軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結界の先には

夜にさらわれてから、今日で三日目になる。私たちを連れている人はこれで三人目だ。三人目のこの男はかなり焦っているようで、私たちにろくに休憩も取らせないから、ただでさえ疲れていた私たちはもう本当に疲れ果てていた。昼を何とかかごから降ろしてもらって済ませた後、また何時間か竜に乗りっぱなしの私とハンナは、もうかなり意識がもうろうとしていたと言ってよい。

その時、静かに走っていた私たちの竜が、

「キーエ」

と鳴いた。鳴き声を初めて聞いた私ははっと意識が戻った。前の竜がそれを聞くとスピードを緩めたように思う。

「ちっ、何をやっている。あと少しだ、あと少しで辺境なんだ!」

男がそう言うが、竜は少しずつスピードを落として止まった。男が竜から急いで降りてこちらへずんずんとやってきた。

「お前ら、何をした!」

そうは言ってもハンナももうまったく生気がなく、何かをできるような状態ではないのは見て取れるはずだ。男は私を見たが、幼児が何かできるわけもない。そんな男の背中を、竜がそっと頭で押した。

「なんだ」

「キーエ」

竜はかごを揺らす。

「……降ろして休ませろってか」

「キーエ」

竜は群れで意識をかなり共有するらしい。一度群れ認定された私は、竜が替わってからもずっと竜に大事にされていた。つまりトイレは遠くには行かせてはもらえなかったということだ。その竜はこれ以上の移動を私、つまり群れの赤ちゃんにとって危険と判断したらしい。

「……あとほんの少しなのに」

男は先のほうを見やった。右手遠くにあった山はもうかなり近づいていて、男は森の端をぬうように竜を走らせていた。目の先に広がるのは森と草原だけで、結界の切れているところは見えないが、男にはわかる印があるのだろう。

私ももう立つ元気はなかったし、ハンナはかごから落ちるように地面に突っ伏した。

「もうふ」

「なんだと」

「はんなに、もうふ、しゅる」

「ちっ」

男は舌打ちしたが、ハンナに毛布を出してくれた。私はハンナを寝かせると、毛布を伸ばして一緒に横たわった。竜が心配そうに頭を下げる。少しだけ、少しだけ寝かせてほしい。

「おい、起きろ!」

眠れたのは一瞬のことだったように思う。男は声をかけるだけでなく、ハンナを強引に起こし竜のかごに乗せ、私を放り込んだ。

「追っ手がきやがった」

そう一言つぶやくと、必死で竜を駆り始めた。追っ手だ。私はハンナの膝に立ち、ハンナに抱えてもらい、ハンナの肩越しに後ろを見た。はっきりとはわからないが、確かにいくつかの影がこちらに向かっているような気がする。

あと少しで辺境だと、男が言っていたが、辺境とは何か、辺境に行ったら何かがあるのか。確かに追っ手の影はだんだんと近づいてきている。

「あと少し、あと少しなんだっ」

男の大きな声が後ろまで聞こえる。しかし私は、ハンナにしがみついて追っ手を見ていた。速い。黒でそろえた服は、軍服だろうか。その中に、一人だけグレーの服の人が見えた。グレーの服に、やはりグレーと見紛うばかりの明るい色の髪。

「おとうしゃまー!」

「リア!」

思わず声の限りに叫んだ私に、お父様の声が返ってくる。来てくれた、やっぱり来てくれた!

「対象、発見! 前のほうに回り込め!」

そんな声と共に後ろの部隊は散開し、おそらく前の竜を止めようとしている。

「うわああー」

回り込まれても男は突っ込んでいく。そして私の隣には、お父様の竜が並んだ。お父様と目が合った。私は届かないけれど手を伸ばす。もう少し、もう少しだ。そして前の男が両側から竜に挟まれて押さえられ、竜から落とされた。しかし、竜はそのまま前に走り出す。

「キーエ!」

私の竜が急にスピードを上げた。お父様がとっさに追いつけず後ろへと流れていく。

「おとうしゃま!」

「リア!」

あっけにとられる黒服と男の前を、竜と私たちは通り過ぎていく。と、キーンと空気が変わった。

「けっかい、これが」

そして振り向くと、後ろのお父様が黒服に竜ごと囲まれ、押さえられているのが見えた。

「はなせ、なぜだ、リア! リア!」

「おとうしゃま! おとうしゃま!」

しかし竜は止まらない。せっかくお父様が迎えに来てくれたのに。私は遠くなるお父様を呆然と見つめるしかなかった。結局竜は暗くなるまで走って、やっと止まった。幸運だったのは、男が焦っていたせいでかごのカギをかけていなかったことだ。かごの横はハンナが押すと難なく開いた。

私とハンナはよろよろとかごから下りた。竜は二頭寄り添っておとなしくしている。

「リーリア様、どうしましょう」

ハンナは一歳児に頼るほどに弱り切っている。

「もどりゅ。りゅう、のって」

向こうが来ないのなら、こちらから行けばいい。しかし、ひもも付いていない竜をどうやって向こうに向けたらいいのか。

「ハンナ、りゅう、のりぇる?」

「むりです。かごならともかく、あれほど大きいものには乗ったこともありません……」

「りあ、のりぇる?」

「リーリア様、無理です、座っていられません!」

それもそうか。では歩いていけば竜も付いてくるか。

「キーエ」

はい、遠くに行くなと。口で止められた。さあ困った。とりあえず、やることはこれしかない。

「はんな、みじゅ、ぱん、だして」

「え、はい」

ハンナは私たちと反対のかごに向かって、ガチャガチャやっている。

「リーリア様、無理です。鍵が開きません」

「いし、いしでたたくの。おおきないし」

ハンナは周りから片手で持てる大きな石を探してきて、カギにたたきつけた。竜が嫌そうな顔で見るが、仕方ない。

「あきました!」

「だして。みじゅ。ぱん」

ハンナは竜用の固形飼料と水を用意し、私たちのパンと水筒を出すと、やっとしっかり動き始めた。そして座り込んで二人でご飯を食べる。何が起こるかわからないので、水筒には水入れから水を満タンにし、一人一つずつ持つ。小さいパンをポケットに入れる。

「あ」

「リーリア様?」

ポケットには紙包みが入っていた。最初の町で男が入れてくれたものだ。開けてみると、きれいな飴が入っていた。この世界にも飴があるんだ。

「はんな、ひとちゅ」

「まあ、まあ」

ハンナは泣きそうになりながらも私の出した飴を受け取った。そうして二人で口に含むと、飴はすぐにほろりとほどけて消えた。竜が動かない限り、私たちも動けない。それなら少しでも寝ようと、寝る準備を始めた時、それは起こった。長い長い一日は、まだ終わっていなかったのだ。