軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔石

その日の訓練はそれでおしまい。しかし、アリスターは時々自分でも意識しているようで、

「移動中はやめとけ! ハンターとして集中すべき時とそうでない時をわきまえるんだ!」

とバートに注意されていた。それなら、ミルはどうなんだろう。私は相変わらずのんきに竜を駆っているミルを眺める。

「みりゅ、しうちゅう」

「俺? 俺くらいになったらわきまえてるからだいじょうぶさあ」

という。わきまえているらしい。ほんとかな。その日は夕方まで竜を走らせ、やはり小さい川沿いにキャンプを張った。夕ご飯が済むと、アリスターが桶に水を汲んで、テントの中まで運んできた。

「リア、これで体を拭いて、新しい服に着替えるんだ」

「あい」

しかし春の水は冷たい。

「これをこうして、と」

アリスターは小さい箱に小さい魔石を入れて、かちっと鍵を閉めてバケツに放り込んだ。するとすぐに湯気が上がった。

「しゅごい」

「初めて見たか? これで湯をちょうどいい温度にするんだ」

バケツの中に立たせてもらって、テントの中で風が当たらないように、急いでお湯で体を拭いてもらった。髪もきれいにしてもらって気持ちいい。新しくもらった着替えは、ゴワゴワして肌触りは悪かったけれど、少なくとも清潔だ。

「お前の着てた服は、上着以外はきれいに洗濯して売ってしまおうな。身元がわからないほうがいい」

「あい」

売ったほうが足がつくのではなどとうがった事を考えたが、説明しようがないので黙っていた。むしろ足がついた方がいいのかもしれないし。屋敷では灯り用の魔石しか見たことがなかったが、どうやら思ったよりいろいろな使い道があるようだ。

寝る準備をしていると、ヴン、と、あの気配がする。私とアリスターはテントの中から同時に同じ方向を見た。

「お前、やっぱりわかるんだな。ハンターはこの気配に敏感じゃないとなれないんだ」

そうなのか。

「俺たちはせっかくだからこんな時は結界を利用して狩りをするのさ。結界の中は大丈夫だから、リアはテントの中で休んでいろ。いいな」

そう言うと、大人に比べると小さい剣を抱えてテントの外に飛び出した。私はそっとその後を追ってテントの外に出た。テントの中にいろって? うん、とは言わなかったから大丈夫。

こんな機会めったにない。虚族がいる世界で生きるためには、見る機会があるなら見るまでだ。

アリスターたち五人は、大人二人は結界の中に残り、残りが結界の外ギリギリに出て戦うというスタイルで狩りをしていた。見ていると、虚族はやはり山のほうから現れる。遠くにいるときは、空気の揺らぎのようにしか感じないが、ヴン、と気配を感じるのは一定の距離まで近づいた時のようだ。

アリスターは誰よりも先に虚族の気配を感じ取るので、対応が早い。しかし、10歳の体は体力がなく、次第に動きが悪くなっていく。

「アリスター、戻れ」

「でも」

「戻れ」

それをバートが冷静に判断し、戦列から外していく。アリスターは悔しそうに、それでも狩りから目を離さずに待機している。そうして次々と来ていた虚族も、数を減らしていく。

「きりがねえ。今日はこれで終わりだ。ミル、見張りは一番手でいいか」

「あいよ。次はキャロでいいな」

「それでいい。クライド、バートの順だぞ」

結界があっても、一人は見張りに立てるようだ。バートはテントのほうに振り向くと私を見てあーあと言う顔をした。

「おーい、ちび」

「りあでしゅ」

「アリスター、こいつテントの外に出てたぜ」

「あ、リア! テントの中にいろって言ってただろ!」

「あー」

そんなことも言われたかなと言う顔をしてみた。

「リア!」

「ごめんなしゃい」

すぐにばれた。

「まあ、テントの中にいるより、実物を見てた方が怖くないかもしれん。それに」

「それに?」

バートが怒られそうな私を見てとりなしてくれた。そもそもアリスターに言いつけたのはバートなのに。

「目の届くところにいたほうがいいんじゃねえのか。どうせ結界の中なんだし」

「でも」

そのほうがいいと思う。私はアリスターをまじめな顔で見た。ほっぺはぷくぷく、金の髪は洗い立てでサラサラだぞ。

「くっ、リア、卑怯だぞ」

赤ちゃんがかわいいのは卑怯ではありません。こうして私はみんなの見えるところで虚族の狩りを見学する権利を得たのだった。

「いりゃないませき、ありゅ?」

次の日の昼休み、私はバートに聞いてみた。

「いらない魔石? いらない魔石はないが、魔石ならいろいろあるぞ」

そう言うと、結界箱からだけでなく、携帯用コンロ、携帯用ランプなどから魔石を外し、さらに竜に付けてある袋から使っていない魔石を集めて持ってきてくれた。

「このたくさんあるやつが、ケアリーの町を出てから狩った虚族の魔石。とれたてほやほやな」

それは様々な大きさだが、どれも濃い紫で魔力がぎゅっと詰まっているのがわかる。結界箱に使われているような少し大きいのが二つほどあった。

「これはめったに取れない大きいもの。おそらくだが、たくさん命を吸った虚族の抜け殻だ。お前にとってはつらいものかもしれないが、俺たちにとってはものすごい収穫だった。すごく高く売れるんだ、これ」

それはつまり、私たちを襲った虚族のモノと言うことだ。

「で、こっちが小さくて灯り用にしかならない魔石」

大人の小指の先くらいだが、ランプからはずしてきたので使いかけなのか色が薄くなっている。家で使っていた明かりの魔石よりずっと小さい。

「多少は調節がきくけど、魔石の大きさに合わせて魔道具が作られるので、魔道具は結構高いんだよ。ハンターになってもしばらくは野営の道具をそろえるので精いっぱいだな」

なるほど、オーダーメイドなのか。もしかして侯爵家の灯りなんて、どれもオーダーメイドだったりして。ちょっと怖いので考えるのをやめよう。

「しかもさあ、魔道具職人は魔力もちだから、たいていキングダムの中に囲い込まれてるんだよ」

「どうやって、ちゅくる?」

キングダムの中にしかいないのなら、どうやってオーダーメイドするのだろうか。

「魔石をキングダムに売って、売られた魔石に合わせて魔道具が作られ、それがまた辺境に戻されるんだ」

「ねだん、たかくなりゅ」

「そうなんだよなー、辺境にもっと魔道具師がいてくれたらいいんだけどなあ」

「ひとり、くる。あと、そだてりゅ」

「誘拐でもしねえとなあ。魔道具師はほとんど王都にいて、王都から出ないように規制されてるらしいんだぜ」

「さらう、だめ」

さらわれてきた私の言葉に、バートは私の頭をぽんぽんと優しくたたいた。

「そうだな。だめだよな。自主的に来てくんねえかあ」

そんな説明を受けながら、私は一番小さくて色の薄くなっている魔石をもらった。これをアリスターの訓練に使うのだ。