軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話:おっさんは【試しの門】に挑む

【試しの門】に行くことになった。

時間がないため、アウレ王女の手配が終わってすぐ、日暮れ前に出発している。

本来であれば、ルトラは兄であるアレクルト王子の妨害により、王宮にあるダンジョンが使用できない。

しかし、アウレ王女が使えるように手配してくれたのだ。

今からレベル上げはできなくても、【試しの門】を王家の者がクリアすればステータスが上昇する。

短時間で強くなるにはこれ以上のものはない。

……だが、気になることがある。

ルトラが【帰還石】を使えば何かあっても大丈夫と言ったとき、アウレ王女は微笑むばかりで注意しなかった。

「ユーヤ、お城のダンジョン。わくわくする!」

「うんうん、こんな機会じゃないとまず入れないしね」

そんな俺の悩みを吹き飛ばすような明るい声が届いてくる。

ルーナとティルは今日も元気いっぱいだ。

「面白いダンジョンね。お城に似ているわ」

【試しの門】というダンジョンは、ルトラの言う通り、城型のダンジョンだ。

「似ているのも当然だろう。数百年前、戦姫ルノアがいたころの城とまったく同じだ」

ゲームのときは、完全にラルズール城の鏡写しだったが、数百年の月日と共に城は変わってしまった。

「みんな、聞いてくれ。時間がなかったし、周りの監視の目があって城では言えなかったことがある。ここの探索ができるのは喜ばしいが、アウレ王女の罠である可能性が高い。刺客に待ち伏せされている、あるいは後から刺客が送り込まれるかもしれない」

フィル以外の表情に動揺が走る。

ひと際、ルトラの動揺が大きい。

「ありえないわ! 【試しの門】に入るにはパーティ内に王族がいることが条件。このタイミングでそんなことができるとすれば姉上だけよ。姉上が私を罠に嵌めるなんてありえない」

ルトラがそう言うのも無理はない。入る条件は彼女の言う通りだし、俺たちがダンジョン内に入ったことを知る王族はアウレ王女だけ。ここで仕掛けられた場合、犯人は自動的にアウレ王女になる。

「疑うのにも理由がある。なぜ、アウレ王女は【帰還石】を使えば大丈夫と言ったルトラに注意しなかった? 【試しの門】は【帰還石】が使えない特殊ダンジョンだ。ルトラのことを心配しているなら、教えていたはずだ」

「それは、姉上も知らなかったんじゃ……」

「彼女はクリア済だと言った。そんな彼女がこの説明を受けていないはずがないだろう?」

「なら、言い忘れていたのではないかしら?」

「妹の命に係わる問題だ。そんな重要なことをうっかり言い忘れるなんて、それこそありえないだろう。ルトラが認めるほど有能な人間ならなおさらな」

かなり厳しめの口調でルトラに告げる。

しかし、彼女には俺の言葉が届いていない。

信じたくない。そんな彼女の想いが伝わってくる。

「……それでも、私は姉上を信じているわ。だって、急に兄上が私に冷たくなって、妨害を始めて、何度会おうとしても無視され続けて……今まで良くしてくれた人も兄上に嫌われないように私から距離を取って一人になって。そんなとき、手を差し伸べてくれたのは姉上だけだったの……そうよ、姉上ならいつでも私を殺せた。それに私は【継承の儀】で勝っても、姉上を王にするつもりなのよ? 私を罠に嵌める理由がないわ」

アレクルト王子は、王位争いにおける本命中の本命。

その彼がルトラを敵と認識して妨害をしたのなら、ルトラに友好的な人間は消えるだろう。

もともとルトラは側室の子。幼かったルトラは、ひどく孤独だったはずだ。

「そうして、孤独になったルトラにつけ込むのは簡単だろうな。うまく操って自分の駒にする。……ルトラを殺そうとした理由も想像がつくぞ。俺に会う前のルトラは弱かった。駒にならないと判断して損切。あるいはアレクルト王子を倒すための切り札が別に見つかった」

このあたりが妥当な線だろう。

そして、俺は夕方までの時間、ただぼうっとしていたわけじゃない。

「まだ、疑わしいところはある。かつて共に戦った騎士や兵士たちの伝手をたどって情報を集めた。アレクルト王子は変わってなんてない。彼は、この国と民を愛し、努力をし続けていると口をそろえて言った。人の感想なら偽装できるが、彼の実績は嘘をつけない。誰よりも国のために頑張ってきている。だというのに、わざわざアウレ王女がアレクルト王子の陰口をルトラに吹き込んだ理由はなんだ?」

「ユーヤおじ様!!」

ルトラが絶叫する。

彼女のこんなところを見るの初めてだ。

「……ユーヤおじ様の言っていることは間違っていない。たしかに状況的に姉上は疑わしい。だけど、兄上のことをよく言う人たちは兄上に騙されているかもしれないわ。何より、姉上は何年も優しくしてくれたの。兄上と違って、ずっと一緒にいてくれた」

