軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マークの勉強

私はマークのために荷物の中から少し大きい魔石を取り出した。魔道具を扱っているオールバンスでは、集めようと思えばいくらでも魔石は集められるらしい。魔力の勉強のために、魔力を充填する前のいろいろな大きさの魔石が欲しいとお父様にねだったら、

「別にマークやクリスティンの訓練はどうでもいいが、リアが魔石がほしいというなら仕方ない」

と言ってたくさん集めてくれたのだ。その中からいろいろ選んで持ってきてある。マークならどんな魔石でも充填することができるが、本来マークの魔力は結界に全部使われるべきものである。だからあまり大きすぎる魔石を使うわけにはいかなかった。

「いや、この魔石などマークに充填してもらえれば、結界箱として高く売れる。最近結界箱の需要が増加傾向なのでな、充填済みの魔石はいくらあってもかまわないんだが」

「おとうしゃま……」

あまり商売に興味のなかったらしいお父様だが、私がさらわれたのをきっかけに、少し興味を持ったらしい。

「売るだけならいくらでも結界箱は作れるのだが、結局は魔石に魔力を充填できないと、使い捨てということになってしまう。かといって、結界箱に魔力を充填できるだけの魔力もちはそうそういない。ルークやリアが訓練のために魔石に魔力を充填するついでに売り物にしてもいいのだが、継続して使えないものを商売にしても仕方がないしなあ」

真面目に悩んでいてなかなか素敵だが、私や兄さまの訓練の時に充填される魔石まで商売にしようとしていることに笑ってしまった。

さらわれる前、うっかり赤ちゃんなのに魔石に魔力を入れてしまった事件を起こした私だが、そのおかげで辺境で生き延びた。帰ってきてからそのことを知ったお父様は、最初こそ私を魔石から遠ざけようとしていたが、結局は力を伸ばしたほうが私のためだと割り切り、魔力の訓練も魔石の充填も許可してくれている。

ちなみに充填した魔石は適正価格で買い取ってくれており、リア貯金やルーク貯金として取ってあるらしい。もっとも、受け継ぐ財産からしたらゴミのようなものだとお父様は言っていた。

だから私の取り出した魔石は、たくさんお湯を沸かすための少し大きめの魔石だ。

「はい、まーく。ゆっくり、ゆっくりでしゅ」

「ゆっくり入れるのかい。こんなもの一瞬だが」

「ゆっくりでしゅ」

兄さまとお父様はマークの魔力の扱いを見たことがあるそうだが、私はない。マークに四侯らしい大きい魔力があるのはわかるが、それだけだ。

マークが魔石に魔力を入れようとするのを、私が正面からじっと見つめる。隣で兄さまが、その後ろでギルが、マークの側でニコとクリスが、それぞれ興味津々だ。

「やりにくい」

渋い顔をするマークだが、集中してやり始めた。体に重なって見える魔力が揺らぐ。工夫も何もない。大きい魔力を魔石にそそいでいるだけだ。

「にいしゃま」

「前より少しよくなりました」

「これで?」

兄さまと小声で話す。

「聞こえてるよ。ルークはともかく、リアまでか」

魔石はあっという間に濃い紫になったが、課題はある。

「ゆっくりといわれていたではないか。わたしでもできるぞ」

「ニコ殿下まで」

マークがガクリとした。魔力の見えない人は、どうも魔力に対する自覚がない。それではアリスターやニコにしたように、魔力を押し込んでみようか。

「まーく、てをかちて」

「手を? はい」

マークは素直に手を差し出した。私はそれを両手で握ると、そっと私の魔力を押し込んだ。

「う、わっ」

マークは思わず手を離し、鳥肌が立ったかのように腕をこすった。

「なんだい、今のは」

「まりょくでしゅ」

「リアのか」

「あい」

マークはまだ腕をこすっている。

「肩のところまでぞわっとしたよ。こんな経験初めてだ」

「そんなふうに、魔力は体中に重なっていて、普段は全く意識しないものですよね」

「そうだが」

兄さまがマークに説明している。

「リアの魔力が肩のところまで来たわけではありません。リアはマークの魔力を押しただけ、ぞわっとしたのはマーク自身の魔力なんです」

「私の魔力」

「その魔力は肩までだけでなく、足にも、胸にも、体中にあります。その魔力を意識し、体中を巡らせ、自在に出し入れできるようになるのが魔力操作です」

「それができないから、魔力が無駄に漏れていると、そういうことなのか」

兄さまと私は揃ってうなずいた。おや、視界の端のハンスが、妙な動きをしている。後ろ? 注意?

