軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ギルの提案

ギルと兄さま、それにバートたち四人は、貴族の屋敷らしく広い居間のソファーセットに座ってのんびりと話している。

私とニコはというと、絨毯の上に直接座りながら、積み木を持ち込んでアリスターと一緒に町を作っているところだ。もちろん、耳だけは兄さまたちのほうを向いている。

「アリスター、つみきいっぱいある」

私が城ではなく町を作っていると言ったのは嘘ではない。

「そうだろ。最初はトレントフォースから持ってきた積み木だけだったんだけど、ほら、こっち。色がついてるだろ」

「かわいい」

「ワクワクするな」

「これは俺が作った」

アリスターが得意そうに腕を組んだ。

「それからこっち」

次にアリスターが指したのは、色を塗っていないのに、様々な色合いがある積み木だ。

「これは、木の種類を変えて作ったやつだ。端材、つまり、使わない木をもらってきて、形を揃えて磨いたもの」

「いろんないろがある」

濃い色、明るい色。

「あと、きのいいにおいがする」

「さすがリア。いろいろ試してたら、こんなにたくさんになったんだ」

アリスターはトレントフォースにいた時から木工が好きだった。

「ちょっと待ってて」

一人立ち上がって部屋から出ると、大きな箱を抱えてよろよろと戻ってきた。

「おもそう」

「重いぞ。ほら」

慎重に降ろした箱の中には、大きい箱から小さい箱まで、それこそアリスターの持っている結界箱のような木箱がいくつも入っていた。

「ほら、これを見て」

アリスターが出してきた箱には、つたや花の模様が一面に彫られている。

「きれい」

「こっちも」

ニコに手渡したほうには、簡略化したラグ竜の意匠が彫られていた。

「かっこいいぞ!」

「だろ?」

ニコの賛辞にアリスターは嬉しそうに笑った。

「そして、これ」

底のほうから引っ張り出してきた小さな箱には、横を一周するように栗の模様が彫られていた。

「てっぺんには、栗が二つ」

「ウェリぐりだ! くりのこうしん!」

私は思わず立ち上がると、私の両手におさまるくらいのその小さな箱を頭の上に持ち上げ、くるくると回った。

「かわいい!」

「それ、リアにやるよ」

「ほんと?」

それを聞いて、ニコが手に持ったラグ竜の模様の箱をじっと眺める。

「ニコ殿下には、それをやる」

「いいのか?」

ニコの顔がぱあっと明るくなった。

「中くらいのはこ!」

「ちいさいはこ!」

私とニコは箱を掲げて、部屋の中を走り回った。誰かの手作りの箱なんてそれだけでも素敵なのに、大好きなアリスターの作った箱だ。しかも好物の栗の絵が彫られている。

「俺、魔道具の中身にも興味はあるんだけど、外側の箱も大事だと思うんだよ。きれいな装飾もいいけど、いろんな色や模様の、楽しい箱があってもいいと思うんだ」

アリスターも箱を一つ、手に取って、その模様を指でなぞっている。

「いつかリアの作った魔道具を納める箱を作りたいなあ」

「リア、まどうぐつくる!」

私は箱を持ったままぴょんぴょんと跳ねた。

「じゃあ、大きくなったら俺と店を出そうぜ」

「うん! だす」

「まどうぐなら、わたしもつくっているぞ?」

ニコが腕を組んで胸を張っている。

「ニコ殿下は、そもそも仕事が王様業だからなあ」

王様業なんて、まるでミルが言いそうな言葉だ。

「副業で、こっそりやろうぜ」

「ふくぎょうがなにかはわからぬが、こっそりやるのはたのしそうだな」

「だな」

アリスターは嬉しそうに笑った。

「リアとニコ殿下と、俺の店だ。魔石を取ってくるのも魔石の充填も、俺がやれば元手はかからないしな」

ワイワイしていたら、ソファーにいた兄さまがちょっと悔しそうだ。私たちが兄さまたちの話に耳を傾けていたように、兄さまたちも私たちを気にかけていたようだ。

「それなら私が出資します。販路も確保しますよ」

「オールバンスの後ろ盾があったら、成功間違いなしだな」

ハハハッと笑うアリスターは、自分の四侯の血筋を憎んでいたころの面影はない。そんなアリスターを見て、ギルがあきれたように肩をすくめた。

「お前はリスバーンだぞ。まずリスバーンが出資するに決まってるだろ」

「じゃあ、俺は木工の腕をもっと磨かないとな」

笑ったアリスターが、なんだか泣きそうに見えたのは私の見間違いだと思う。

「さあ、アリスター。まちを作るのだ」

ニコが積み木に誘ったので、私たちはまた絨毯に戻ってせっせと積み木を積み上げ始めたのだった。

「リアたちがかわいすぎて、話どころではありませんでしたね」

「ああ、でもちょっとこっちにも集中しようか」

兄さまとギルが話し始めたのを聞きながらも、私は色の付いた積み木を選んで並べ始めた。

「俺たちが聞いていてもいいのか?」

「あんたたちはアリスターの身内のようなものだからな。俺にとってもそうだ」

「お、おう」

ギルの答えに、バートが照れくさそうに腕を組んでソファに寄りかかった。本当は身内も何も、四侯として、そして王族のニコを預かっている身としては、聞かせるべきではないのだろうだが、私は幼児なので関係ない。

