軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄さまはお悩み

去年の夏の終わり、アリスターたちと夜の町に出たいと言ったときはあれほど反対されたのに、今回は兄さまは夜はお出かけし放題だった。というより、ファーランド一行に付き合わされたと言ったほうが正しいかもしれない。

「たまに行くのならいいんですよ。民が明るく過ごしているのを見るのは楽しいから」

「リアはまいにちでもいきたい」

いちおう、私の意見も伝えておこう。このところ、大きい人の愚痴ばかり聞いているような気がするから、自分の気持ちも表明しておかなければ。

「リアは元気ですね」

しかしさらりとかわされてしまった。

「しかし、お酒もたしなまない私が毎日夜に出歩いてどうするんです? 食事なら何度か共にすれば、外交上十分ではありませんか。これからウェスターに行く旅路で、いやというほど顔を合わせるというのに」

「にいさま、たいへんね」

私は一度しか顔を合わせていないカルロス殿下の顔を思い浮かべた。

「フェリシアは?」

「カルロス殿下は同行してほしがっていましたが、夜の町にうら若き女性を連れ歩くなどあり得ません。本人も嫌がっていましたし、スタンおじさまがきっぱり断っていましたよ」

だとすると、たぶん兄さまを連れ歩くのが楽しいんだろうなと思う。

「カルロスでんか、ギルじゃなくて、にいさまのとなりにすわりたがるでしょ」

「なぜリアがそれを?」

兄さまが驚いたように私を見たが、観察力としか言いようがない。

「にいさまがきれいだから。よる、となりにいて、きれいないろだから」

「ギルの瞳の青は夜は目立たない?」

「あい。あと、カルロスでんかとにてる」

「私の髪と目の色は、連れ歩くのに気分がいい、と、そういうことですか」

「そう」

美しいもの、華やかなものが何よりも好きそうだった。美しいものを、自分を飾るアクセサリーにしか見ていない、そんな気もした。

「そんな考えの者がいるとは思いもしませんでした。向こうは気分がいいかもしれないが、私は気分が悪いです」

「にいさま、ほんとね」

私もため息をついた。たったあれだけの出会いでは、カルロス殿下が本当はどんな人なのかはわからない。だが、これまでに最初の印象を覆すだけのよい出来事がまだないのも確かなのだ。

「話すことも、夜に出歩ける楽しさや服、建物の様式や文化の違いのことばかりで、飽きてしまいます。リコシェやジャスパーもしぶしぶという感じで付き合っているし、ランバート殿下は私たちに丸投げだし、マークとギルが付き合ってくれるから何とかなっているものの、ちょっと疲れてしまいました」

旅に出る前から疲れてしまっては、これから長い旅はどうなるかと思うが、私は兄さまの話を聞いてちょっと興味を持った。

「たてものやぶんかのちがい? にいさまはきょうみない?」

「あまり。違いがあるなあとは思いますが、何時間も語るほどの興味は持てません」

文化の違いに興味があるのはいいことだと思う。建築に興味があるということは歴史が好きだということだ。

「旅の竜車は別々と言うわけにはいきませんよね。食事も一緒だろうし、私はどうしたらいいんでしょう」

兄さまが途方に暮れるのは珍しい。

だが、私は知っている。疲れてどうしていいかわからないのは、自分のペースで物事が進んでいないからだ。

「にいさま、リア、こうおもうの」

ランバート殿下は、疲れているなか、ファーランドの一行が王都に来るのは迷惑だと匂わせた。大人組は、お父様もマークもみんなそんな雰囲気だ。だが、逆に考えれば、これは私たちにとってよい機会なのではないだろうか。

「リアやにいさまがおおきくなったとき、カルロスでんかはかならずおつきあいするひと」

「リアも私も? 大きくなった時?」

私は兄様に頷いた。

「ランおじさまのおてつだいかもだし、ニコのおてつだいかも。でも、リアやにいさまのじだいがきっとくる」

いつまでも子どもではない。今はお父様たちが頑張ってくれているけれど、その後キングダムを支えていくのは私たちなのだ。

「そのときは、ヒューや、カルロスでんかのじだいでもあるでしょ?」

「いずれ、私たちの時代がくる。その時、交流するのは、ヒューバート殿下やカルロス殿下その人。たとえ今はうっとうしくても、必ず付き合わなくてはならないということですか」

「そう。そのとき、にいさまはどうしたい?」

私のつたない言葉で伝わるだろうか。

「ランおじさま、おとうさまも、ファーランドやイースターのことがわからなくて、いつもつかれてる。リアたちは? ちいさいけど、もう、ヒューともカルロスでんかとも、ともだちよ」