「面白いことをしているな」

突然声がした。ハンスの言っていたのはこれか。でも、これはニコのお父様の声だ。何を心配しているのだろう。

「おじうえ!」

ニコが跳ねるように駆け出した。その先にいるのは、髪を思い切り短くしたニコのお父様だ。いや、すごく似ているけれどちがう。

「アルバート殿下」

兄さまがそうつぶやき、その場にいた全員が居住まいを正した。私とクリスがちょっぴり遅れたのは仕方があるまい。なにしろ、会ったこともない人なのだから。叔父上ということは、この人も王子様なのだろう。ニコが嬉しそうに足にしがみついている。

アルバート殿下は振りむいて居住まいを正した私たちを一瞥すると、

「四侯の血筋が全員そろっているではないか」

驚いたようにつぶやいた。クリス自身も殿下と気づかなかったのを見ていた私は、おそらくよく知ってもいないクリスをすぐにレミントンと判断したアルバート殿下に少し感心した。他の私たちは目の色を見ればすぐにわかるからだ。つまり、周りの状況に気を配り、よく学んでいるということなのだろう。

「アル、久しぶりだな。視察から帰ってきていたのか」

「ああ、いや。今帰ったばかりだが、まずニコの顔を見ようと思ってな」

嬉しそうに挨拶するマークに気さくに答えると、アルバート殿下はニコを優しく見下ろし、ニコの頭をくしゃくしゃとかき回した。甥っ子がかわいくてたまらないのだろう。そしてマークとは同級生といったところだろうか。

「私があちこち視察に行っている間に、随分いろいろあったということか」

つぶやくアルバート殿下に、兄さまが静かに声をかけた。

「殿下。久しぶりのお帰りということであれば、私どもは今日は早めに戻りましょう。ご家族でゆっくりお過ごしください」

「ルークか。よい。ニコがこんなに楽しそうなのを邪魔してもな」

「おじうえ。いままりょくのべんきょうをしているところなのだ」

「ほう。続けるがよい」

私はちょっとおかしくなった。常々ニコの喋り方はちょっと固いと思っていたのだが、どうやら大好きな叔父様の口調が移っているようだ。

「ではちゅぢゅけましゅ」

「リア、続けるのか」

「あい」

マークが情けなさそうだが、確かに同級生に、幼児から何かを教わっているのを見られるのは嫌だろうと思う。だが、確かにマークはさっき何かをつかみかけていた。しかし、ハンスが遠くでやめろと首を振っている。兄さまに顔をむけると、今やめるわけにはいかないという顔をしている。それなら続けるしかない。

「ざわッとした感じを、肩より先に広げていくのです。必要ならまたリアにやってもらいますが、あまり楽しいものではなかったでしょう」

「確かにな。よし、集中して、ざわっという感触。腕だけが寒くて鳥肌が立つようだった。体中が寒いと思えばいいのか。ざわッとして鳥肌が立つ、うっ」

マークの反対側の手にも鳥肌が立ったようだ。

「なんだ、体が揺れる気がする」

「体が揺れているのではありません。魔力を意識したために、魔力が揺れているのを体が揺れていると勘違いしているのです」

私はそっとマークの手を握った。

「リア」

「このてに、しゅうちゅう」

「手が温かい。そして動かない。そうか、体と、魔力、別々のもの……」

「にいしゃま、ましぇき、くだしゃい」

「揺れている分を移すのですね。はい、どうぞ」

私はマークに大きめの魔石を握らせた。

「ゆれて、いやなものを、ここに」

「うう」

「しゅこしじゅちゅ」

マークの魔力の揺れは、さっきよりゆっくりと魔石に収まっていった。

「ふう。大変だった」

「まーく、えりゃい」

「よくがんばったな」

私とニコに褒められてマークは苦笑いしている。

「きついが、わかりやすい。オールバンスの兄妹は最強だな」

「そうとも」

なぜニコがいばっているのだ。

そしてそれをアルバート殿下が何かを考えながら見ていたのだと、どうしてリア様はそううかつなのかと後でハンスに叱られたのだった。兄さまだってやったのに。そう言い返したら、兄さまはお父様に叱ってもらうと言われた。

幼児に要求するレベルが高すぎると思う。