これ以上の説得は難しい。

彼女たちの絆には何年分もの積み重ねがある。

「なら、俺の言葉は信じなくてもいい。ただ、ダンジョンの中は仕掛けてくるのに絶好の場所だ。誰かの襲撃は警戒したほうがいい」

「それには同意するわ」

俺はそこで言葉を切り、襲撃者対策を全員に説明する。

後から刺客が追いかけてくるのなら、ルーナの【気配感知】で可能な限り魔物を避けて最速で進む。

俺たちの足は速く、追っ手は魔物が足止めになり追いつけない。

問題は刺客が待ち伏せしている場合。常に、人が隠れられそうなところには注意しておくように告げた。

最速で、このダンジョンを突破しよう。

【試しの門】は、王家の血族たちに王たる資質があるかを試すためのダンジョン。

出現する魔物が強く、力がなければ突破できない。

謎解きの数が多く知恵がなければ行き詰る。

さらには剣の山の上にかけられた崩れる一本橋などがあり、勇気がなければ進めない。

武力、知恵、勇気、その三つを使い、最奥までたどりつけば、王にふさわしいものとして祝福を受けられる。

何体か魔物を倒して突き進んだ先に行き止まりがあった。

「ユーヤ兄さん、前に三つの扉があるね」

ティルの言う通り、扉が三つあり、壁に立てかけられた絵画には問いが書かれていた。

正解の扉は一つ、間違った扉に入れば命を落とすと書いてある。

『33 33 44 ◇ 66

22 11 22 22 55 △

◇に入る数字を答えよ』

問題を見て、ルーナとティルが唸り始める。

「ん。わかんない」

「意味わかんないよ。33でいいんじゃない? それっぽい並びだし」

この問題は、二人には難しいだろう。

扉には三つの数字が描かれており、77、88、33。

「77の扉だ」

「ユーヤ、すごい!」

「なんでわかるの」

「ヒントは引き算。さあ、先に行こう」

時間があれば、ルトラに解かせてみたいが今は一秒でも先に進みたい。

【試しの門】の謎解きは全部で三問。

それらは一見ランダムに見えるが、実のところ七十二問の中から三つ選ばれるだけ。

そして、俺はその七十二問すべてを知っているので間違えることはない。

今回の問題はひどく簡単だが、中には難問も紛れている。

「わかったわ。△の数字は聞かれていなけど、そっちは11ね」

「正解だ。俺が手を出さなくても大丈夫だったようだ」

いつもよりルトラの表情がぎこちない。

俺がアウレ王女を疑っていると言ったことが尾を引いている。

「むう、ルーナも解く」

「私も頑張るよ。でも、わからなかったら解き方を教えてね」

たまには体じゃなく、頭を使わせたほうが良さそうだ。

二人には好きなだけ考えさせてあげよう。

探索を始めてから二時間ほど経っていた。

俺たちは疲れない程度の速度で走り続けている。

おかげで探索はすこぶる順調だ。

「あっ、わかった。ルーナもわかった!」

「実は私もだいぶ前に答えが出てます」

「えっ、うそ!? 私だけわかってないの!? 絶対解くよ!」

探索中に他のことに意識を取られているのは良くないが、ちゃんと警戒もしているようなので、好きにさせよう。

極力戦闘を避けて速度を優先しているが、どうしても避けきれない戦いが何度かあった。

……そして、今も。

新たな敵が至近距離に出現した。

シャドウ・キャット。

その名の通り、影に潜り込む能力を持っている黒猫型の魔物で、影に隠れている間は【気配感知】すら反応しない厄介な性質を持つ。そのシャドウ・キャットが柱の影から不意打ちをしてきた。

