軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話:おっさんは人形を手に入れる

ラルズール王国、その王都のおひざ元にあるグランネルにやってきた。

グリーンウッド以上に大きな街で、農業区と商業区がわかれている。

農業区は大規模で一面に畑が広がっている。

何より目を引いたのは水田だ。

米が実っており、収穫が始まっていた。立派な稲だ。見るだけで今年は当たり年だとわかる。

「いいタイミングに来たな。新米が食べられるぞ。とれたての米はそれだけで食べられるほど甘くてうまい」

この世界は流通も保存技術も未熟で、産地の食べ物以外は落ちる。

米は色んな場所で食べられるが、美味しい米にはなかなか出会えない。産地で収穫したての米を食べるのは最高の贅沢だ。

「お米も嫌いじゃないけど、ルーナはパンのほうが好き」

「私もそうかも、パサパサしてるし。変な匂いがするよ。スープと一緒に煮込むのは好きだけどね」

「それは本当の米を知らないからだ。食べてみればわかる」

本当の米を知れば二人とも認識を変えるだろう。

とはいえ、店選びは慎重にしないとだめだ。

ちゃんと、新米を出してくれる店を選ばないといけない。新米を仕入れる前に、古い米を使ってしまおうという店が大半だ。

「街に着けば、最初にギルドに顔を出すんだが……」

いつもならルーナたちと別行動をとり、ギルドに向かってパーティ登録を行う。

だが、そろそろルーナたちを一人前と認めていいだろう。

「みんな、今回は全員でギルドにいこうか」

「ん! 行く」

「ついにユーヤ兄さんが私たちを認めたね」

お子様二人組が真っ先に返事をした。なんだかんだ言って気にしていたようだ。

セレネを見るとどこかそわそわしていた。街で入ってからずっとこの調子だ。

「セレネ、安心しろ。髪の色が変わっていればおまえだと気付くものはいない。気付かれても他人で通せ」

「……わかっているけど、どうしても王都の近くだと緊張するわね」

その気持ちはわからなくはない。

王都ほどではないが、この街にはルトラ姫を知っているものも多い。

だが、セレネは銀色の髪を持って生まれてきたゆえにルノアの再来だと騒がれている。その有名的な特徴が目を引き、逆にほかの特徴は覚えられていない。

そして、ばれたときのこともちゃんと手は考えている。

心配しすぎる必要はない。

ギルドにやってきて、フレアガルドで用意してもらった紹介状を渡す。

すると、人気と実力がある受付嬢を割り当ててもらえるとかかりの者に言われた。

紹介されたギルド嬢の前に座る。人気があるというだけあって美人だ。

「初めまして、私はメリアと申します。すばらしい経歴ですね。直近一か月のクリア達成数、なにより質がすばらしい。たったレベル35で炎帝竜コロナドラゴンを倒し、レベル36で【原初の炎を祭る神殿】をクリアした超実力派パーティを担当できるなんて光栄です! 冒険のナビゲートはもちろん、グランネルの楽しみ方、快適な宿の手配まで、なんなりとお申しつけください!」

やけに明るい人だ。

まずは、グランネルでのパーティ登録を行う。

書類の手続きは正確かつ迅速、宿の手配などもすでに終わらせてくれているようで助かる。

パーティ登録を行っていると、受付嬢の顔が濁った。

「あの、ユーヤ様、申し訳ないのですがパーティ名を決めていただけないでしょうか? パーティ名が空欄でも処理はできますが、あなた方の実績を考えると、今後、指名クエストの斡旋などもあります。その際に、依頼主にパーティ名を言えないと格好がつかないんですよ」

「……まあ、それはそうだな」

ギルドの言う通りだ。名前というのは大事だ。

指名クエストの場合は、客に情報を伝えないといけない。

ギルドとしても冒険者ユーヤのパーティなんて言い方で客に紹介できないだろう。

それに、名前がなければ人々の記憶に残らない。難しいクエストを達成して名をあげる機会も失う。

「ユーヤ、ずっと後回しにしてきましたし、もうこの場で決めてしまいましょう」

フィルが背後から声をかけてくる。

すると、受付嬢が目を見開いた。

「もっ、もしかして、カリスマ受付嬢のフィル・エーテルランス様ですか!? 私、昔、フィル様が出ているパレードを見ました! それにギルド交流会でもお会いしています! フィル様はギルド嬢としても完璧ですが、冒険者としても英雄レナード様の元パーティの……ん? ユーヤ、ユーヤってまさか、英雄の師匠、最弱最強の騎士、無窮の極剣、あのユーヤ・グランヴォード様ですか!? フィル様と、ユーヤ様、うそっ、私、【銀竜の咆哮】のお二人に会えるなんて……ああ、生きていて良かった」

受付嬢のはしゃぎっぷりを見て、俺とフィルが引きつった笑みを浮かべる。

……まあ、いつかは俺たちを知っている奴らに会うとおもっていた。むしろ、今まで他人の空似だと思ってもらえたほうが不思議なぐらいだ。

「一応、別人だということにしておいてくれ。実際、ギルドの登録番号も違うだろう?」

ギルドに登録する際に番号登録がされる。

本来、ステータスカードごとに番号を与えるので偽装できずにもっとも信頼されている身分証明だが、レベルリセットでギルド情報がクリアされたことで、今は別人扱いになっている。

