軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

非常食

ニコ曰く、「よんこうのうちふたつしかおうとにいない」状況でも、マークはのんきに遊びに来る。いや、先生として、あるいは同級生としてやってくる。私は頭の中でよく考えてみた。

「やっぱり、あしょびにきてましゅ」

そういう結論になった。ニコも心配そうにマークに尋ねている。

「マークがいてくれてうれしい。しかし、マークはおうとのそとでしごとをしなくてもいいのか」

「おいおい、忘れちゃ困るよ。私の仕事は、結界の魔石に魔力を注ぐこと。そして父の政務の手伝いをすること。モールゼイの政務とは、王都内の管理。だから、王都の外には行く必要がないの」

まあ、本人がそう言うのならいいのだろう。

「まったく、他の四侯が急に忙しくなったからと言って、私がさぼっているみたいな言い方はやめてくれよ。人聞きの悪い」

私はニコと目を合わせて、そっと横を向いた。本人がそう思っているのなら、それでいいのだろう。

「待って。ねえ、なんで幼児組に仕方がないなあと言う顔をされるのかな、私。ねえ」

フェリシアは視察だし、クリスも来ていないので、今日のお城の見学は私とニコとマークの三人だ。

私はちょっとため息をついて、ポシェットから飴を取り出した。口の中に入れるとほろりとほどける飴なので、大人がいるところでなら食べてもよいと許可をもらっている。それをマークに差し出した。

「あい」

「しょせん私は、飴で懐柔される程度の大人なんだよ」

「いらないならわたしがもらう」

「いらないとは言っていないよ」

手を伸ばしたニコに取られないよう、急いで飴を口に放り込んだマークに大人の威厳はない。もちろん、私はニコにも飴を手渡した。

「リアはいつでもたべものをもっているな」

「そういえば結界の間に行った時もおやつを持ってきていたね」

きっかけは、さらわれて思うようにおいしいものが食べられなかったことだ。

「いじゃというとき」

「いじゃ? ああ、いざという時、ってことかい」

「あい。たべもの、みじゅ、だいじ」

真面目に頷く私に、ハンスとナタリーが沈痛な顔をしている。それを見て取ったマークが、やっとああ、と気づいた顔をした。しかし、同時に何人かいる護衛の方にも目をやった。

「もうさらわれたりしないだろうに」

「しゃらわれなくても、あなにおちたりちましゅ」

「ブフォ」

今沈痛な顔をしていたのは誰だったか。

「たしかに、たべものをもちあるくのもいいかもしれぬな」

「にこはおうじしゃまでしょ」

王子様が非常食を持ち歩くのはカッコ悪いと思う。

「リアだってこうしゃくれいじょうなのだぞ」

「こうしゃくれいじょう……」

それは食べられるものだろうか。言われたことに一瞬理解が追い付かなかった私は思わずぽかんと口を開けてしまった。こうしゃくれいじょう、侯爵令嬢か!

「たちかに!」

今度は失礼なハンスだけでなく、全員が笑い転げている。いやいや、幼児は幼児、令嬢も何もないではないか。

「こうしゃくれいじょうがおやつをもちあるいていいなら、おうじがもちあるいてもいいだろう」

「うーん」

私は腕を組んで考えた。ニコが持ち歩いてもいいのだが、他に何か方法はないか。私ははっと思いついて腕をほどいた。

「にこ、ひみちゅきちでしゅ!」

「ひみつきち? なんだそれは」

「ええと、ないしょのおうち」

私がしゃがみこむとニコもしゃがみこんだので、声を小さくしてニコにだけ聞こえるようにした。

「きのうえとか、ほんだなのかげとか、ちいしゃいべっそうのようなもので……」

「なるほど」

「おとなにないしょだから、ひみつ」

「なるほど! おもしろそうだな」

何となくわかってくれたようだ。

「しょこにおやちゅをかくちましゅ」

「よくいくところにおいておけば、もちあるかなくていいというわけだな」

「あい! ながもちしゅるたべものがいいでしゅ」

「よし! あすのべんきょうは、オッズせんせいにたのんでたべもののリストをつくるじかんにしよう」

最近オッズ先生は自主的な活動に協力してくれるようになったので、大丈夫だろう。頼もしい味方である。

「どこにおくかもだいじでしゅ」

「それもリストだな」

ニコは割と計画的なのだ。

「では、まずよく行く温室に作らないか」

後ろからマークの声がして私たちは飛び上がるところだった。他の人がいることをすっかり忘れていた。周りを見渡すと、皆さっと目をそらして聞いていなかったような顔をしている。絶対聞いていただろうな。

「マークはおとなではないか」

ニコが冷たいことを言っている。

「仲間外れはずるいだろ。それに、私を仲間にすると、食べ物が簡単に手に入るよ」

マークは大人だが、四侯の子どもなのだから子どもとも言えるか。私はニコを肘でつついた。

「なんだリア」

私は目と身振りで訴えた。王子でも侯爵令嬢でも、私たちにはお小遣いもない。ここはマークにスポンサーになってもらおうではないか。

「もしやおてあらいか」

「ちーがーいーまーしゅ」

「わかっている。ではマークもなかまか」

「くりしゅも」

ここにいなくてもクリスは仲間である。

こうして、マークのお城探検の授業の日は、秘密基地探索の日にもなった。

しかし、それは兄さまに盛大に文句を言われることにもなった。言われたのは主にお父様だが。

「そもそも私だってリアと楽しく遊びたいのに、週末と週一度の授業で我慢しているのですよ。しかも午前中はつまらない授業をちゃんと受けてからです。私は怒っています」

怒っているらしい。

「こんな時こそ、学院に四侯の特権を使ってください。マークの来る日は、私も行きます。四侯としての修行だと言えばいいではないですか。あながち間違ってもいないのだし」

そうお父様に主張している。

「授業の内容はもう卒業する分まで理解しています」

なんだって! さすが兄さま。

「にいしゃま、しゅごい!」

「リア!」

安定の抱っこである。

「わかったわかった。だが、楽しく遊んでいると非難されないように、その、少しは真面目に、あー」

お父様がどう説明したものかと頭を悩ませている。

「わかっています。必要ならレポートも書きましょう」

兄さまがにやりと笑った。

「そ、そうか。次代の四侯は皆頼もしい、のか」

お父様を戸惑わせるくらい頼もしいのである、たぶん。遊び好きなわけではない。