軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話:おっさんはフレアガルドを出る

無事、【聖火の灯】を手に入れて外にでることができた。

上級ダンジョンを突破できた経験は何ものにも代えがたいし、ダンジョンでしか手に入らない【無幻の粘土】が手に入れられたのも大きな収穫だ。

これがあれば、ルーナのために最高の装備を作ってやれる。

そして、高レベルになった際のレベルの上がりにくさを嫌というほど実感させられた。

今回のダンジョンでは魔物と嫌になるほど戦い続けたが、レベルがあがったのはフィルだけだ。

だが、中級ダンジョンで一か月分以上の経験値を稼げ、次のレベルまで大きく近づけている。

転移が終わると、ギルド内にある【原初の炎を祭る神殿】の入り口にまで戻ってきた。

入り口を見張っていたギルド職員が俺たちに待機するように告げ、人を呼んでくる。

一般職員ではなく幹部がたちがやってきた。

ひと際、身分が高そうな男が口を開く。

「答えてくれたまえ。いったい、どこまで踏破した? 最低限、地下四階までの露払いができていれば助かるのだが?」

第一声から失礼なことを言ってくれる。

予想通り、俺たちはあくまで本命が来るまでの露払いが目的で依頼されたようだ。

【原初の炎を祭る神殿】は魔物の数がとてつもなく多い。まともに進めばあっという間にリソースを使い切る。

俺とフィルが先導し、効率良く敵を倒し、【気配感知】もちのルーナに避けられる戦闘をすべて回避させ、もてる限りの消耗品を積み込んで、それでも全てのリソースを使い切ってしまった。

たとえ、普段から上級ダンジョンに挑んでいるパーティでも、単独でのクリアは非常に難しい。

「その質問に答えよう。最後までだ」

俺は魔法袋から、【聖火の灯】を取り出した。

「わずか二日でクリアしただと……」

「そこは逆だな。二日だからクリアできた」

二日に拘ったのは、時間がないからだけじゃない。

上級ダンジョンでの生活は極度のストレスがかかる。

事実、二日目の終わりには俺とフィル以外は動きが鈍くなっていた。ほんのわずかだが、そのほんのわずかで取り返しのつかないことになるのが上級ダンジョンだ。

ギルド員が言葉に詰まり、それからにこやかな表情を作った。

「ははは、すまない。君たちのことを見くびっていたようだ。心の底から謝罪しよう。では、向こうで報酬の受け渡ししよう、【帰還石】の返却も必要ない、それも報酬だ。本当にありがとう。君たちはこの街の救世主だ。さすがは、英雄レナードの推薦だけはある」

「なんだと? 詳しく教えてくれ」

今、とんでもない言葉が飛び出した。

レナードが俺たちを推薦した?

「聞いていないのか? 我々は英雄レナードに依頼をした。その際に、彼がこう言ったのだ。その街にいる君たちのパーティに依頼することが条件だと。もし、失敗すれば即座に駆けつけて依頼を受ける。そして、こうも言った。君たちならクリアするから自分の出番はないと……半信半疑だったが、本当にそのレベルでクリアしてしまうとは」

いったい何のために?

俺たちの力を知りたかったのか?

だが、それならいろいろと納得できる。パーティが五人で現れたことも、ギミックに対するアドバイスがなかったこと、レベルが低い俺たちに託したことも。

「そういう事情だったのか。失敗してもレナードが片づけると踏んでいたから【帰還石】を渡して依頼した。……向こうで報酬を受け取ろう。それに、頼んでいたラプトルの手配状況も知りたい」

あまり、面白くないが今更文句を言っても仕方ない。

得るものは多かったし、報酬金も非常に高い、実入りのいいクエストではあった。今は素直に報酬を受け取ろう。

……後で、ギルドにレナード宛ての手紙を渡しておこう。

ギルドのサービスの一つに、冒険者への連絡というものがある。

年中、移動をしている冒険者の足取りを掴むのは難しいが、ギルドでクエストを受ける際にパーティ登録するし、その情報をギルドは共有している。

それにより、ギルドは冒険者の所在を掴むことができる。

報酬をもらった後は買い物に行き、体力回復ポーションを始めとした消耗品の補充、ティルにダンジョン産の特殊効果付きの髪飾りを購入した。防御力はそれなりだが幻惑に対するレジストと集中力を上げる効果がある掘り出しものだ。