それも別人扱いされてた大きな原因の一つ。

おかげで、前の俺のギルド番号あてに届いている手紙やらを受け取れないデメリットも発生しているが、基本的には別人として動くメリットのほうが大きかった。

「複雑なご事情なんですね。わかりました。詮索も口外もしません、このメリアにお任せください。ユーヤ様とフィル様のことは胸の内に留めます」

ばれたのがいい子で良かった。

レベルリセットのことを聞かれると面倒だ。

ふと、後ろからぶつぶつと声が聞こえる。ルーナとティルだ。

「ユーヤの前のパーティ、【銀竜の咆哮】。かっこいい」

「ユーヤの二つ名もすごいよね。英雄の師匠、最弱最強の騎士、無窮の極剣、いいなぁ、私も二つ名が欲しいな」

拳をぎゅっと握りしめて、俺は動揺を必死に隠す。

やめてくれ、当時の俺はそれらをかっこいいと思った。今となっては、もっと地味な名前を付けていれば良かったと思っている。

二つ名のほうが、他人が呼び始めたものだが、それでも俺はそれをカッコいいと思い、得意げに名乗っていたこともある。

……黒歴史だ。

「まあ、その話は置いておこう。パーティの名前は前にも話題を出したが、誰か名案は浮かんだか? あればこの場で登録するし、なければ彼女の時間をとっても悪い、後日伝える形にしよう」

後回しにしすぎるのもあれだ。この場で決まらなければ、今晩のうちにみんなで話し合って決めてしまおう。

「【ユーヤと愉快な仲間たち】! ルーナが考えた名前!」

「……没だ。俺以外がおまけみたいじゃないか」

この発想ができること自体が驚きだ。

「私は【真竜騎士団】。竜ってかっこいいよね。騎士もかっこいいし、二つ合わせるとすごくかっこいいよ!」

「竜成分が、エルリク以外にないんだが。そもそも騎士成分はどこから来たんだ?」

それ以上に古傷を抉る名前なので勘弁願いたい。

「そんなこと言ったら、ユーヤ兄さんの昔のパーティ、【銀竜の咆哮】だって竜成分ないじゃん」

「キュイッ!」

エルリクまでなぜかティルを援護している。もしかしたら竜の名前がつくのを喜んでいるのかもしれない。

「前のパーティは、前のパーティ、今のパーティは今のパーティだ。とにかくダメだ」

一応、あっちには竜人の盗賊がいた。

そういえば、ライルは元気にやっているのだろうか? あの人のいい竜人と久しぶりに飲んでみたい。

あとは、大人な二人に期待だが……。

視線をフィルとセレネに送ると、まずフィルが口を開いた。

「えっと、私が考えたのは【混ぜ物ワイン】です。私とティルのようなエルフも、ルーナちゃんみたいなキツネ耳の獣人も、ユーヤみたいな人間も、セレネみたいな高貴な人も、一緒になって、でも調和がとれて力を引き出し合ってる。これってブレンドが素敵なワインみたいだなって」

「さすが、フィルだな。実に俺たちらしい名前だ」

いいかもしれない。名前の響きもいい。

「セレネはどうだ?」

「私が考えたのは、【夕暮れの家】。私にとって、このパーティは帰るべき家であり、居場所だから」

「ん。ルーナもその気持ちがわかる。ユーヤのいるここがルーナの居場所」

フィルとティルもうなづいた。

その目を見れば、二人とも納得したのがわかった。

「決まったようだな。みんな、【夕暮れの家】でいいな」

「ん。ばっちり」

「【真竜騎士団】は諦めるよ!」

「私もこれがいいと思います」

セレネが少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「……ありがとう。私の考えた名前が使われるのは嬉しいけど、照れるわね。そう言えば、ユーヤの考えた名前はまだ聞いていなかったわね。どんな名前を考えていたの?」

