軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大人なのに

次の週の半ばには、マークがやってきた。春なのに冬空の髪と冬空の瞳だ。オールバンスのメイドにも人気の冬の貴公子である。

「マーク!」

「まーくだ」

「マークか」

マークは、私たちを結界の間に連れて行って叱られた時から、授業には来ていなかった。兄さまと同じ、先生のはずだったのに。

それでも、楽しいことをしてくれるはずだから、私たちは歩いてくるマークをわくわくしながら眺めた。

「ニコラス殿下、そしてリア、クリスティン」

「クリスでいいわ」

「ではクリス。今日は天気がいいから、三人とも西の植物園に行ってみないか」

西の植物園。なんと魅惑的な響きだろう。私たちは喜んだ。

「マーク様、くれぐれも」

王子の護衛が渋い顔をしてマークに注意を促している。それはそうだろう。こないだ、マークが勝手に私とニコを結界の間に連れ出したことで、護衛もたっぷり叱られたのだ。

もっとも、この護衛たちは多少叱られたほうがいいとは思う。なにしろ、北の領地の視察では、いいところがまるでなかったのだから。

「ところで殿下、リア、私にはお土産をくれないのかい? クリスやフェリシアはもらったと聞いたが」

どこからそんな情報が流れたのだろう。フェリシアにはさすがに石や手作りのしおりをあげるわけにはいかず、オールバンス家からということで兄さまが何かを用意していたはずだ。同じように、モールゼイの家にも何かお土産を渡したものだと思っていたが。

「む、マークにはおじうえがみやげをよういしていたぞ」

ニコがもらわなかったのかという顔でマークを見上げた。

「もらったとも。もちろんルークからもギルからももらったよ。でもさあ」

マークは20歳だろうに、ちょっと口をとがらせて不満そうだ。

「殿下もリアも私の友達だろう。王都で留守番していた私に、直接何かがあってもいいと思うんだよね」

「マークはともだちではなく、せんせいではないのか」

「あ、殿下。そういうこと言う? 先生でもあるけど、友だちでもあるだろう」

「うむ。どうなのだろう」

そこでニコに私のほうを見られても困るのだが。私はちょっとため息をついて、ポンチョのポケットをごそごそした。

「あい。おみやげ」

「さすがリア! わかってるね。でもこれ、なんだい?」

「いち」

ポンチョのポケットの奥のほうにたまたま入れっぱなしだった、北の領地の黒い石である。本来メイドがきちんと手入れしてくれるのだが、私がおやつやいろいろな物をこっそり入れているのは見逃してくれているのだ。

「石だということはわかるけれども」

マークは困惑している。クリスがお土産をもらったというのは聞いていても、何をもらったかは聞いていないのだろうか。

「それはな」

ニコが私の代わりに簡潔に説明してくれた。

「きたのりょうちで、リアがあなにおちたときひろった、きねんのいしだ」

「しょのとおり!」

さすがニコである。

「北のきゅうりょうちたい、とくゆうの石なんですって。私は見せてもらっただけなのよ。マークはもらえていいなあ」

黒い石は二つしかなかったので、クリスには見せただけなのである。

「ふたちゅ。おうとにふたちゅちかないでしゅ」

「へ、へえ。珍しいんだね。ありがとう」

マークはポンと石を放り投げると、受け止めて握りこみ、それでもポケットに大事そうにしまった。

「なんか最近フェリシアも授業に参加してるみたいだし、私だけ仲間外れみたいでつまらなかったんだよね」

「マークはもうおとなで、けっかいのしごともしているではないか」

ニコはあきれている。

「それはそうなんだけど、それを言ったらフェリシアも実習期間に入ったし、ギルも来年からそうなる」

「ぎるも?」

「フェリシアとは一つしか違わないからな」

そう言われたら、ギルももう少しで成人なのだ。

「フェリシアやギルは、私とルークの真ん中なんだが、どちらかと言うとルーク寄りだし。その妹の君たちもそれはそれでまとまっているし。私だけ一人はずれていて、なんだかおもしろくないんだよ」

「マークはちちうえのなかまではないのか」

「ランバート殿下かい? そんな風に思ったことはなかったなあ。アルとは友達だけどさ」

ちなみにマークとなんだか対等に話しているニコは四歳に近い三歳、私は二歳、クリスは五歳である。いったい何を話しているのかとあきれてしまう。

「そもそもフェリシアはなんで君たちの授業に参加しているの?」

「それは……」

ニコは私とクリスをちらちらと見た。どう言ったらいいのかということなのだろう。

「ないしょなの」

「ないちょ」

悩むまでもない。内緒だと決めたではないか。

「私にも内緒なのかい? おんなじ四侯の子どもなのに?」

「こどもって、マーク」

ニコがマークは大人ではないかという目で見た。全くしようがない大人である。

「にいしゃまとふぇりちあにきいて」

「そうよ、姉さまにちょくせつ聞けばいいじゃない」

「ちぇ」

ちぇとはなんだ。護衛達も後ろであきれているではないか。一人笑いをこらえ切れていない人もいるが。

西の植物園は、温室があり、ウェスターのお花が少しと、たくさんの野菜や果物が栽培されていた。

「しゅいかだ! うぇしゅたーでたべまちた」

「私も食べたことあるけど、なつのものじゃない?」

温室だけあって、貴重なものが栽培されている。

「くいしんぼの君たちには、花の多い南の植物園より、食べるものが多い西の植物園のほうがいいと思ったんだよ。ここは実際、城の台所で使われるものが栽培されているからね。殿下の口にも入ってるし、食堂でも使われているんだよ」

確かにこれはちゃんとした社会勉強である。

スイカはさすがに高価らしく無理だったが、取りたてのトマトなどを食べさせてもらって、マークの授業は終わった。

「また会おうね」

とさわやかに帰っていくマークの株は、私たちの間でしっかり上がっていた。

「またね!」

「またね!」

「またあおう」

手を振る私たちは、それから数日後、ぽかんと口を開けることになった。

「やあ」

やっぱりさわやかなマークと、少しげっそりした顔の兄さまとギルとフェリシアを見て。

「私もルークの授業を一緒に受けることにしたんだ」

もう一人前で、四侯としての仕事をしているというのに、いったい何をやっているのか。

「さ、魔力を揺らしてみてくれないか」

どう考えても、勉強に来たのではなく、遊びに来たのに違いない。