軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兄さまのお誕生日

実際のところ、木登りはごく低い、ごつごつした木なら何とか登ることができたが、ニコにはかなわなかったし、ギルや兄さまにはもちろんかなわなかった。それでも一生懸命登って一番下の枝に立つと、ニコや兄さまを少し見下ろすことができ、ちょっとだけ遠くまで見渡すこともできた。

少し離れたところではハンスがニヤニヤしながら見ており、ナタリーが両手を握りあわせて心配そうだ。それでも一人腕を組んで遠くを見る。そろそろ組めているはずだ。そうするとすぐにニコも登ってくるし、兄さまがいるとすぐに枝から私を下ろそうとしていろいろ台無しなのだが。

寒風が吹く中を、走り回る以外の遊びができて、ニコも私もかなり満足なのだった。

時折兄さまとギルが来て魔力の訓練をして遊んでもらい、勉強をし、そんなリズムができあがった頃、季節は12月になっていたらしい。いつものようにお父様と楽しく夕ご飯を食べていたら、お父様が、一月になったらお披露目をすると言い出したのだ。

「おひろめ?」

「そうだ。この家に、こういう子供が産まれたよと言う宣言だ。いろいろな人を招いて大掛かりにやることが多いのだよ」

「りあ、はじめてしゅる」

「そうだ。本当は一歳の時にするものなのだが、あの時リアにはちょっと事情があってな」

「じじょう?」

「そう、その、リアがちょうど魔石に魔力を注いでしまった時だ。その時は、力のあるお前を外に見せないほうがいいと思ったのだが、あれは判断ミスだった。オールバンスの子として大々的に周知すべきだったのだ」

そういうお父様はなぜか苦しそうで、私までつらくなった。

思い返してみると、なぜお披露目をしないのか、という話は、ハンナと他のメイドがしていたように思う。その時は確か、私がかわいいから、あるいは疎まれているからと二つの噂があると言っていた。結局、その時からやっぱりお父様には大切にされていたのだ、私は。

「おひろめ、ちなくてもいい」

「そういう訳にもいかぬ。今回はリアをきちんと貴族社会に周知させる。ニコラス殿下も来てくれることになっているから、リアに手を出せば王家も黙っていないという示威になる。あー、つまり、リアをさらうと王家が出るぞという脅しになるということだ」

「あい」

お父様はまだ警戒しているようだが、私はもうさらわれたりしないと思うのだが。

「ルークの誕生日が12月だから、ルークの誕生祝も一緒にやってしまおうと思うのだ。私もルークも派手なことを好まぬので、毎年家族だけでやっていたのだが」

私は首をひねった。去年はやっていただろうか?

「去年のルークの誕生日には、リアは、まだ大人と同じものを食べられなくて、ケーキを端っこだけかじって寝てしまっただろう」

そうだ、まだ一歳になっていなかったから、野菜のつぶしたものやスープばかりで、あまり記憶がないのだ。あれ、それでは今年は12月にはお誕生会はしないのだろうか。

「にいしゃま、12がちゅ、ちない?」

「する予定はないぞ」

それはいけない!

「いちゅ、にいしゃまのおたんじょうび?」

「今度の週末だが」

急がないと! その日、私は寝る前にナタリーと相談していた。

「にいしゃまのおたんじょうび、おいわいちたい」

「ルーク様ですか? でも、一月のリーリア様のおひろめと一緒にするということで、準備は始まっていますよ」

「にいしゃまに、にゃにかちてあげたいの」

「リーリア様がですか。そうですねえ」

ナタリーは首をひねって私と一緒に考えてくれた。

「リーリア様は、絵がお上手ですから、ルーク様の絵などどうでしょう」

「おとうしゃまが、くやちい、しゅる」

「ああ、はい。たしかに」

お父様がなぜ最初に自分にはくれないのかとショックを受けるだろう。

「刺繍、はまだですし、庶民ですと手作りのお菓子などもありますが、リーリア様はまだ手が動きませんものねえ」

「にいしゃま、おかち、あんまりしゅきじゃない」

「それですよねえ」

実は兄さまはあまり甘いものを好まないのである。だからやせているのではないかと常々思っているのだが。いや、待てよ。甘いものでなくてもいいのではないか?

「かんたんな、おりょうり。にゃい?」

「リーリア様の手作りのお料理ですか。そうですね、まぜるとか、そのくらいなら……そうだ!」

「にゃに?」

「マッシュポテトはどうですか? リーリア様も、ルーク様もお好きなおいものつぶしたやつですよ!」

「おいも!」

それは大好きだ。

「ゆでるのと、ソースは料理人がやるとして、リーリア様がつぶしたおいもだと言えば、ルーク様はきっとお喜びになります!」

「しょれ!」

おいもならつぶせる。

「そして、にいしゃまに、あーんて、しゅる」

「それはもう、大喜びにちがいありません。そうだ、リーリア様」

「にゃに?」

ナタリーは珍しく目をキラキラさせてある提案をしてくれた。よし、それ、採用!

「これはメイドのみんなが大喜びですよ」

ナタリーはニコニコと笑った。

何よりの誕生祝い(兄さま視点)

「なんでしょう。今日はお昼寝から起きてずっと、リーリアがいないんです」

「なんだかメイドたちがリーリアを取り囲んで連れて行ったぞ」

お父様もいつもと違うとは思っているようだ。それにしても、もう食卓に着く時間だというのに、リーリアはまだ来ない。

「なんだ。庭師がこんな時間までうろうろしているぞ。それになんだか、部屋に控えているものが多くないか」

お父様が今気が付いたというように周りを見ている。部屋の者は急に忙しくし始めた。たしかに、いつもより人が多い。しかし、すぐにドアが開いて食事が運ばれてきた。

「待て、リアはどうした。いや、あ」

「本当に、リアはどこに行ってしまったのでしょう、え」

ホカホカと湯気の立つ、山盛りのマッシュポテトの皿を両手で抱えて、よちよちと歩いてくるのは。

「リア、その恰好は……」

小さいメイド服に、白いエプロン、頭に白いブリムをつけて、ほっぺを真っ赤にさせている。ああ、お皿が落ちてしまう! 私は思わず立ち上がりそうになった。

「だいじょうぶでしゅ」

「リア……」

リアは両手を一生懸命伸ばして、私の前にお皿を置いた。もちろん、後ろにはナタリーがついてリアがお皿を落とさないよう、転ばないように控えていたが。

「にいしゃま、おたんじょうび、おめでとうでしゅ」

「リア、これは」

リアは鼻をふんとさせて、

「りあがちゅぶちまちた」

と胸をそらせた。白いエプロンがひらりと揺れる。

「これ、兄さまのために?」

「あい!」

なんて、なんてかわいいんだろう。私は思わず椅子から降りて、リアをぎゅっと抱きしめた。

「何よりのプレゼントです!」

「12しゃい、おめでとうございましゅ」

「ありがとう」

おでこをこつんと合わせる。それが合図のようにお父様のところにも次々と食事が運ばれてくる。

「父様のおいもは? なあ、リア、父様のおいもは?」

リアは目をそらした。

「おとうしゃまのおたんじょうびに、ちゅくりましゅ」

「なんということだ! 8月まで待てと言うのか! ルーク、それを一口」

「駄目ですよ。これは全部私のです!」

「にいしゃま、あーんてしゅる?」

「しますとも!」

「リア、父様には!」

「駄目です」

山盛りだけど、全部食べる。忘れられない、12歳の誕生日のことだった。