軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話:おっさんは最後の試練に挑む

次の日の朝になった。

魔法のテントはいい。

敵が出現しないとはいえ、ダンジョンの中では何が起こるかわからない。

魔物が近づけば警報がなり、数回だけでも確実に耐えられる魔法のテントほどありがたいものはない。

速やかに撤収をして、俺たちは先へ進む。

一時間もしないうちに、地下四階の迷路を抜けた。

そして、地下五階は地下墓地エリアだ。いくつかの大きな墓地を、トンネルで渡っていく。

今はトンネルの中を歩いており、壁に配置された松明によって照らされている。

「ユーヤ、ここ臭い。腐った匂いがする。早く出たい」

キツネ耳美少女であるルーナは鼻がいいため、こういう場所は苦手そうだ。

「このフロアはそう長くない。だが、罠は多いから気を付けろよ」

「ユーヤ、天井の赤い染み、事前に聞いてた罠の特徴」

忠告をした矢先に、とびっきり凶悪な罠に遭遇した。

そして、罠が発動してもいないのに、俺たちが入ってきたトンネルの入り口が閉じられ、後方の壁の隠し扉が開いてゾンビどもがぞろぞろと現れる。

グラン・グール。土属性のゾンビたちが押し寄せてくる。

攻撃力は低く、スピードも遅いが、とにかくタフでうっとおしい魔物だ。何より数が多い。

「ユーヤおじさま、あの数と戦うのは苦戦しそうね。逃げましょう」

「いや、罠の解除には時間がかかるし、あれが発動すれば全滅だ。諦めて戦うぞ」

このグラン・グールも含めて罠だ。

それにしても、いやらしいな。【気配感知】を持つルーナが直前まで気付かなかったということは、動き出す直前まではただの屍だったのだろう。

その屍が罠に近づいたことでスイッチが入り魔物と化した。

これとまともに戦うのも馬鹿らしい。

キュルルゥっと、エルリクが威嚇音を出して、【竜の加護】で強化してくれた。

「フィル、ティル、俺が合図するまで矢は使うな。グラン・グールは物理攻撃がほぼ効かない。効くようにするまで待て」

「わかったよ。ユーヤ兄さん」

「この数相手だと、私の【魔力付与:水】より、ユーヤに任せたほうが効率が良さそうですね」

グラン・グールの体はずんぐりしており、全身がぶよぶよだ。

そういう魔物の多くは物理耐性を持っている。

そして、グランという名前がついている魔物は土属性、ティルの雷魔法も効かない。

炎の範囲魔法で焼き払いたいが、それはないものねだりだ。

だからこそ、できることをする。

グラン・グールは鈍足で詠唱する時間が確保できる。

「【永久凍土】!」

威力をほぼゼロにし、詠唱時間を延ばすことで効果範囲と継続時間を高めた中級氷結魔術がグラン・グールに襲い掛かる。

初めからダメージを与えることなんて考えていない。

目的は、優秀な状態異常である氷結状態にすること。

グラン・グールが凍り付いていく。

「今だ!」

俺の声に反応して、フィルとティルが矢を射る。

ぶよぶよで衝撃を吸収する肉体による物理耐性を得ている魔物の体は、氷結状態になり、固まればその特性を失う。

フィルたちの攻撃で氷ごとグラン・グールが砕けていく。

こうなれば、後は一方的だ。

グラン・グールの群れを一匹を残し殲滅する。

そして、氷漬けのそいつを掴み、さきほど罠だと気付いた位置から可能な限り離れて、グラン・グールを投げた。

グラン・グールが罠のセンサーにひっかかり罠が発動。

広範囲に酸の雨が降り注ぐ。

あれは、生物がエリアに入ることで発動する罠だ。ルーナが気付いたようにこれが仕掛けられている場合、天井に赤い染みがある。

背後のグラン・グールの群れに驚いて、慌てて前に進めば酸の雨を喰らって大ダメージを受けていただろう。

罠に気付いていても、物理耐性が異常に高いグラン・グールの群れの突撃を支えきれずに後退すれば酸の雨の餌食になる。

実に上級ダンジョンらしい罠だ。

「凶悪な罠が多いと聞いていたし、酸の雨も教えてもらっていたけれど、実際に見てみると驚くわね」

「ですね。あんなの浴びたら、たとえ死ななくても最悪なことになります」

セレネとフィルは酸の雨で氷が溶けていくグラン・グールを見て、口に手を押し当てる。

「だが、気を付けていれば全部見抜ける。見抜けていても、魔物との連携で無理やり罠に嵌めようとする罠も多いが、それも正しく対応すれば切り抜けられる」

冒険者にとって知識と経験は何者にも代えられない財産だ。

強いだけの冒険者なんて、すぐにダンジョンの餌食になる。

知識さえあれば、大抵のことは防げるし、自分の力では太刀打ちできないとわかっていれば、そもそも危険に近づかない。

「休んでいる暇もないようだな。……増援だ」

酸の雨が止むと、今度は前方から二体のゾンビがやってきた。

ゾンビのくせに妙に動きが俊敏で手には刀を持っている。

「ゾンビのくせに、武器を使うなんて生意気だよ!」

ティルが、矢を射る。

剣豪ゾンビというふざけた名前の魔物だが、かなりの強敵だ。ステータスは並だがその名の通り、剣術に優れる。

ティルが放った矢を叩き斬り、こっちに向かって走ってくる。

「私の矢を落とすなんて、どんな化け物だよ!?」