「カルロス殿下は友だちではありません」

一言で切り捨てられてしまったが、兄さまはそれ以外のところはちゃんと考えてくれていた。

「ウェスターの王族とも、ファーランドの王族とも、今からちゃんと知り合っておけば、私たちの時代になっても困らない、そういうことですか」

「あい。リア、そうおもうの」

兄さまは難しい顔で黙り込んだ。現在進行形で仲良くなれそうもない人と友だちになれと言われて、はいそうですかとは言えないのは確かだ。

「リアはね、なかよくなるって、むこうにあわせることじゃないとおもうの、にいさま」

「リア? どういうことですか?」

もてなそうと思うから疲れるのだ。私はニヤリとした。

「にいさまがやりたいようにやって、むこうがついてくればいいとおもう」

「リア……。ほんとにリアは……」

私は目をくるりと動かして見せた。

「かわいい?」

「もちろんです。かわいくて、愛らしくて、私の一番大事な妹です」

そもそも妹は一人しかいないけれども、ギュッと抱きしめてもらったので、まあよしとする。

だが、現実問題としてどうしたらいいのか。もうすぐ旅立ちだから、王都でできることはほとんどない。頭を悩ませる兄さまを眺めながら、私は今の話を自分でも考えてみた。

カルロス殿下が、文化の違いや建築に興味があるとは本当に意外だった。それだって、美しいからという理由だけなのかもしれないが、第一印象があまりよくないとはいえ、どのような人かは私は本当に知らないのだ。建築に関してはよくわからないが、それなら夜の町をぶらぶらさせるだけでなく、専門家を手配して説明させればいいのに。

「せんもんか……」

「リア、なんですか」

私はひらめいた。

「オッズせんせい!」

オッズ先生はオールバンスの図書室にまんまと引き寄せられて授業に来てしまうほどの歴史の研究者だ。建築に関して詳しいかどうかは知らないが、旅に同行してもらって、いっそのことカルロス王子に授業をしてもらえばいいのだ。

「オッズせんせいをつれていけば、じゅぎょうしてもらえる!」

「旅に出てまで、リアたちにですか?」

「ちがうちがう。カルロスでんかに」

遊んでばかりの人なら、勉強させればいいのだ。

「他国の王族に勉強をだなんて……」

「オッズせんせい、すきにべんきょうさせてくれる」

最初こそ堅苦しかったけれど、私たちがやってみたいことにアドバイスをくれて、結果が出るまで見守ってくれるよい先生なのだ。

「もともとがくいんのせんせいっていってた」

「ええ、学院では授業は担当しませんが、教授として研究室は持っていますね。そうか」

兄さまはよいことを思いついたという顔をした。

「もともと長い旅の間、ギルと政策について議論しようと思っていたんです。二人でなら、結界のこと、キングダムのあり方など、これからのことを語り合えるから」

私はぽかんと口を開けてしまった。私は旅の間、ニコと何をして遊ぶかということしか考えていなかった。ラグ竜のかごに乗るとか、草原を走り回るとか、草を思い切りむしるとか、そういうことだ。

「にいさま、すごい」

「すごくないですよ。前回はリアのことで頭がいっぱいで、ウェスターに着くまで有意義には過ごせなかったので。お父様に頼まれた魔石の件もあったし」

兄さまは私の鼻の頭をちょんとつついた。

「今回はまったくそういう心配はしなくてもいいんですよね。いえ、お父様からはやっぱりお仕事を任されているんですが、それはまあいいとして」

どうやら兄さまたちには私の知らない役目があるようだ。せっかくウェスターの領都シーベルまで行くのだから、いろいろしてこいということなのだろう。

「どうせカルロス殿下たちには物見遊山以外の目的はなさそうですしね。やろうと思っていた勉強計画をもう少し念入りに立てて、それにファーランド一行とオッズ先生を巻き込みましょう」

一気に元気になった兄さまに私はうんうんと頷いた。

私がそう提案してからの兄さまは生き返ったようだった。

「魔石や魔道具、結界など、キングダムの秘匿事項に関することは一切排除するとして」

本当は魔道具について皆でわいわい実験や検証をしてみたかったのだが仕方がない。

あとでニコと二人でこっそりやろうと思う。

「産業、統治、文化、歴史など、面白そうな項目をいくつも用意しましたので、そこからカルロス殿下にも興味が持てるものを選んでもらい、竜車の中で一日に一つか二つ程度、足りないところをオッズ先生に講義してもらいつつ討論しながら進めば、無駄がありません」

「りあ、すばらしいかんがえだとおもう」

「移動以外はキングダムの各町を楽しんでもらえればよいわけですし」

10歳以上年下の兄さまに勉強計画を立てられていると知ったら、ファーランド一行はどう思うかが気になったが、私の仕事はニコを楽しませること、すなわち自分が楽しむことだ。出発日はすぐそこまで来ていた。