軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

城は丘の上に

季節はもうすっかり春である。

「今日はラグ竜の厩舎に行くよ」

「あい!」

「はい!」

「はい!」

「……はい」

今日はマークが先生の日だ。マークの声に私たちは手を上げて元気に返事をした。最後の小さい声はフェリシアである。

「フェリシア、せいととしてさんかするなら、もっとおおきなこえでへんじをせねばならぬ」

「まあ」

ニコがもっともらしくそう言うが、思春期のお嬢さんに三歳児に合わせろというのは酷であろう。しかしフェリシアは、恥ずかしそうにしながら手を半分だけ上げた。

「こうかしら。はい!」

今護衛が全員倒れたのではないか。クリスに抱きつかれ、ちょっと照れてニコニコしているフェリシアのなんとかわいいことか。

「うむ。それでよい」

しかし、三歳児にはフェリシアが手を上げたことのみが重要らしかった。腕を組んで偉そうにうなずいている。

「といっても私も実は行ったことはないんだけどね」

「そうなのか」

ニコがおかしくないかと言う顔をする。

「だって、必要なら竜車が用意されているだろう。ほら」

確かにマークの目線の先には、厩舎に行く用の竜車が用意されていた。

「私だって、城の中なんて君たちよりほんのちょっとしか知らないんだぞ。だから授業のある日は事前に調べてからくるのであって、たいていのところは行くのは初めてだな。実は温室も初めてだったし。はは」

「まーく……」

私は思わずあきれてマークのほうを見たが、よく考えてみたら、よく城を知っているほうがむしろおかしいような気もする。勉強してから来てくれるのなら、それはそれでありがたい。

「さ、もっとも厩舎は五つあるそうだから、急いで回るぞー」

「いつつ!」

これは驚きだ。

「大きい放牧場は別にあって、必要な分だけ連れてくるんだそうだ。あとは城に来る竜を預かる役割だな」

これは確かに勉強になる。それから私たちは、竜車に乗りながら厩舎巡りをした。

厩舎と言っても、どれも小さい放牧場がついていて、ラグ竜はのびのびと過ごしているようだった。

「りゅう!」

「キーエ!」

「キーエ!」

私が声をかけるとラグ竜が寄ってくる。

めずらしいわね、のっていくのと伝わるが、私は首を横に振った。

「のりゃないの。きょうはけんがくにきまちた」

そうなの、いつでものっていいのよと頭に鼻息をかけるから、私は思わず笑ってしまう。隣のニコにもクリスにも鼻息を吹きかけている。からかっているのだ。

「リアは本当に竜に好かれるなあ」

「りあもりゅうがしゅき」

「キーエ!」

なぜかどの厩舎の竜も私たちを知っている。不思議なことである。

王都の真ん中、少し小高い丘になっているところにキングダムの王城は建っている。外側にある厩舎を順番に回っていくと城を一周することになる。竜車でなければどのくらい時間がかかったことかと思う。

「キングダムの城は王都の真ん中にあるから、もし敵に囲まれたら籠城するしかないよな」

もうすぐいつもの場所に戻るというところで、マークがそうつぶやいた。ニコに聞かせたいのか、フェリシアに聞かせたいのか。

だが、私はその可能性自体がありえないと思う。小高い丘の上に建っている城はかなり大きい。これを囲めるだけの兵を、他の三領が持っているとは思えないからだ。だが、マークは思いもかけないことを言い出した。

「キングダムの国境際での小競り合いはあっても、ここ王都まで攻め入れられたことはないんだ。なぜだかわかるかい?」

「けっかいをつくるひとを、がいするわけにはいかないから」

ニコがまじめな顔でそう答えた。フェリシアはまっすぐにマークを見ているだけだ。

「私は逆だと思うんだよ、ニコ殿下」

「ぎゃく、とは?」

マークが難しいことを言い出した。

「キングダムを攻略しようとしたら、四侯と王族だけを押さえさえすればいいだけだからだと思うんだ」

「だが、それではけっかいがなくなってしまう。たみのことはどうするのだ」

「そうだよねえ、殿下。殿下はいい子だ」

マークはニコの腕をポンポンと叩いた。

私はマークから目をそらし、竜車の外から地平を眺めた。その向こうに結界に守られた民がいる。

領地を削るとか、ラグ竜の利権とか、そういうことで争うことはあるのだろう。しかし、キングダムという国そのものを攻め滅ぼそうとする領は今まではなかった。

ただ、マークの言っていることはつまり、キングダムの民のことなどどうでもいいと考える人が敵にいたら、どうなってしまうのかということだ。

「マーク、四侯や王族を一時的に抑えたとしても、民を守れない人はキングダムを治めることはできません」

フェリシアが静かに答えた。それは正しい。フェリシアは民を守るという立場でものを考えることができている。

でも、そもそも守るつもりも治めるつもりもなかったら?

私はぶるっと震えた。

「リア、もうすこしだからがまんするのだ」

「なにを?」

「ひとつまえのきゅうしゃでてあらいによってくればよかったな」

「ちがいましゅ!」

一歳でおむつのはずれた私に何を言うのだ。気のきく幼児も考えものである。