軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話:おっさんは王都に行く

やっぱり、極楽鳥はうまかった。

あれほどの肉はなかなかない。

……あれを超えるとすれば、同じく名前付きの肉か、各肉のシリーズの中でも、(上)を越えた(特上)ぐらいだろう。

(特上)は、レベル40代後半の魔物、そのごく一部のみがレアドロップする。

俺も数回しか見たことがないぐらいに入手は困難。だが、ルーナがいる今なら狙えるかもしれない。

うまい肉をたくさん食べたせいか体調がいい。

いつもより肌に張りがある気がする。それも極楽鳥の効果だろう。

すでに、俺たちはテントを片付けて探索を始めていた。

「極楽鳥、さいこうだった! ルーナ、また食べたい!」

「うんうん、あれはくせになるね。……ふふふふ、今日のうちに狩り溜めしとかないとね。あれが今回きりなんていやだもん!」

「きゅいっ!」

ルーナとティルがやる気に燃えている。

これなら、今日の狩りの成果にも期待できるだろう。

「ルーナちゃん、ティル。極楽鳥は美味しいですが、実は名前有りのお肉は他にもあるんですよ。このレベル帯になるとたまに見かけます。極楽鳥に夢中になるんじゃなくて、他の美味しいお肉を探すのもいいかもしれませんよ」

フィルの言葉に、ルーナとティルが目を輝かす。

「ん。絶対食べる! 美味しい鳥を食べたから、次は美味しい豚とか牛がいい!」

「肉だけじゃなくて、すごい果物とかないかな? きっとあるよね!」

未知の食べ物に想像力を膨らませているようだ。

いくつか脳裏に名前が浮かぶ。

豚なら真珠豚、牛ならシルク牛あたりが固有ドロップとして有名だ。

果物も黄金マンゴーなんてものがある。

すべて絶品だと聞いている。

「いろいろあるぞ。肉も、果物も。どれも高額で取引されていて、一部の超金持ちだけが口にできる食材だ。自分で手に入れなきゃ口にはできないだろうな。これらを狙って旅をするのも面白いかもしれない」

「ルーナ、行きたい。楽しみ!」

「この弓でどんな獲物もしとめるよ!」

ラルズール王国での用事が済めば、ルーナの武器を作るために北にあるディルプスノーという街を目指すつもりだ。

あそこは、中級ダンジョンと上級ダンジョンがあり、たしか一種類、名前付きの肉を落とす魔物がいたはず。

……狩りが難しすぎるうえ、レアドロップ率も低い。

それ故に、その魔物の肉の味は耳にしたことがなく、そもそも特殊ドロップがあるということすらほとんど知られていない。

俺が知っているのはゲーム時代にアイテム一覧を見たからに過ぎない。

味はまったくの未知数だが、名前有りは大抵うまい。

ディルプスノーに着けば、狙ってみるのもいいだろう。

「さあ、お話はこれぐらいにしよう。他の冒険者もガケを越えてくるかもしれない。それまでに魔物を狩りつくすぞ!」

元気よくみんなが応える。

このボーナスステージの魔物を狩りつくせば、レベルが上がるはずだ。

頑張っていこう。

その後、ルーナの【気配感知】を駆使して徹底的に魔物を狩り続けた。

極楽鳥以外にもさまざまな魔物がいたが、今の俺たちにとって強敵と言える魔物はいなかった。

日が暮れるまで狩りを続けて、全員が一つレベルがあがっている。

【原初の炎を祭る神殿】での荒稼ぎと、極楽鳥の群れを倒したおかげだ。

本来、このレベルになると一つレベルを上げるだけで一か月かかったりすることもざらだ。

俺たちは非常に恵まれている。

そして……。

「大漁、大漁!」

「ふふん、これでしばらく極楽鳥祭りだよ!」

ルーナの【ドロップ率上昇】がある状態で、たくさん倒せばそれなりに肉は集まる。

魔法袋に収納しておけば腐ることもない。

これからしばらくの間、極楽鳥を楽しめそうだ。

「フィル、極楽鳥で一番うまいのは鍋だが、これだけの肉があるんだ。いろいろと試してみてくれ」

「はい、串焼きとか面白いかもしれませんね。串に刺してぐるぐる焚火で炙りながら塩を振るんです。歯ごたえがあって、肉汁が溢れる極楽鳥なら、すごく美味しくなると思います」