「【 弓狐剣盾(きゅうこけんじゅん) 】それぞれの得意なものを名前にしてみた」

「ユーヤ、それが良くて【銀竜の咆哮】を恥ずかしがる意味がわからない」

「そうだそうだ!」

「キュイッ、キュイッ!」

やはり、お子様にはわからない感性か。この二つはまったく違うのだ。

「あの、ユーヤ。ごめんなさい。私にもわからないです」

「同感ね。どちらも大差ないわ」

なん……だと……。

この二人までにそう言われるのは悲しい。

ちょっと、自分を見直そう。

その後は、【夕暮れの家】でパーティ登録を行い、ギルドの手配してくれた宿のチェックインを済ませ、荷物を整理して宿を出る。

ラプトル馬車は信用できるところに預け、世話を任せてある。

そして、俺たちは人形を取り扱う店にきた。

人形を作ってくれる店はいろいろあるが、ゲーム時代にもあった店を選んだ。

ルノア姫が数百年前の英雄だったことから、今がゲーム時代の数百年後だというのはわかっている。ゲーム時代のように特殊効果がある確証はない。

だが、どうせなら所持しているだけで効果があったアイテムを入手したい。ゲーム時代の店の技が受け継がれている可能性に賭けた。

「おっ、運がいいな。あまり並ばずに入れそうだ」

「並ぶの、ちょっとめんどう」

「前来たときはもっとすごかったぞ」

「ええ、思い出すね。あのときの私たちは余裕がなくて人形を買うなんて、検討すらしなかったですが」

フィルが昔のことを思い出して苦笑する。

あの頃は楽しむなんて発想はなかった。常に先へ先へだけを考えていたのだ。

「でも、ユーヤ兄さん。もう遅いしお腹空いちゃったよ。並んでたらお腹と背中がくっついちゃう」

「ルーナも!」

そう言うと思って準備はしてある。

「実はおにぎりを買ってきたんだ。ギルド嬢のおすすめの店だ。きっと美味しいぞ」

魔法の袋に入れていたおにぎりを配る。

見た目がシンプルに三角に握ったおにぎりだからか、ルーナとティルのテンションはあがらない。

「あんまり美味しそうじゃない」

「でも、お腹空いたし食べちゃおう」

ルーナとフィルがおにぎりにかぶりつく。

そして、目を見開いた。

「美味しい、ふっくら、全然ぱさぱさしてない! このお米は魔法のおこめ!」

「中の具も美味しいね。甘辛いお肉だね。お米とすっごく合うよ。ユーヤ兄さん、もう一つ!」

「それが、本当の米の美味しさだ」

俺は二人にお代わりを渡して、自分の分を口にする。

新米独特のいい香りと甘さが広がる。

中に入っているのは蜂蜜で煮込まれた豚の角煮だ。冷めていても柔らかく、脂がとろっととろけて米とまじりあう。

こんな美味しいおにぎりは初めてだ。

「ユーヤおじさま、びっくりするほど美味しいのね。王都の近くにこんな美味しいものがあるなんて知らなかったわ。私は、なんにも見えていなかった……旅ができて良かった」

「そんなしんみりしたことを言うのは最後のときだけでいいさ。今は楽しめ」

「ええ、そうするわね」

セレネが微笑む。

そうして、おにぎりを食べている間に俺たちの順番が来た。

意を決して、俺はみんなの人形と、そして俺の人形を四つ頼んだ。

二時間ほどたって店から出てくる。

疲れた……。

注文した瞬間、客と職人たちの視線が突き刺さった。

男の人形が四つ、女の子は一人一つだと、どう扱うかなんて誰にでもわかってしまう。

後ろから、ぼそっとハーレム野郎という声が聞こえたのは幻聴じゃないだろう。

四人ともすさまじい美少女だ。ルーナとティルは少し幼いがそれでも嫉妬、羨望の視線は突き刺さる。

職人たちにどういう関係かと聞かれて、弟子が二人と妹と恋人と答えて、少しは嫉妬の視線は減ったが、それでも精神を削られた。

「ユーヤ、お人形の交換!」

「はい、私のお人形だよ」

「ユーヤおじさまの人形、大事にさせてもらうわ」

「私だと思ってください」

四人からそれぞれの人形を受け取り、俺の人形を渡す。

美少女がモデルで、職人の腕がいいだけあって、どの人形も可愛い。うまく特徴を捉えてデフォルメされている。

ゲーム時代のように特殊効果がなくても、持っていたいぐらいだ。

さっそく、ルーナたちが俺の人形を可愛がっているが、その光景には照れくさいものがある。

「みんな、この人形には不思議な言い伝えがある。この人形を渡した相手への思いが本当なら、不幸なことがあったとき人形が身代わりになってくれる」

それはゲーム時代にも能力としてあった。

実はキャラクター同士には隠しステータスで親密度というのが設定され、一定値以上のキャラ同士で人形を交換すると、いくつかの不幸や不利益を身代わりとして受けて砕かれる。

非常に有用なアイテムだった。

ゲームと違って親密度なんてものを確認することはできない。

だけど、俺はみんなのことを想っているし、みんなもそうだと信じている。

きっと、この人形は俺たちを不幸から守ってくれるだろう。

「ん。ルーナはユーヤが好き。ユーヤもルーナが好き! だから人形、守ってくれる」

「私だって! でも、ユーヤ兄さんの人形が身代わりになるのはやだなぁ」

お子様二人組がそれぞれに声を上げ、セレネとフィルが微笑む。人形のおかげで、またパーティの絆が深まった。

用事も済んだし、宿に戻るとしようか。

ルーナとティルはまだ食べ足りないようなので、さっきの店でおにぎりを買って帰ろう。

「明日は、気合を入れていくぞ。なんたって再配置直後だからな」

ギルドでとてもいい話を聞いたのだ。

再配置は明日行われる。今日、たどり着けたのは運が良かった。

明日はレベル上げには最適な日、精一杯狩りに精を出すとしよう。