軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話:おっさんは必殺技を使う

ロックゴーレム。

低レベル冒険者にとっては死神となる魔物。

よほどの愚か者でもない限り、見た瞬間に逃げるべき魔物だ。

そんなロックゴーレムに、命知らずの若い冒険者は挑み、当然のように蹂躙された。

初めての冒険で舞い上がっていたのだろう。

道中の魔物をあっさりと倒せて自信がついていたのだろう。

親から与えられた分不相応に高価な装備が増長させたのだろう。

そうやって、道を踏み外した冒険者に待っているのは死だ。

……よっぽどのお人よしが現れない限り。

「だれか、だれかあああああ、助けてくれえええええええ」

四つん這いなり、這って逃げようとする戦士の男をロックゴーレムが追いかける。ゴーレムは鈍重だが、歩幅が大きく意外と速さがある。

あっというまに追いつくと、図太い腕を振り上げた。

あの剛腕が振り下ろされれば、あの少年は助からない。

足に力を込める。

今の俺のステータス……特典ボーナスで5レベル分の強さを得ているが、それでも間に合わない。

だから、とある切り札を使う。足りないステータスを補うために編み出した技。

集中を高め、扉を開く。

一瞬だけ、踏み込みをする脚力が強化された、二歩でトップスピード。これならぎりぎり間に合う。

扉を閉じる。これは消耗が激しい。

「怖ければ、目をつぶってろ!」

今、まさに拳が振り下ろされようとしたタイミングで割り込んだ。

回避することは容易いが、避ければ少年が潰される。

かといって、まともに受ければ、今の防御力では致命傷だ。

だから、避けも受けもしない。第三の選択肢を選ぶ。

ロックゴーレムの振り下ろす拳に合わせて剣を振り上げる。真正面から剣で迎撃すれば問答無用で剣ごと叩き潰されるだろう。

だから拳の端を狙う。

今の一撃でゴーレムの拳の角度がずれた。

しかし一撃が重く、角度をずらしきれない。剣を斜めにして寝かせ、剣の腹に掌底を加えて、そのまま支える。

斜めにした刀身の上をゴーレムの拳が滑っていき、俺の真横に拳が着弾。

大地が割れ、土煙があがり余波と土飛沫で俺と少年は吹き飛ばされる。

問題なく着地し、油断なく剣を構えた。

剣をぶち当てる角度と位置、掌底を加えるタイミング。支えて滑らせるための力加減。

どれか一つでも間違えれば潰されていただろう。

しかし、不安はなかった。

この程度の芸当ができなければとっくに死んでいる。

レベルリセットする前の俺は戦士。

求められる役割は壁だ。ステータスが低く防御力も素早さもない俺が、壁の役割をするにはありとあらゆる攻撃を受け流す技が必要だった。

かつて戦った魔物たちの攻撃の多彩さと速さを思い出す。この程度止まって見える。

「這うぐらいはできるだろう。ここから、離れろ。邪魔だ」

「あっ、あんた、なんで」

「助けに来た。わかったら離れろ。……お前がいると避けられない」

もう一撃、先ほどと同じ要領で流す。

近くに着弾。

二度、三度と連続して振り下ろされる攻撃を確実にさばいていく。

「なんで、なんで、助けに来たんだよ、おっさん、無理だって、こんな硬くて強い魔物」

「……安心しろ、俺は勝つし、おまえも助かる。伊達に歳はくってないさ。自分より強い魔物の倒し方ぐらい、十や二十は知ってる」

その言葉を証明するように、ゴーレムの攻撃をさばきつつ反撃。

鍛え抜かれた斬撃の鋭さはゴーレムの肌を傷つけた。

自分よりステータスが上というだけで、魔物に殺されるようなら千回は死んでる。

俺は、自分より強いステータスの魔物も人間も幾度となく倒してきた。ステータスという枷が、極限まで俺を研ぎ澄ませてくれた。

弱かったからこそ、最高の技を得た。

……くそだった人生の唯一の収穫だ。

「おっさん、ごめん、ごめん」

少年が泣きながら四つん這いで逃げていく。

ようやく逃げてくれたか。

これでようやく、ゴーレムの攻撃を躱し、本格的な反撃に移れる。

俺が魔法戦士を選んだ理由である”あの技”は溜めがいる。さすがに少年をかばいながら放つ余裕はなかった。

ゴーレムも学習したのか、上からの振り下ろしではなく、下からの蹴りを放ってきた。受け流しにくい攻撃だが、予備動作は丸見えだ。

余裕で躱せる。

待ちに待った大きな隙を晒してくれた。

ここで仕掛ける。

魔法の詠唱を開始する。

近接戦闘しながら魔法が使えるという魔法戦士だけに許された特権。

詠唱しながらロックゴーレムの脚を躱しつつ、接近する。

魔法を放つ場合、距離を取るのがセオリーだ。

なぜなら、魔法の大きなメリットの一つに射程というものがある。そのセオリーを無視する。

俺の魔法は特別だ。射程は恐ろしく短い。

ゆえに、近接戦闘でのみ輝く、前衛で魔法が使える魔法戦士にだけ許された魔術。

ゴーレムの脚が至近距離を通過し、頬を風が撫でる。

詠唱が最終段階に入り、魔力が高まっていく。

不遇職だった魔法戦士の価値を一変させた要素。

……それは、マジック・カスタム。

レベルリセットとレベルアップ時のステータス上限最大固定値、二つの隠し要素を得た際に、ステータスにマジックカスタムという項目が追加される。

その要素を見つけてからは、プレイヤーたちはお祭り騒ぎだったのを覚えている。