ティルのお腹がきゅーっとなった。

どうやら、調理法を聞いただけでお腹が減ってしまったらしい。

そんなティルが面白くて、みんなで笑う。

「そろそろ街に戻ろう。このジャングルを抜けた先に魔法の渦がある」

そして、固定で出現する宝箱もだ。

結局、俺たち以外の冒険者が崖を越えてくることはなかった。

どうやら、グランネルの冒険者たちは崖の向こうへの行き方を知っているものはいないようだ。

今まで、ギミックを解いたものはゼロではないだろうが、それを触れまわったりはしなかったらしい。

きっと、このうまい狩場を独占したかったのだろう。

このあたりの魔物は弱くて、向こうから攻撃してこない。

しかも、ドロップ品が高額で売れて経験値が高いというおまけつき。

ここを独り占めしたい気持ちはわかる。

……俺だって、この街を離れることになっても再配置の日だけはここに来たいと思ってしまうほどだ。

「ユーヤ、新しい魔物を見つけた! 今度のは大きい、たぶんサイ」

ルーナが警戒した声を上げる。

サイか、このダンジョンでは一番厄介な魔物だ。

気を引き締めていこう。

グランネルに来てからさらに数日が経ち、いよいよ出発の日になった。

残念ながら、あれからレベルが上がることはなかったが、いろんなクエストをこなして、ギルドポイントを溜めつつ、懐も温かくなっている。

滞在日数が限られているグランネルの魅力を味わい尽くすため、それなりに贅沢をしているが、それでも収支は大きなプラスだ。

そして、初日以外はダンジョン探索を軽めにしていた。

セレネの特訓に時間を費やしたかった。

最後の追い込みでセレネはまた一つ強くなっている。

三日後には継承の儀が始まる。

預けていたラプトルたちを受け取り、馬車につなぐ。

「さあ、馬車に乗ってくれ」

最後の思い出にと、両手におにぎりを持って頬張っていたルーナとティルが飛び乗り、そんな二人を微笑ましそうに見るセレネとフィルが後に続く。

「準備はいいか?」

「ん。大丈夫!」

「私もだよ」

「出発してもらって構わないわ」

「買い忘れもないですね。行きましょう」

俺は頷いてラプトルに鞭を入れる。

グランネルでの滞在期間は短かった。

だけど、実りのあるものになった。

……継承の儀までにできることはすべてやったと胸を張って言えるだろう。

日が暮れ始めたころ、なんとか王都にたどり着いた。

王都だけあって守りは厳重で、街を囲む外壁はひと際高い。

丈夫なだけでなく、魔法で強化されている。

さらに、壁の上ではつねに弓を携えた兵が見張りをしていた。

馬車から下りて、門番の元へ向かい王都に入る手続きをする。

「入場許可証を出してもらおう」

「これじゃ駄目か?」

銀級冒険者の証を差し出す。

「銀級冒険者か。すまない、いつもなら通せるのだが継承の儀の前でな。この期間は正規の入場許可証がいる。ない場合は、入場審査が必要になる。その受付は終わってしまった。明日の朝、出直してほしい」

門番に首を横に振られた。

失敗してしまった。

この時期に警備が厳重になることを計算に入れてなかった。

引き返そうとすると、セレネが馬車から下りてきた。

それと同時に、奥のほうから門番がもう一人やってくる。

かなり年配の方で、ここに来るまで走ってきたせいで息を切らしている。

「待て、その方は、あの【最弱最強の騎士】だぞ。かつて、我が国を救ってくださった英雄の一人にして、ルトラ姫の騎士であられるユーヤ様だ! 帰してはならん!」

この声聞き覚えがある。

思い出した。たしかこの人は……。

「ミルノか?」

「おおう、ユーヤ様が私の名前を覚えておられるなんて」

「一緒に戦った仲間だ。忘れるはずがないだろう?」

ラルズール王国を救うために受けたクエストでは、俺たち冒険者も死力を尽くしたが、ラルズール王国側の騎士や兵士も奮戦している。

彼もその一人だ。

「ありがたきお言葉。戦場でも凛々しかったですが、大会での戦いは伝説ですからな。とくに決勝での熱戦! そんなユーヤ様と共に戦ったことは、今でも私の自慢です」

彼の後ろでは、騒ぎを聞きつけた他の門番が集まってきており、『あの【最弱最強の騎士】!?』『英雄レナードの師匠で、剣技だけなら英雄を超える!?』

とか騒いでいて、逃げ出したくなる。

こういうのはひどく居心地が悪い。

「……それで、俺はここを通っていいのか」

「もちろんです! と言いたいところですが、その権限が私にはありません。上のものへ確認を取るのでしばしお待ちを。……ユーヤ様が、この王都に戻って来てくださって感無量です。それだけに残念です。誰よりもユーヤ様の帰還を待ち望んでいたルトラ姫様がいないなんて」

「ルトラ姫に何かあったのか?」

「ダンジョンに潜ったきり、お供の騎士と共に行方不明になりまして、捜索中ではありますが絶望的かと」

やっぱり、セレネは行方不明になっているようだ。

ただ、お供の騎士と共にというのが気になる。口封じのために消されたのかもしれない。

とりあえず、おとなしく上の判断とやらを待とう。

いつの間にか、隣に来ていたセレネが俺の袖を引く。

そして、俺だけに聞こえるように耳元で話をする。

「セレネはそれでいいのか?」

「ええ、どっちみち街に入ってからしかるべきところに連絡を取るつもりだったの。なら、この場で話したほうがスムーズに行くと思わない?」

たしかにセレネの言う通りだな。

ここでなら上に話も通りやすい。

セレネが俺の前に出る。

すると、何人かがざわつき始めた。

さすがに、王都ではセレネ……いやルトラ姫の顔を知っているものも多いらしい。

「まさか、このお方は」

「行方不明になったはずだ」

「それに、髪の色だって。ルトラ姫さまの髪は、ルノア様と……」

セレネが微笑む。

それは、普段は見せない姫としての顔。

柔らかく、美しく、包み込むような微笑。

セレネが、お姫様だということを改めて思い知らされる。

そして、セレネは微笑んだまま、俺が渡した【闇の祝福を受けた髪飾り】を外す。

それは闇属性の耐性を与えるマジックアイテム、その副次効果で髪を黒く染めてしまうもの。

その髪飾りを取れば美しい銀髪が露わになる。

黒髪でもセレネは美人だったが、やっぱり銀色のほうがよく似合う。

見とれてしまいそうだ。

「父様と兄たちに伝えて。自らの騎士と共にルトラが帰還したと。……そして、私も継承の儀に参加するわ」

セレネは、セレネの仮面を外しルトラ姫として名乗る。

門番たちの反応はさまざまだ。

セレネの無事を喜んで、涙を流しながら微笑むもの。

あまりの驚きに硬直するもの。

こくこくと何度もうなづいたあと、己の役目を果たすために走っていくもの。

賽は投げられた。

ある意味、継承の儀はもう始まっている。

これから、彼女に対する妨害が始まる。彼女が舞台に立てないように敵は動くだろう。

そのすべてから守ってやる。なにせ、今の俺は彼女の騎士だから。