軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

前に、ぱーんと

私がお昼寝から起きた頃には、もうお父様が迎えに来ていて、帰る時間だった。

「やっぱり、しゅこちちかあしょべなかった!」

ぷりぷり怒る私を、ニコがかわいそうなものを見るような目で見る。

「リア、はやくおおきくなれ。おひるねをしなければ、あそべるのに。きのぼりとかたのしいぞ」

何だって! 私は信じられないものを見たかのようにニコと兄さまたちを見た。兄さまたちは気まずそうに目をそらしている。

「きのぼり! にこだけ!」

「どうせリアはのぼれないではないか」

「のぼれましゅ! しゅるしゅるのぼれましゅ」

登れるに決まっているではないか。ラグ竜の頭にだって登れるのに。

「もう、かえりましゅ!」

明日はお休みの日だから、お家で兄さまと木登りをするのだ。まだぷりぷりしている私に、ニコが声をかけてきた。

「リア」

もう。さみしそうな声で呼ばないでほしい。

「またあちた、あ、らいしゅうね」

「ああ! またらいしゅうな」

いつの間にかお父様の腕の中にいた私は、笑ってニコに手を振った。喧嘩したままお別れをしてはいけないのだ。最後に覚えている顔が怒った顔でも泣いた顔でもさみしいではないか。

「きーのぼり、きーのぼり」

ふんふんとリズムを取る私を、お父様と兄さまとナタリーが楽しそうに見ている。ギルは自分の竜車でちょっとつまらなそうにしながら帰っていった。

「そんなに楽しみにしていても、一週間は私もギルも来ないのですよ」

「にいしゃま、あちた!」

「明日? 明日はお家ですが、ああ」

「おうちで、きのぼり!」

今までしようとも思わなかったから、木の枝ぶりなんて見なかったけれど、あれだけ広いおうちだから、きっと登れる木があるだろう。

「でもリアには危ないのでは」

「ルーク」

お父様は兄さまに首を振った。

「見えないところでラグ竜の頭によじ登られるよりは、私たちの前で木登りをされたほうがましだ」

「ええ? リア、そんなことをしていたのですか?」

「ええと」

私は竜車の外を眺めた。兄さまはあきれたというようにため息をつくと、

「木登りの練習は、必ず誰かが見ているところでしましょうね」

と諭した。それは大丈夫。

「あい!」

我ながらいいお返事だ。もっとも、ハンスが見ていてもラグ竜に登るのを阻止できなかったことは内緒である。

そうして楽しく帰ってきた私たちは、やっぱり楽しい夕ご飯の後、お父様の寝室に集まっていた。

「殿下の無茶ぶりは何とかごまかして断ったが」

「はい。ついできると言ってしまって、うかつでした」

お父様と兄さまが反省している。

「しかし、虚族がなぜ我々に響くのかという殿下の問いかけは衝撃でした」

「あいつはそんなことを言ったのか」

お父様、すでに殿下でなくあいつになってしまっているよ。

「その虚族からの響きを、魔力を外に出すという発想に結び付けたまではよかったと思います。私達だけでなく、辺境のハンターは体で理解していたことのようですし、リアも辺境にいる間に身に着けていましたしね」

「しかし、自らが魔力を人に響かせるというところまでは思いつかなかった。そもそもなぜそんなことをする必要がある」

「その通りだと私も思います。しかしお父様」

「なんだ」

兄さまはお父様をしっかりと見つめた。

「私とリアは、すぐに気づきました。私達は、響かせたことがあるではありませんか」

「……結界、か」

「はい」

私も神妙に頷いた。

「それでは、虚族は結界を外に展開しているということなのか」

「しかしそれなら、虚族は何に対して結界を展開しているのですか」

「うーむ」

難しい問題だ。

「きょぞく、ましぇき、なりゅ」

「そうですね」

「わたちたち、ましぇき、なりゅ?」

「なりませんよ、そんなばかな」

兄さまは私の質問に答えると、

「魔力のある人も魔石には変わらないが、虚族はどんな弱い者でも魔石に変わる。それはなぜか」

とつぶやいた。

「肉体がない、というのも一つだろうが、おそらく魔力量が桁外れなのでないか」

「だから、自然に魔力が外に広がり、それが私たちの体の中の魔力に響く……」

「しょれなら、たくしゃん、まりょく、だちてみたら?」

お父様と兄さまが私を見た。

「けっかいに、かえにゃい、まりょくを」

「純粋な魔力そのものを、勢いよく外に出す、ということか」

「あい」

そうすれば多少他人の魔力に干渉できるのではないか。

私達は黙り込んだ。その間、それぞれがいろいろなことを考えていたはずだ。しかし、私たちがまた目を合わせた時、お父様の口から出たのは、

「やってみるか」

という言葉だった。ここにライナスがいたら、もしかしたら「これだからオールバンスは」と言って止めたかもしれない。しかし、私たちは一人一人がオールバンスだった。

「試してみないことにはわかりませんからね」

「あい」

やってみよう、ということになった。

「りあがけっかい、ちゅくった。りあが、やってみましゅ」

「ふむ。魔力を出してみるのはリアか、ルークかと思っていた。では、魔力を受けるのはお父様がやろう」

「お父様」

「受け手が一番危険だろう。大人がやるべきだ」

兄さまは自分がやりたそうだったが、お父様にそう止められた。

私はベッドの上でお父様と向かい合い、なるべく近くに座る。

「けっかいに、かえない。まりょく、しょのまま」

私の周りに丸く展開するのではなく、お父様に向けて、ぱん、と。

「いきましゅ」

「うむ」

魔力を、自分の前面から、ぱん、と。

「か、はっ」

お父様が、ゆっくりと後ろに倒れていく。

「お父様!」

「おとうしゃま!」

二人で仰向けに倒れたお父様に縋り付いた。

「だ、だいじょうぶだ」

お父様が何とか絞り出したという声でそう答えた。縋り付いた私たちを優しく抱き込む。

「おとうしゃま……ごめなしゃい……」

よかった。本当によかった。私は半泣きである。

「リア、ルーク、これはまずいぞ。私達は、とんでもないことに気が付いてしまったな」

「いったいどうなったというのですか! 魔力は見えましたが、どうなったのですか! 突然倒れてしまうし!」

何とか喋っているお父様に兄さまが怒鳴った。

「ちょっと待ってくれ。少し落ち着かせてくれ、ああ、泣くな、二人とも。父様は大丈夫だから」

兄さまが怒鳴るものだから半泣きの私は泣いてしまったし、兄さまもショックで泣いてしまったようだった。私達が泣き疲れて静かになるまでに、お父様も何とか調子を取り戻してくれた。

「で、結論としてはだな」

やっとちゃんと起き上がってお父様は喋り始めた。私と兄さまはお父様にぴったりと張り付いている。

「まあ、その前に、外側から魔力がどうなったか聞いてみたかったが」

「私は見ました」

兄さまが小さい声で言った。何を?