作品タイトル不明
久しぶりの誕生会
お父様に今までの誕生日のことを聞くと、誕生会などしたことがないという。
「一歳のお披露目の時と」
「まえしゅぎでしゅ」
「18歳の成人の時と」
「とうぜんでしゅ」
「……」
お父様の思い出の少なさにあきれる私と兄さまに、執事のジュードが通りがかりに慌てて補足していった。
「大掛かりではないというだけで、ご家族でおめでとうをしていたではないですか」
「ああ。そういえば」
お父様はこういう人である。
「今年は去年のルークのように、家族でリアとルークにお祝いされるだけの誕生会がいい」
「お父様、駄目ですよ。スタンおじさまとギルが呼んでくれと言っていたでしょう。それに」
兄さまが何かのメモをちらりと見た。
「リスバーンが呼ばれるならうちもと、マークのところが言ってきているし、イースターに行く前に私だって息抜きがしたいとランバート殿下からも招待するようにという伝言をいただいていますし」
お父様の顔が無表情になった。面倒くさいと思っている顔だ。
「もちろん、フェリシアとクリスも呼びましょう。レミントンの次代は、リスバーンだけでなくちゃんと残りの三侯が支えていくのだと示すことも大事ですよ」
「仕方がない。警備が大変だが、四侯、いや、三侯とレミントン、それに殿下方を招待してやるとしよう」
「ニコもくりゅ!」
「ランバート殿下だけなどうっとうしくてかなわぬからな」
ニコのほうがまだましということらしい。通りがかったまま気になってうろうろしていたジュードにお父様が声をかけた。
「ジュード、頼めるか」
「もちろんですとも」
ジュードはいそいそと指示を出しに行ってしまった。面倒ではないのだろうか。
では私もお父様に何ができるか考えてみよう。お芋はもちろんつぶすとして、兄さまの誕生日の時と全く同じというのもつまらないではないか。
「そうだ! かんむりをちゅくろう!」
紙で作った王様の冠をかぶせるのだ。本物の王子様も来るわけだが、そこはいいだろう。
「くらっかーはないから、かみをちいしゃくきって」
いや、季節は夏の終わりだ。庭師から庭の花びらをもらって、花をまくのはどうだろう。兄さまが微笑んで見守る中、私はあれこれ考えて兄さまと相談を重ね、お誕生日の当日を迎えることになった。
お父様を祝福するようにきれいに晴れあがった空は青く、まだまだ秋の気配もないが、招待する人数も少なめということで、温室とそこに続く客室を誕生会の会場とした。温室とはいえ夏は風を通しているので、案外涼しいのである。
次々と到着する客をお父様と兄さまと私が玄関で迎え、人数が集まったところで温室に案内する。とはいっても、マークとハロルドおじさま、ランバート殿下とニコ、ギルとスタンおじさま、フェリシアとクリスである。
フェリシアとクリスが来た時には、久しぶりすぎてさすがに泣きそうになった。
「くりしゅ! ふぇりちあ!」
「リア!」
私は上品に立つクリスに飛びついた。会わない間に少しお姉さんになったようだ。涼しげだが目の色に合った紅茶の色のドレスを着ていて、これぞお姫様という風情である。
「リア、しゅくじょはね、とびついたりしないものなのよ」
「りあ、まだようじだから」
だから飛びついてもいいのだ。
「そうねえ」
クリスが、幼児もいい気がするという顔をしたので、私は一押ししてみた。
「くりしゅもまだこどもでしゅよ」
そして悪い顔をしてクリスをそそのかした。
「まだ、はちりまわってもいいんでしゅよ」
「……いいかしら」
「いいの。しょれと、ちょっときて」
私は心配そうなフェリシアに目で合図すると、クリスを控室に引っ張っていった。私たちには私たちのお仕事があるのだ。
「いったいなぜ当主がひっこまねばならん」
お客がそろって、お父様が首を傾げながらジュードに別室に連れていかれた後、私とクリスはお花のかごを持って、温室につながる部屋に移動した。
「これをディーンおじさまにふりかけるのね」
「あい。きょうのしゅやくでしゅ」
「クリスよりおさないわたしがそれをするべきではないか」
ニコもやりたいらしく不満そうなので、急遽椅子をもう一つ用意し、私とニコ、クリスでドアの両側に分かれ、置いてある椅子に乗ると、お父様の入ってくるのを待ち構えた。皆が談笑しながら待っている中、すぐにジュードがお父様を連れてきてくれた。
「殿下方、そして四侯の友よ、今日は私のために、ん? リア? 殿下にクリスも。何をしている?」
ドアを開けてすぐに挨拶をするお父様の横で、私たちは目を見合わせると、かごの中に手を入れ、花びらをつかんだ。
「おとうしゃま、おたんじょうびおめでとう!」
「「おめでとう!」」
私のかわいい声と共にお父様のお腹に花びらがぶつかった。ニコのお花もクリスのお花も中途半端な場所にかかってしまっている。しまった。お花を上に投げる練習をしておくべきだった。
固まったお父様は、おなかに当たって足元に落ちた花びらをじっと見ると、すっと片膝をついた。
少し悲しい気持ちになっていた私の顔はぱあっと輝いた。これでお父様の上から花を降らせることができる。
「おめでとう!」
お父様の頭の上にも肩の上にも花びらが降り積もった。
「終わりか」
「あい!」
「ありがとう。いい香りだ。クリスもありがとう。ニコラス殿下もありがとうございます」
私たちはお父様のお礼の言葉にキャッキャッとはしゃぎながら、主役のお父様に椅子から下ろしてもらった。
そしてお父様は私を足に張り付けたまま、反対の足にはクリスをそっと引き寄せた。そして花びらをあちこちにくっつけたまま、改めて挨拶をしようとしたが、気が抜けたのか、それは短いものだった。
「まあとにかく、もうたいしてめでたくもない年ではあるが、来てくれてありがとう」
ここで拍手である。
「では、後は歓談していってくれ」
それだけであった。しかし、皆も心得たもので、花びらをつけたまま話に入るお父様に苦笑しながらも、誰も指摘することなく、楽し気に話を始めた。
「わたしたちは何をしようかしらね」
「そうだな。だれもしろにこないから、わたしもまいにちたいくつでつまらなかった」
「でしゅよね。あ、でも、りあ、ちごとしゅる」
「「しごと?」」
ケーキの仕上げの仕事が残っているのだ。
「ケーキ? 私もいってもいい?」
「わたしもだ」
私たちはわらわらと部屋の外に飛び出した。