「それでだな、ルーク。せっかくほのぼのとしているところ、あれなんだが」

「なんでしょう」

兄さまの声に警戒が混じった。

「俺たちもさ、付いていかないか。カルロス殿下に」

「えっ」

兄さまだけではない。その衝撃的な言葉に、私たちまで思わず積み木の手を止めて、ギルのほうに目をやってしまった。

「さすがにトレントフォースまでは無理だ。だが、せめて途中まで、例えばケアリーあたりを通って帰ってくるのはどうだ?」

「そんな。旅程の大幅な変更が求められます。それになにより、ニコ殿下をそんな予定外の場所へお連れすることはできません」

兄さまはすかさず拒否の構えだ。

「それに、私たちだって同じです。成人していないという理由でキングダムの外に出ることができていますが、それも監理局に旅程を提出し、その許可を得てのことです。勝手に旅程を変更したとなれば、どれだけうるさいことか」

「そうだな」

ギルだってそのことはわかっているのだろう。

「それに、ケアリーは今回の事件の犯人かもしれないのです。そんな危ないところにリアを連れて行くなんて。それに、それに……」

兄さまはさらに行くべきでない理由を積み上げていくが、その声は次第に小さくなった。

「リアだってニコ殿下だって、幼すぎて本当は長期の旅行になど連れて行くべきではないのです」

「あんなに元気だぞ?」

積み木を持ったまま自分たちのほうを見ている私たちに、ちらりと視線を寄こした兄さまだが、目を合わせようとはしなかった。

ギルの提案も思いもよらないものではあったが、それを聞いた兄さまは、本当は行きたいのだ。

だが、いろいろなことに配慮できる兄さまは、カルロス殿下のように素直に行きたいとは言えない。なにより、私の命を案じて過ごした年月が、幼い者を危険にさらす可能性があることはすべきではないと、強く兄さまを引き留めているのだろう。

私も何か言ってあげるべきだろうか。手に持った積み木を胸に当てて悩む。だが、その必要はなかった。

「ルーク。いいか。俺が理由をくれてやる」

ギルがきっぱりと言い切った。兄さまはうつむいていた顔を上げた。

「一つ、俺たちがケアリーに一緒に行くことでカルロス殿下の希望が通りやすくなる」

あいつの希望が通るのは嫌だ、という顔をしたので笑い出しそうになる私である。

「二つ、俺たちのケアリー訪問により、町長に隙ができる。俺たちに付きそうという名目で、ウェスター側がケアリーで堂々と調査ができる」

兄さまの顔が少し明るくなった。

「三つ、ずっと来てほしいと言われていたブラックリー伯の領地に訪れる口実ができ、恩を着せられる」

「でも、いちいち伯爵たちの意見を聞いていたら、どの領地にも一度は平等に顔を出さねばならなくなります」

「それのなにが悪い? むしろ俺たちが王都を出られる理由が増えるだけだ」

私も心の中でポンと手を打った。確かにそうである。

「ですが、どの理由も、リアとニコ殿下の安全については保証されません」

兄さまもなかなかしぶといな、説得されればいいのに、と思うくらいには、私もケアリーに行きたくなってきているようだ。

「ルーク。王都の城のど真ん中にいたって安全じゃなかったじゃないか」

ギルの言葉は、私たちの心に重く響いた。

「もちろん、安全は確保するよう考えよう。けど、多すぎる護衛はいざというときの機動力に欠けるし、かえって目立つ。なあルーク。やらない理由なんていくつも見つかるし、やらないほうが楽なのは確かだ」

シーベルまで来られただけでも幸いだったと、よい思い出にして帰るのが一番いい。

「だが、成人したカルロス殿下だって、やりたいという気持ちひとつで勝手なことをする。俺たちはもっとずっと年下なんだから、わがままと言われようが、好きなことをやってもいいんじゃないか。そんなことができるのは、父たち四侯の現当主が、キングダムを盤石に守っている間だぞ」

それはつまり、お父様たちがメインで魔石に魔力を注いでくれている間ということである。

「わたしは、いけるならいってみたい」

ニコがそう言うなら、私も乗っかろう。

「リアもいきたい」

「そうだよな。殿下とリアなら、そう言うと思った。それに、今まで黙っててくれてありがとうな」

ニコだって私だって、やりたいことをうかつに口に出してはいけない立場だということは理解している賢い幼児なのである。それをわかってくれているギルもすごいと思う。

「そしたら、途中で虚族が見放題だろ。ニコ殿下の希望も叶う。ほら、四つ目の理由もできた」

ギルがにっこりと笑った。