マジックカスタムのおかげで、近接距離で魔法を使えるという魔法戦士の特徴がようやく見直された。

魔法の性能というのは四要素で構成される。

射程……どこまで魔法が届くのか

範囲(効果時間)……攻撃魔法であれば、どれだけ広範囲を攻撃でき、強化魔法であればどれだけ持続するか

威力……破壊力

詠唱時間……詠唱にかかる時間

マジックカスタムではその要素を弄れる。

俺が使うのは、中級火炎魔術【炎嵐】。

本来は、射程は二十メートルほど、範囲は敵数体を巻き込めるほど、威力は並み、詠唱時間はそれなりの魔法。

その【炎嵐】を徹底的にカスタマイズした。

二十メートルあった射程をほぼゼロにまで落とし、数体の魔物を焼き払える範囲も極小にし、詠唱時間を長くし……ありとあらゆる性能を劣化させた代わりに威力にすべてを注ぎ込んだ。

結果、超近距離でしか使えない超攻撃力を持つ魔法が完成した。

剣を持たない俺の左手が炎を帯びて光り、唸る。

中級火炎魔術【炎嵐】カスタム。

その名は……

「【爆熱神掌】!!」

叫びつつ踏み込む、【震脚】。運動エネルギーをすべて伝導させる中国武術に酷似した踏み込みだ。それにより、光り輝く左の掌底にすべての力が乗りゴーレムの腹を砕く。

射程と効果範囲を削り切った結果、【炎嵐】は超高熱を纏う左の一撃へとなった。

圧倒的な硬さを誇るロックゴーレムの体を爆熱の左手が貫く。熱量が体の内側へと伝わり内側から焼き尽くす。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

内側から焼き尽くされたゴーレムが崩れ落ちる。

レベルリセット特典があるとはいえ、低レベルの冒険者の一撃でロックゴーレムが倒れるのは異常だ。

その異常を可能にするだけの威力が【爆熱神掌】にはある。……なにせ、すべてを犠牲にして威力だけを高めた炎の嵐と渾身の掌底の合わせ技だ。弱いわけがない。

ロックゴーレムが青い粒子に変わっていく。

運がいいことに、ドロップアイテムをゲットした。からくりの心臓。これにはいろいろと使い道がある。大事に使おう。

「まあ、こうなるよな」

力が満ちてきた。

ステータスカードを見ると、一気にレベルが二つあがってレベル3になった。

レベル差があると、経験値にボーナスが入る。

二つも一気にレベルアップなんて経験、そうできるものではない。ステータスの上昇値も最大値でにやりとしてしまう。

「すげえよ。なんだ、今の魔法、聞いたこともない。誰だよ、魔法戦士が弱いって言った奴」

「あのおっさん、なんて馬鹿力だ。ゴーレムの攻撃剣で止めてたよな。ゴーレムと切り合う剣士って小説かよ」

「違う。受け流してた。じゃなきゃ潰れてるって。剣術の先生から話だけは聞いてたけど、そんなこと、本当にできたんだ」

どうやら、這って逃げた若者が、ポーションを使って仲間を回復させたらしい。

全員元気そうで何よりだ。

俺は、彼らの元へ向かう。

「おまえたち、あくまで今回助かったのは運が良かっただけだ。これに懲りたら、ここには来るな。これからは身の丈にあった魔物と戦え、でないと早死にすることになる」

反発されるのを覚悟で忠告する。

どうせ、おっさんうざいとか思っているんだろうな。

俺は、反省の機会を与えた、その機会を無駄にするようなら面倒を見切れない。

過ちを認められ、自らの行いを正せるか。

それが冒険者にとって、最も大事な才能だ。

「はっ、はい、そうします。もう、近づきません」

命を助けられたことで、態度が軟化したのだろう。

……少なくとも、今は反省して素直に言うことを聞いてくれたようだ。

「おっさん……いえ、ユーヤさん、今度酒場で奢らせてください。いろいろと話を聞かせてもらえるとうれしいです」

「それは構わないが」

「ありがとうございます。本当にありがとうございました!」

少年たちが礼をして去っていく。

今後の彼らに期待しよう。

キツネ尻尾をなびかせながら、ルーナが走って来る。

「ユーヤ、すごかった。魔法戦士、強い」

きらきらと目を輝かせている。

「……まあ、俺以外にはできない魔法だがな」

二つの隠し要素を実行したものだけが可能になるマジック・カスタムがないと魔法戦士は果てしなく微妙だ。

今回使った【炎嵐】もカスタムしないと使い物にならない。範囲も威力も中途半端。中途半端な魔法攻撃力しかない魔法戦士が中途半端な威力の魔法を使うと、笑えるぐらい弱い。

威力に特化させ、さらに物理攻撃と組み合わせることで初めて使いものになる。

少年三人組と少し話をする。

自力で戻れるとのことなので、送り届けずに済んだ。

「ルーナ。寄り道はこれで終わりだ。今度こそ、魔物を狩ろう」

「ん。今日中にレベルを50にする!」

「いや、それは無理だ」

「……残念」

魔力が尽きるまではここでロックゴーレム狩りをする。経験値的にも美味しいし、レアドロップを狙える。

とは言っても、魔法戦士のMP補正はさほど多くない。

せいぜい、撃てて三発といったところだ。

しっかり、一撃必殺で、ロックゴーレムを倒そう。

俺が使えてロックゴーレムに有効な魔法は【爆熱神掌】だけだが、他にもいろいろな魔法を隠し持っている。いつか、ルーナに新しい魔法を見せるのが、少しだけ楽しみだった。