作品タイトル不明
おもり
「だからこそ、俺たちに使わせてほしいんだよ。俺たちにはアリスターがいるし、アリスターがいなくても、リアを助けた褒美で結界箱をもらってあるだろ。仲間がいるから、安全を確保したうえで、実験ができるんだ。しかも口も堅い」
「確かにそれはそうですね。ですが、それではあなたたちのメリットがないように思えますが」
「だからルークさんに話しにきたんだよ」
私はまだ許可を出していない。だが、まず私に許可をもらってから、兄さまと具体的に話す、こういうことだろうか。
「リアの言う通り、たくさん作れないならこの結界箱は高価なものになるだろう。普及するにも時間がかかる。だったら、その製品の第一号を俺たちにくれよ。できれば実験にも対価をくれるとありがたいが、それはまあ後で考えるとしてさ」
それだけでは実験に命を懸ける対価としては足りないはずだ。
「今ある結界箱を拠点にして虚族を狩るのは効率がいい。だが、自分を覆うだけの結界があれば、結界を身にまといながら虚族を狩ることができるんだ。実現すれば、安全に確実に虚族を狩ることができるようになる。もし自分の代で実現できなかったとしても、ハンターの安全が確保できるなら、それは長期的に見てメリットがあるということなんだ」
部屋に沈黙が落ちた。
「虚族相手の実験には人の命がかかる。いいですよと瞬時に決めるような案件ではありませんね」
兄さまが静かに結論を出した。
不満そうなバートを制して、兄さまは続けた。
「ですが、あなたの申し出は貴重です。時間をください。私が判断するには問題が大きすぎる気がするので」
兄さまは冷静である。
「俺の提案がすぐに切り捨てられなかっただけでもありがたいか」
バートは残念そうに頭をかいたが、話が不穏なほうに行かなくて済んで私はほっとした。
「リア、俺たちがどれだけ安全を大事にしてるか知ってるだろ。無茶はしない。心配すんなって」
バートは私の側に来ると、頭をぐりぐりと撫でて部屋の外に出ていった。
「バートがあぶないのはいや」
「そうですねえ。辺境で安全に過ごすための魔道具を作るために、危険も必要とはおかしな話ではありますが」
でも、実用化するにはそれも必要なんですという言葉は、兄さまは外には出さないでいてくれた。
「もんだい、おおきくなりすぎちゃった」
「本当ですね」
だから余計なことはしてはいけないのですよとも、兄さまは言わなかった。兄さまが昨日怒ったのも、時と場所をわきまえましょうということだけだったのを、私はちゃんと理解している。
兄さまはふうっと息を吐いてて斜め上を見上げた。これは兄さまの頭が高速回転している時の態度である。
「まずお父様に報告して、実験をするかどうかを決める。そしてまず安定した魔道具を作れるかどうかがスタートです。そこで初めて、辺境で実用実験をするということになりますから、バートの申し出はありがたいのですが、まだ早すぎでしたね」
「リア、びっくりした」
「びっくりしすぎて断っていましたからね。自分は前のめりに進むのに、他の人に対しては慎重なんですよね、リアは」
兄さまがおかしそうに私の頬をつついた。
だって周りの人にはつらい思いはしてほしくないではないか。でもそれを言う前に大きなあくびが出てしまった。
「びっくりしたら、ねむくなった」
「普通はびっくりしたら目が冴えるものです」
兄さまはクスクス笑いながら、掛け布団を持ち上げてくれた。私はいそいそとそのお布団に潜り込む。
「リアはもうねる。おやすみなさい」
「おやすみなさい。よい夢を」
考えても答えが出ない時は、寝るに限るのである。そうして明日は、元気にウェスターに旅立つのだ。
一日ゆっくりしたのは、下っ端の私たちだけだったのかもしれない。出発の時には、ファーランドのカルロス殿下もウェスターのヒューバート殿下も、そしてそのお付きの人たちもなんだか疲れた顔をしていた。実際、昨日は彼らとはほとんど顔を合わせなかった。
逆に兄さまは疲れが取れたのかすっきりした顔をしている。
「リアは覚えていますか? 今日は、この前の旅でお父様と泊まった宿に滞在することになりますよ」
「おぼえてる!」
国境までお父様が迎えに来てくれた時のことだ。半年以上会えなかったお父様は、私をずっとそばから離さず、夜も一緒だった。
そしてみんなで結界を張ってみた結果、共鳴して結界が広がることを知った。あの時のことがなければ、イースターの第三王子の襲撃でキングダムの民は虚族の被害に遭うことになっていただろうから、結果的によいことをしたと言える。
「あれ、にいさま、きょうはカルロスでんかとべんきょうしないの?」
兄さまはすがすがしい顔で宣言した。
「ヒューバート殿下が来てくれたおかげで、昨日からはウェスターとファーランドの国交が始まっています。キングダムは既に王都で十分に交流していますからね。遊び歩いていただけでなく、交渉事もいろいろ行っていたようですよ、主にリコシェ殿が」
「おもり、ううん。ひしょかんだもの」
私はリコシェを紹介された時のことを思い出した。秘書官と書いてお守りと読む。そう認識していた私は危うく口を滑らせるところだった。
「口が滑ってるぞ、リア」
「いいえ、よくできました、リア」
ギルと兄さまがそれぞれニコニコと褒めてくれるので、私はいい気分になってふふんと胸を張った。
「ちゃんとすわっていられるといいが」
心配そうに王子二人が乗った竜車を見ているのは、キングダムの王子さまである。誰のことかは言わなくても皆わかっていた。
「優秀な秘書官殿だけじゃなくて従者のジャスパーがいるので、きっと大丈夫ですよ」
「そうだな、しんぱいしていても、いきなりりっぱになるわけもないしな」
ニコのつぶやきに皆そっと視線をそらせた。
そういうわけで、移動は会合を兼ねながら、ウェスターとファーランド、そしてキングダム組に別れ、午前中は順調に進んだ。アリスターたちは竜車には乗らず、それぞれが自分の竜に乗っている。
旅に出てから、キングダム組だけで竜車に乗ったことはほとんどなかったので、余計に楽しいような気がした。
「きのうからあそんでばかりだな」
「うん! たのしい!」
いつもは子どもだけだから、昨日のように大きな人たちに遊んでもらうのはとても楽しかったし、兄さまやギル、アリスターが童心に帰って遊んでいるのを見るのも楽しかった。私がそうなのだから、ニコはもっとそうだろう。
「さて、そろそろ昼休憩でしょうか」
兄さまの予想通り、竜車は少しずつスピードを落として止まった。かと思うとバンと扉が開いた。竜車の中にちょっと緊張が走ったが、ハンスが止めなかったということは特に問題はないのだろう。
「リア!」
「はい?」
顔を出したのは思いがけない人だった。
「カルロス殿下。リアに何のご用ですか」
兄さまがまず問いかけたが、確かに私はそこまでカルロス殿下とは仲良くはない。
「ちょっと魔力を吸ってくれ」
「はあ?」
私が魔力を吸うみたいな言い方は止めてほしい。