何としても調査に赴かねば。そしてもし18になっても、せめて国境まで探しに行けるくらいにはと。そう考えて」

「無茶をしてしまっているというわけか」

「……はい」

何と頼もしいことだろう。

「だからと言って体を壊し、命を縮めたらリアが戻ってきても守れないだろう」

「……はい」

ルークはうつむいた。わかっているけれども何かをせずにはいられないのだろう。ルークの体に無理をさせず、しかしルークのためにできることはないか。もしかすると。

「ルーク、そろそろ夏休みだな」

「え。ええ」

ルークがいぶかしげに私を見た。

「クレアの領地に避暑に行こうか」

「お母様の?」

私の頭はめまぐるしく働いた。魔力を増大させるのには危険が伴う。どうしていいかもがいているルーク。放っておいても無理をするだろう。ならばいっそのこと。

「クレアの領地は、辺境ファーランドに接している。行ったのはほんの数度だが」

クレアは伯爵家の出だが、体が弱くて学院には来ていなかった。だから出会ったのは気まぐれで出かけた北の領地だった。北のネヴィル伯爵家に滞在していた時だ。結婚式の迎えに行った時にもう一度、そしてクレアが亡くなった時にもう一度、その体を北の地に戻すために。

四侯はキングダムから出られない。しかし、18になるまでは出てはいけないという決まりはない。

「ウェスターの地に行こうとすれば、警戒されて妨害を受ける。しかし反対側のファーランドならば、ルークの母のもとに行くという名目が立つ。いいかルーク。ネヴィル伯爵と話をつけたうえでだが、辺境に行ってみてこい」

「いいのですか!」

ルークの目が輝いた。

「虚族とは何か。我らが縛られる魔石となる虚族の姿と実態を、一度見てみるべきだと思っていたのです。お父様から言い出してくれるなら!」

「ちょうどいい交渉材料がコレクションにいくつかある。必要なら余分に作らせてもよい。私は王都との往復になるだろうが、ルークは夏休みの間ずっといさせてもらうように頼んでみよう。あそこの跡取りは確か剣もやる。剣も教わるといい」

「はい!」

ルークの実の母親のダイアナのところは、王都のすぐそば、ラズリーが入るあたりの領地だ。しかし、今は南に下るのはまずい。それにこんな時でさえ、ルークに連絡すら寄こさない女だ。

「いいか、そのためにも今は無理をせずに、体を作ることも大事だ。いいな」

「はい!」

それまでにリアが見つかることはないかもしれないと、下手をするとルークが成人するまでの長期戦になるだろうということは、口に出さなくても私たちはわかっていたのだと思う。だから、先のことまで考え、できることをしよう。私とルークの心は一つだった。