セレネの壊れた鎧は修理ではなく、新たなものを購入することにした。

素晴らしい出来の品物があったのだ。

伸縮性と耐熱性があり斬撃に強い魔物の皮で全身を被い、軽量かつ丈夫な魔法金属で急所を守る鎧。

これなら、長時間の活動もできるし防御力が高い。フレアガルドでなければこれほどの品は購入できないだろう。

今回の買い物で報酬をすべて使い切り、若干足りない分を貯金から出したが、たかが一回のクエストの報酬でこれほどの装備が買えるというのは異常だ。

買い物が終われば、温泉で疲れを流して、うまい飯をたらふく食べた。

「幸せ。温泉、美味しい物、ルーナはずっとここに住みたい」

「私もそう思うよ。もう、この世の楽園って感じだよ」

お子様二人組は、フレアガルドがいたく気に入ったようで苦笑する。

「たしかにフレアガルドは素晴らしい、だけど他の街に行けば温泉のような素敵なものに出会えるし、ここじゃ食えない新しいうまいものにも出会える。そういう素敵なものと次々に出会うのが旅のだいご味だ」

「楽しみ! ルーナ、いっぱい、素敵なものと出会う」

「やっぱり、エルフの村を出て良かったよ。エルフの村も素敵なものはあるけど、外の世界も素敵。あっ、そうだ。今度、エルフの村に来てよ。エルフの村のすごいところ紹介するよ」

「ティル、美味しい物もある? ルーナは美味しいものが気になる」

「ふふん、エルフの村じゃないと食べれないとっておきがあるんだ。エルフの村にきたら、たっぷりご馳走するよ。お姉ちゃんが」

どや顔で自慢していたティルがフィルに料理を押し付けた。

ルーナがフィルにくっついて、よだれを垂らしながら顔を見上げている。

「仕方ないですね。エルフの村に来たら、私がエルフ料理を振る舞います。楽しみにしてください。……ふう、ティルに料理も教えないと」

「いいよ。私は食べる専門で」

「お婿さんをもらったときに困りますよ」

「うーん、そういうのいいや。旅はまだまだ続くし、旅が終わったらユーヤ兄さんとお姉ちゃんのところに居候するから」

「ルーナも!」

ティルとルーナが居候か。にぎやかで楽しそうだ。

セレネがティルとルーナを見る目に、寂しさがあった。

「セレネ、今はまだ先のことを考えるのは早すぎる」

「そうね。でも、ずっとこんな日々が続いていけばって、どうしても思ってしまうの。……変かしら?」

「いいや、変じゃない。俺もそう思う」

今のパーティが楽しすぎる。

だけど、こんな時間もいつか必ず終わりがくる。

そのときに、後悔しない選択肢を選ばないといけない。

ギルドに向かう途中、つけられているのを感じた。

ルーナたちは気付いていない。追跡者は三人といったところか。気配に敏感なルーナに存在を悟らせないのはなかなか。

だが、俺やフィルを欺くほどではない。

フィルが目線を送ってくる。

「ユーヤ、帰ったらブラッシングして! ユーヤに尻尾、ブラッシングしてもらうと尻尾がふわふわになる!」

「じゃあ、私は膝枕!」

二人は追跡者に気付かずはしゃいでいる。

フィルが雑談をしながら、わずかな仕草でサインを送って来る。

フィルによると、狙いはルーナやティルらしい。

このまま、ギルドまで追跡者を気にしながら歩くのは面倒だ。隙を作ってやるか。

「こっちが、近道なんだ」

わざと人通りが少ないほうに足を踏み入れる。

さて、釣れたか?

