軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何をすれば

私は屋敷の窓から庭を眺めている。冬枯れの庭は、それでもところどころにある常緑樹が濃い緑で、四季咲きの花が一つ二つ、小さな花をつけている。庭の東側には温室もあり、そこならお花も咲いていて、屋敷の中には一年中飾る花が絶えることはないらしい。

「にいしゃま、まだかな」

そろそろ迎えに出たほうがいいだろうか。明日から週末なので、今日は兄さまが寮から戻ってくる日なのだ。私は玄関に行ってみることにした。

「リーリア様、どちらへ」

「にいしゃま、おむかえ」

「まだお早いかと思いますが」

私は一瞬ぐっと詰まった。この人は私が屋敷に帰ってから新しくつけられたメイドで、ナタリーという。やはりお屋敷の人ではなく、今度もレミントン家から紹介してもらった人だ。20代後半だろうか。夫を早くに亡くし、自立の道を選んだ人だという。

ハンナのことがあったので、レミントンの事件への関わりを否定するためと、レミントンとオールバンスの関係が悪くないことを示すためにと、レミントン家のほうから申し入れがあったとか。レミントンでは下のお嬢さん付きのメイドの一人だったそうで、貴族の小さい子どもの育て方にも通じているだろうとかなんとか、そういう理由だったようだ。

でも、と私は思う。ハンナだったら、きっと、「まだお帰りではないと思いますが、見に行ってみますか?」と言っただろう。いつも私のやりたいことをわかって、付き合ってくれていた。私は気づかれない程度にため息をついた。

「しょれでも、みにいきましゅ」

そう言って、ドアのほうに向かった。ナタリーは特に何も言わず、ドアを開けてくれた。

ドアの外に出ると、そこには大柄な男の人が立っている。腰にはローダライトではない剣が差してある。

「リーリア様、どちらへ?」

「げんかんにいきましゅ」

「承知いたしました」

そう言うと、すたすた歩いている私の後を二人で着いてくる。私はまた気づかれないようにため息をついた。

懐かしいお屋敷に戻ったら、色々なことが変わっていた。いや、色々ではない。屋敷中のすべての使用人が玄関に集まり歓迎された後、二階に上がろうとした時だ。お父様と上り下りした階段はそのままで、いつものように東棟に行こうとしたら、お父様に止められた。

「リア、今までの部屋は、バルコニーが広くて危険が大きい。西棟の父様の部屋のそばに新しく部屋を用意したから、今日からはそこがリアの部屋だ。ルークの部屋もそばにあるぞ」

「あい!」

元気に返事をした私が連れていかれたのは、今までより大きく、少し紫の入った淡いピンクで統一されたかわいい部屋だった。今まで使っていた小さくて低いベッドではなく、大人の使うような大きなベッドがどんと部屋の右側に寄せてある。

「上り下りしやすいように階段がついているし、父様も一緒に寝ることがあるだろうから、大きいものにした」

「あ、あい」

まあ、仮にも侯爵家、このくらいの余裕はあるのだろう。

「これからは朝と晩は父様と食事をするから、ちゃんと早く起きるんだぞ」

「あい! うぇしゅたーでも、ちゃんとちてた」

ちゃんと起きて仕事に行っていたのだ。もっとも、仕事場では積み木をしていただけだったが。

「そうか」

父様はそれだけ言うと、部屋の説明をしてから、私を下に降ろした。どうやらウェスターの話はあまり聞きたくないらしい。ちなみに帰ってからずっと抱っこされていたのだ。

「それから、リアには専属のメイドと護衛をつける。護衛は数人で交代、メイドは専任で一人だが、リアならすぐに全員おぼえられるだろう」

「ごえい?」

メイドはわかるけれど、護衛とは何だろう。

「結局リアをさらった犯人は捕まっていない。しかも、ウェスターでもさらわれかけたと聞く。もはや屋敷から連れ去ろうなどというものはいないはずだが、リアがもう少し大きくなって、大丈夫だろうと思われるまでは護衛をつけることにした」

「え、ええー」

「嫌か」

「めんどうくしゃい」

お父様はふっと笑った。

「ウェスターでは例のハンターたちがそのまま護衛のようなものだったが、ここではそうもいかぬ。お前の行動は妨げぬようにさせるから、父様の心の平安のために、我慢してくれぬか」

「あい……」

兄さまにもさらわれやすいから気をつけろと言われているのだ。お父様と兄さまの心のためなら仕方ないだろう。

「そしてこれが専任のナタリーだ。ハンナのやってきた仕事を受け継ぐことになる。レミントンで下の娘に付いていたそうだから、幼児の世話は大丈夫ということだ」

「あい。なたりー」

「はい、お嬢様。ナタリーと申します。よろしくお願いします」

「よろちくおねがいちましゅ」

私のその言葉に護衛からは柔らかな雰囲気が伝わってきたが、ナタリーはにこりともしなかった。どうしたんだろう。仕事が嫌なのかな。レミントンからこちらに来たくなかったのかな。しかし、お父様はそれに気が付かないようだった。

その次の日は週末だったので、お父様とも兄さまともずっと一緒で、以前は小さくて行けなかった屋敷や庭のあちこちにも足を延ばし、楽しく過ごすことができた。しかし、お休みが終わり、兄さまが寮に戻り、お父様が仕事に出てしまうと、私のやることは急になくなった。

お父様を見送って部屋に戻ると、そこからお昼まで何をやっていいかわからない。部屋には真新しいおもちゃもあって、絵本もあって、幼児が遊ぶにはそれでいいんだろう。でも、お店に来るお客さんと話しているブレンデルの声も聞こえないし、お店では後ろを向いていてもたくさんの人の気配がしていて、そんな中だからこそこっそり魔石箱をいじったりできたのだが。

ちらりと目を上げると、ナタリーがじっとこちらを見ている。おそらくハンナとは容姿の似ていない人を選んだのだろう。栗色の髪の毛に、茶色の瞳。かわいいというよりは、きれい。この人を相手に、ラグ竜の着せ替えごっこを頼んでみようか。いや、それも気まずい。

私は屋敷に帰ってきてから、初めて小さいため息をついた。

よし、外に行こう。私は立ち上がった。

「なたりー、おしょと、いく」

「お嬢様、外はもう寒くなっていますよ」

「うわぎ、きりゅ。だいじょぶ」

「そうでございますか」

ナタリーが折れてくれたので、私は新しいポンチョを着て、外に出る。

「お嬢様、どちらへ」

「おしょと」

「もうだいぶん寒くなっていますよ」

「うわぎ。だいじょぶ」

外の護衛にも一度止められた。階段をゆっくり自分で降りて、ナタリーと護衛を引き連れて、庭に出る。窓から見えたところまで、てくてくと歩いていく。春先には草が生えていて、虫がいて、時にはトカゲがいた。ハンナと一緒にうろうろした庭は楽しい所だった。

しかし今は、草は枯れていて、きれいに片付けられていた。それでも生えている緑の草は、きれいに手入れされていて、笛を作るだけの長さもない。もう冬になるところだから、虫も見当たらない。

もし虫を捕まえたとしても、驚いて笑ったり怒ったりしてくれる人もいない。

私はここで何をしていけばいいんだろう。冬の初めの冷たい風が吹いている中、私はただ立ちつくすしかなかった。