軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王子の背負うもの

サイラス王子が竜の間を出ていくと、緊張した空気が緩むかと思えば、そんなことはなかった。

「虫唾が走る。レミントンにも、イースターにも」

そうはっきり言ってしまったのは、モールゼイのハルおじさまだ。

確かに、レミントンの言っていることは、要は自分は自由にしたいのよということに尽きる。キングダムよりイースターのほうが自分が自由で楽だからそうしたいということを、まるで美談のように語るからこちらを苛立たせるのだ。

「私はレミントンの言うことにはかけらも意味があるとは思えぬ。モールゼイは、レミントンはそもそもなかったものと考える。そして、イースターとはかかわらない。わが家の役割は、キングダムの結界の維持である。失礼する」

そう言うと、一人でさっさと竜の間を出てしまった。マークはと言うと、困ったような顔で、それでもこの場に残っている。

「父の言ったことが、モールゼイの方針です。ただ私は、個人として、若い世代の貴族としてここに残ります。かかわらなければ済む問題でもないような気がしますので」

ハルおじさまに叱られないだろうか。ちょっと心配する私に、マークはにやりとして見せた。

「お前は好きにするがいいという許可はもらっているよ」

「さしゅが、はるおじしゃま」

「さすがマーク兄さまと言ってもいいんだよ」

ちょっとだけマークを見直した私は、にっこりと笑った。しかし、すかさず兄さまが答えた。

「さすがです。マーク」

「ルーク、そこまでリアに兄さまと言わせたくないの? 心が狭いな」

「さすがと言ったことを撤回しますよ」

いろいろ考えるべきことはあっても、子どもの私たちは通常通りである。そんな私に、お父様がしゃがみこんで言い聞かせた。

「リア、私たちはこれから歓談や交流とやらをせねばならぬ。モールゼイは参加しないと言ったが、そういうわけにもいかないからな。だが、リア。お前の役割はここで終わりだ。おとなしくうちに帰れるな?」

「……」

私はすぐにはいとは言えなかった。サイラス王子との今のやり取りだけで、その危険性をわかってもらったとはとても思えなかったからだ。

お父様がもう少し私に言い聞かせようと口を開いた瞬間、段の上のニコから声がかかった。

「リア、わたしもこのあとのパーティにはでるつもりはない」

「ニコ、何を言っているのだ。結局何度も会うことになるのだから、サイラス王子と直接話をしてみたいと言っていたではないか」

すかさずニコ大事なアルバート殿下の突っ込みが入った。しかし、ニコはちらりとアル殿下を見上げると、返事をせずにそのまま私に話しかけた。

「リア、だからちちうえたちのしごとがおわるまで、いつものようにとしょしつですごさないか」

「ニコ。どうしたのだ。オールバンス、あなたもなぜリアを帰らせようとする。リアは少しやんちゃだったかもしれないが、友好的な雰囲気だったではないか」

この言葉でお父様のこめかみがぴきっと音を立てたような気がした。しかし、お父様が口を開く前にやはりニコが先にこたえた。

「おじうえ、もしリアがいもうとだとしたら、わたしはあのおとことリアをおなじばにいさせようとはおもえぬ。なにやらいやなこころもちであった」

兄さまとギルがその通りと言う顔で頷いた。

「みきわめは、ちちうえとおじうえにおまかせする。リア、いえにかえりたくないなら、わたしとあそぼう」

「あい!」

お父様だけでなく、兄さまも帰らない家で、一人待っているのは落ち着かない。ニコと一緒なら楽しく待てるし、少なくとも城から帰るときには一人ではない。

「はんす」

「はい、リーリア様」

「きょうは、にいしゃまについてて」

「それは……」

ハンスはまずお父様を見て、お父様が頷くと仕方なさそうに了承した。私も兄さまが危険だとはつゆほども思っていない。でも、ハンスにも、サイラス王子をよく見てほしかったのだ。

「では、わたしとリアはさきにしつれいする」

「しちゅれいちましゅ」

私とニコは、ハンスがいない分なのかいつもより多い護衛に守られながら、手をつないでいつもの図書室に向かった。

「なにやらへんなおとこであったな」

「あい。きけんでしゅ」

護衛やメイドもいる中、あいつは人を平気で傷つける奴なのだとは言えなかった。

「リア、もしサイラスおうじがきけんであるならば、それはよくないことだ」

「よくないこと?」

「うむ。おうじというものは、くにをせおうもの。サイラスおうじがきけんならば、それはイースターがきけんだということになる」

私はぽかんとした。サイラス王子は私を直接襲った人だ。だから嫌いだし、悪い人だと思っていた。

しかし、兄さまもお父様も、キングダムとイースターとの国交は良好だという。だから、サイラス王子が勝手にやったことのような気がしていたのだ。

「リア、わたしがおおきくなって、すきかってなことをしたとき、それをきんぐだむがしらぬとおもうか」

知らないわけがない。王子と言うものは、そんなに自由ではない。

「たとえだいさんおうじといえど、いや、だいさんおうじだからこそ、あのおとこのやることは、すべてイースターはしっていると、わたしはおもう」

「じゃあ、りあは、いーしゅたーに……」

それ以上は口に出してはいけない。つまり、イースターが裏で糸を引いていたから、さらわれたということなのか。でも、いったいなぜだ。

「ひとちゅじゅちゅ、へりゃしゅ」

「リア?」

「まじゅ、りあ。おーるばんすのよびを、なくしゅ。ちゅぎにれみんとん。よんこうをひとちゅ、なくしゅ」

私は立ち止まり、ニコのほうを見た。

「しょのちゅぎは?」

「……わからぬ」

もしかして、思っていたより大変なことが起きているのかもしれない。私とニコは、護衛に促されるまで、その場に立ちつくしていたのだった。