その答えはすぐに来た。

気配が近づいてくる、そして急接近。

この呼吸は覚えがある……そうか、しっかり忠告したのに無駄だったようだ。

俺もまだまだ甘い。

ルーナの肩を抱き寄せ、振り向きもせずに懐の短剣を後ろに投げる。

悲鳴が聞こえた。

振り向くと、【紅蓮の猟犬】のボスがいた。彼の手には俺が投げた短剣が突き刺さり、彼が手にもっていた短剣が落ちた。

俺と目があった瞬間、彼は逃げようと腰を落とした。だが、遅すぎる。

俺は踏み込んで、抜刀しつつ剣を振り上げる。彼の右手がくるくると宙を舞った。

それを見た残り二人が逃げていく。

「……俺は忠告したはずだ。次に、俺の女に手を出したら殺すと。あれは脅しじゃない」

「ひいい、やめ、俺はただ、声をかけようと」

なくなった右腕を押えてボスが懇願する。

「ほう、おまえの声をかけるというのはナイフを逆手に持って背後から襲いかかることを言うのか。なら、おまえ流の挨拶をしてやろうか?」

「いや、死にたくな、助けてっ」

「俺は甘い男だ。だがな、二度目を与えるほど愚かじゃない」

そこまでが彼の限界だった。腰が抜けたまま逃げようとして……俺が突き立てた剣によって絶命した。

「みんな、大丈夫か?」

「ルーナは無事」

「私も大丈夫だよ。ユーヤ兄さん」

ルーナとティルは大丈夫と言っているものの、目の前で初めて人が死んだことでショックを受けている。

抱き寄せて頭を撫でる。

「ユーヤおじさま、この人は捕まったはずじゃ? それに、どうして襲ってきたのかしら。ユーヤおじさまに勝てないってことはわかっているはずなのに」

「お金をたくさん払えば仮釈放されることはあります。それに彼の考えていることもわかります」

深く息を吐く。

俺はベテランとして、たくさんの冒険者を導いてきた。

だからこそ、過ちを犯したとしても更生すると信じて、一度目だけは忠告だけで済ませることにしていた。

だけど、彼は何も変わらなかったどころか、より恨みを募らせる結果になった。

おそらく、保釈金を大量に払って外に出ることができた彼はメンツをつぶした俺に報復しようとした。

だが、先の戦いで正面から戦っても無駄だと考え、俺でなくルーナを狙った。

ルーナを人質に取れば勝てると踏んだ。

ルーナが一人のときに襲いたかったのだろうが、なかなか一人にならず、しびれを切らせて襲ってきた。

こちらが酒を飲んで気が緩んでいたのも、襲撃に踏み切った理由の一つだろう。

「ルーナ、ティル、二つ謝りたい。人が死ぬところを見せたこと。もう一つは俺がしっかり始末をつけなかったせいで危険な目に合わせてしまった」

「謝ることはない。ユーヤがルーナを守ってくれた」

「私たちだって冒険者だよ。こういうのもいずれ見ることになったと思うし、気にしないでよ」

二人の言葉は嬉しいが、不要な危険を冒したことに変わりはない。

「……ありがとう。とにかくギルドで借りている部屋に帰ろう。今日のことは俺から報告しておく。さあ、嫌なことがあったが今日はぐっすり眠って、明日の朝には出発だ」

意識して明るい声を出すと、みんなが相槌を打ってくれた。

一度はチャンスを与える方針、それを変えようとは思わない。これは俺の信念だ。

だけど、それはリスクが俺にだけあるときにしようと決めた。この子たちを不注意で無くせば、俺は自分で自分を許せない。

昨日のうちに、【紅蓮の猟犬】の件をギルドに報告し、正当防衛ということで返り討ちにした件はおとがめなしになった。

保釈金を払って出たという推測は間違いであり、実際は脱走だ。移送中に襲撃されたらしい。

逃げる際に、襲撃者と暴れて被害を出したらしく、即座に指名手配がかかり報奨金がかけられており、予想外の臨時収入を手に入れた。

このお金はルーナとティルを喜ばすために使おう。

この話には続きがあり、ボスと一緒に居た二人の容貌を伝えたところ、それが【紅蓮の猟犬】のメンバーだと判明し、彼らは捕まり、彼らの自白で移送中の襲撃に乗じた脱走も【紅蓮の猟犬】が組織ぐるみでやったことが暴かれ、【紅蓮の猟犬】というクラン自体が消滅した。

自業自得だ。

ギルドに街を出る報告をすると、サービスで次の街を快適に過ごすための手配を無料にしてくれた。ギルド嬢いわく、個人的な恩返しらしい。

馬車に荷物を積み込み、俺たちはフレアガルドを出発する。

「ユーヤ、ラプトル馬車、キャラバンよりずっと速い!」

「ユーヤ兄さん、すっごく風が気持ちいいよ」

ルーナとティルが窓から顔を出して目を細めている。

「ラプトル馬車なら次の街まであっという間だ。旅をしながら、次の街のことを教えていくぞ」

俺の言葉に二人が元気よく頷く。

次の街は、ラルズール王国の南に位置するグランネルの街。ラプトル馬車なら一日で王都に行ける距離にある。

ここで、継承の儀の直前までレベル上げをする。

レベル上げだけじゃなく、教えられる技術すべてをセレネに伝えようと思う。

残された時間、後悔をしないように過ごさないと。

セレネと笑って、別れられるように。