猫と言っても、大型で鋭い牙と爪を持ち、急所を狙われれば、一たまりもない。

【気配感知】は便利だが、頼りすぎて周囲の警戒を緩めれば、こういう魔物の餌食になる。

襲われたのはルーナだ。

即座に反応した彼女はカウンター気味に短刀を突き出していた。

「ん。ルーナには見えてる」

短刀がルーナの首筋を食らいつこうと大きく開いた口内を貫く。

ルーナはよく育っている。【気配感知】だけでなく常に己の五感を総動員して周囲を警戒していた。

そうでなければ、この至近距離からの不意打ちに対処できてない。

一撃で瀕死になったシャドウ・キャットを矢が襲い、柱に張り付けとなる。

それがとどめとなり、青い粒子になって消えていく。

「初めて見る魔物です。さすがは王宮ダンジョンですね」

「だな。ここでしか見られない魔物も多い。できれば、素材集めをしたいが速度最優先だ」

【試しの門】でしか出ない魔物の固有ドロップで出来れば入手しておきたいものはあるが、この状況で魔物探しに時間はかけられない。

「あっ、ユーヤ兄さん、何かドロップしているよ」

「レアドロップだな。クリソベリル、杖の素材に使える宝玉だ。良い値段で売れる」

クリソベリル、別名を猫目石。

俺たちに杖を必要とする魔法職が入ればとっておく素材だが、大人しく売ってしまおう。

「やった、これでご馳走!」

「ラルズールの美味しいお店探さなきゃ」

急いでいるので、回収してすぐに走り出したが、ルーナとティルは走りながら謎ダンスをしている。……無駄に器用だ。

三つ目の謎解きを終えた。

すでに勇気を試すステージも終わっており、ゴールに続く大回廊にやってきた。

「この道を越えて、謁見の間に入れば終わりだ」

探索は順調そのものだ。

知識面でのアドバンテージをフルに生かしている。

謎解きのラストは鬼畜だった。……あれは答えを知らなければ、詰んでいた。

十一頭の馬の分配で、「長男が三分の一、次男が四分の一、そして長女と次女は六分の一」と遺言があるが遺言通りにすることは可能か? というものだ。

「さっきの問題、わかったわ。十一だからダメなのね。初めに一を足せば問題ないわ」

「すごいな。俺は初見じゃわからなかったよ」

十一の四分の一と聞いた瞬間、不可能と答えそうになるが、ルトラの言う通り、最初に一を足せばいい。

十二頭として考えれば、長男4、次男3、長女と次女が2で合計11、遺言通りに十一頭の分配ができる。

答えを知っていれば簡単だが、なかなかその発想は出てこない。

「でも、安心したわ。何事もなくてゴールまでたどり着けそうで」

「そうだな」

安心したというのは、トラブルがなかったこと以上に、姉の疑いが晴れたからだろう。

俺の予想に反して、このダンジョンのゴールまで襲撃されることはなかった。

ルーナのキツネ耳がぴくぴくと動く。

「この先、魔物が二体いる。えっと、ゴリラとゴブリン」

ゴリラとゴブリン?

おかしい。そういう魔物は【試しの門】にはいないはず。

「ふふん、私にも見えたよ。近づきさえさせないからね!」

ティルが矢を放つ。

百メートル以上離れた二体の魔物の心臓を射抜く。

致命傷だ。

青い粒子になって消える。

……そう確信した瞬間だった。

急所を貫かれたゴリラとゴブリンがこちらに向かって走ってくる。

筋肉が膨れ上がり、肉が矢を押し出し、傷が塞がる。

それだけじゃない。魔力が爆発的に跳ね上がり、生意気にも気なんてものを纏い始める。

体が一回り大きくなり、色が変わり、表情が攻撃的に。

ティルが追撃の矢を放ち、フィルも援護する。

その矢を素手で受け止めた。

「うそっ!? なんで、あんな魔物が!?」

「この強さの矢を止めるなんて、……最上位ランクの魔物ですね」

ティルが急所を貫いたときには、たしかにこのダンジョンの相応の魔物、レベル30後半だった。

それがレベル50近くの魔物に成長……いや、進化した。

この現象には見覚えがある。始まりの街ルンブルクで戦った、キラーエイプと同種。

これを見た瞬間、いろいろと繋がってきた。

アウレ王女がルトラを篭絡したのは、アレクルト王子を倒すための手駒が欲しかったからだろう。

そんなルトラを始末しようとグリーンウッドで蟲に喰わせたのは、アレクルト王子を倒せる駒が手に入って不要になった。アレクルト王子を処理できるのなら、民の人気があるルトラは煩わしいだけだ。

その駒こそが進化する魔物。

ルトラが罠に嵌られた時期と、進化する魔物が出現した時期も符合する。

アレクルト王子は強い、だが進化する魔物はそれ以上だ。

それに、この魔物が現れたのには大きな意味がある。

……このダンジョンは王家の血を引くものがパーティに居なければ足を踏み入れられない。

少なくとも、進化する魔物を引き連れて王家の誰かがここに来たことになる。

アレクルト王子は外出中であり、そもそもルトラをダンジョンには入れないように妨害しており、彼はシロに見える。

逆に、ダンジョンに行かせようとしたアウレ王女の疑いは一気に強くなった。

ルトラは頭がいい。この状況を見れば、どれだけ心が拒否しようと理性が姉の疑惑を訴える。

「まずは、こいつらを片付けよう」

「ん。倒す」

「お姉ちゃんに教えてもらった三本撃ちを披露するチャンス!」

「ティル、強敵です。あまりふざけないように」

「……姉上、違うわよね」

この五人であれば勝てる。

強力な魔物とはいえ、たった二体だけで俺たちを始末できると考えた浅はかさを思い知らせてやろう。