「ティル、私が見本を見せます。以前、私は三本撃ちを曲芸のようなものと言ったのを覚えていますか」

「うん。でも、かっこいいから教えてもらってる」

「実はこういう相手には有効なんです」

そういうなり、フィルは三本同時に矢を番えて、放った。

剣豪ゾンビはその矢を叩き落すが、残り二本が急所である喉と心臓に突き刺さり、動きを止める。

その隙をフィルが見逃すはずもなく、次に放った矢で眉間を貫かれて絶命させる。

「このように、眉間、喉、心臓を同時に狙うとどれか一つは急所にあたります。そうして、動きを止めて会心の矢で仕留めるのが基本ですね」

「できないよ! 三本同時に放つだけでも大変なのに、なんで全部急所を狙えるのよ!?」

「努力だけです。大丈夫ですよ。ティルには才能がありますから。急所を狙わなくても、三本同時に放つだけでもとりあえずあたりはします。そこからやって見ましょう。さあ、二体目の剣豪ゾンビがこちらに向かっていますよ。練習の成果を見せてください」

ティルが涙目になりながらも、三本撃ちをやって見せる。

三本すべて命中するように放つが、どれも急所からはずれている。剣豪ゾンビは一本を切り払い、二本突き刺さるが狙いが甘く、フィルのように動きを止めるには至らない。

「キュイッ!」

エルリクがルーナの頭の上から飛び上がり、鳴き声とともに薄い青のブレスを放った。

【スタンブレス】。ダメージはないが一秒程度相手を行動不能にしてくれる。何より、耐性をもつ魔物がおらず、ボスであろうと動きを止められるのがいい。

使い魔なので、使うタイミングを指定できないが敵の大技や詠唱を潰してくれることもある便利なスキルだ。

「ありがと。エルリク! よし、もう一回撃つよ。こんどこそ急所に当てるからね」

ティルはそれから二回、三本撃ちを試したが急所にあたることはなく、剣豪ゾンビが倒れ青い粒子に変わっていく。

急所にあたらず悔しそうにしているが、三本放った矢をすべて命中させるだけでも十分すごい。

「ううう、やっぱりダメだった。でも、たくさん練習してお姉ちゃんに追いつくから!」

「ええ、楽しみにしています。そのためには訓練をきつめにするべきですね」

「えっ、今でも、かなりきついよ!?」

「まあ、やってみればなんとかなりますから」

フィルはかなりスパルタだ。そのおかげでティルの技量はみるみる上達している。

きっと、そう遠くないうちにティルはフィルに並ぶ弓使いになるだろう。

そして、とうとう地下七階までやってきた。

地下七階は広大で、すり鉢状になっていた。

すりばちの底にはマグマが煮えたぎり、中央には宙に浮く神殿があった。

そう、実のところ地下にあるこの神殿こそが本物の【原初の炎を祭る神殿】。地上にあったのはただの門にすぎない。

「ようやく、たどり着いたな。あの神殿に【聖火の灯】が祭られている」

「やった! ユーヤ、はやく【聖火の灯】をとって帰ろ」

「うんうん、もう無理ーって思ってたよ。ゴールが見えてほっとした」

手持ちの魔力回復ポーションはとうに尽きており、体力回復ポーションもない。

かつてないほどの連戦は、俺たちのありとあらゆるリソースを容赦なく奪った。

地下五階も地下六階もギミックや謎解きはあったが、そちらはさほど難しくなく、俺たちの消耗はそれが理由じゃない。

消耗しているのは……危険度の高い罠を警戒しながら、強敵との連戦ゆえだ。

上級ダンジョンに挑むというのはこういうことだ。

ただ、普通に前に進むだけでぼろぼろになっていく。

もし、もう一つ階層があれば撤退を選んでいただろう。手持ちのポーションが尽きたなか、探索を続けるのは危険すぎる。

宙に浮かぶ神殿まで、石の足場が等間隔に浮いていた。

当然、足を踏み外せば終わりだ。慎重に神殿に向かって歩いていく。

危なげなく、浮石の足場を渡り神殿にたどり着いた俺は扉に手をかける。

そして、扉を開けるのを躊躇した。

実は【原初の炎を祭る神殿】では、各階層それぞれが試練であり、冒険者を試していた。

例えば、地下四階の無限迷宮では冒険者の知恵を試し、地下五階では冒険者の勇気を試している。

地下七階の試練で試されるのは、本当の強さ。

これをクリアすれば、ようやく【聖火の灯】を手に入れられるし、地下七階で出会う魔物は短剣の最終装備と言われている短剣の材料をドロップする。

この試練は特殊だ、パーティによっては最凶最悪の試練となり、為すすべもなく全滅すらありえる。

……この試練では、俺たちはルーナたちを助けてやることはできない。

「ユーヤ、どうしたの?」

ルーナが俺の顔を見上げてくる。

「ユーヤ兄さん、もしかして最後の試練が怖いの? 安心してよ。私がついているからさ」

「むしろ、ユーヤおじさまは私たちを心配しているのだと思うわ。安心して、私たちはユーヤおじさまに鍛えてもらったの、こういう試練で負けるはずはないわ」

俺は小さく笑う。

心配しすぎた。こういう類の試練でルーナたちが失敗するはずもない。本当の強さを与えるために俺は彼女たちを鍛え、ルーナたちはしっかりと学んだ。

「だな、行くぞ!」

彼女たちを信じて、俺は扉を開く。

最後の試練、気合を入れて臨もう。