軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六話:おっさんは妹ができる

フレアガルド到着前にルーナたちが乗ったキャラバンに追いついてしまった。

街についてから合流しようと思っていたのだが、ティルがルーナを馬車の窓から投げるという荒業を行ったおかげで一足先にルーナとの合流を果たしている。

「ユーヤ、やっと会えた」

そのルーナはさきほどから俺にしがみ付いて嬉しそうにしている。

もふもふのキツネ尻尾をぶんぶんと振っており、尻尾が首筋にあたってラプトルがくすぐったそうにしている。

「馬車から飛び降りるなんて、危ないことはしちゃだめだ」

「だいじょうぶ。ユーヤなら絶対受け止めてくれる」

しょうがない子だ。

「ルーナちゃん、お久しぶりです」

「ん。フィル、久しぶり」

ルーナはわりと人見知りが激しいが、フィルとは何度か一緒に食事をしたこともあるし、何よりフィルは受付嬢で多数の冒険者を見ており新人の扱いがうまい。

すっかり、ルーナはフィルになついていた。

「そろそろ離してくれないか。ラプトルの操作に支障がでる」

「それならしかたない」

コアラのように張り付いていたルーナからようやく解放された。

ルーナは前を向き、俺にもたれかかって来る。

「旅の途中でトラブルはなかったか」

「ほんの少しだけ」

「そうか、安心した。その少しとやらを聞いてもいいか?」

「荒っぽい男の人たちに言い寄られた。だから、ルーナが追い払った。がんばった!」

「それはほんの少しとは言わない」

この子は、見た目は寡黙でおとなしい美少女だが、中身はかなり好奇心旺盛で活発だし手が早い。

手を出した冒険者たちには同情する。

ルーナたちはレベル30近くあり技量もある。しかも三人で連携がとれる。

並み大抵の相手では苦にしない。

「だいじょうぶ、ちゃんと言いつけ通り。相手のレベルを見てる。レベルが見えなければ、逃げて助けを呼んだ」

ルーナたちと別れる前、もし絡まれたときには、まず相手のレベルを確認するように言っていた。

レベルが見えない場合は、ルーナたちよりも相手のレベルが高い。

このレベル帯になると、レベルだけが高い張りぼての冒険者ということはほとんどいなくなる。そんな冒険者は生き残れない。

高レベルな時点で技量も鍛えられていると考えるべきだ。

だから、高レベルが相手なら即座に逃げに徹しつつ助けを呼ぶように言っていた。実力差があっても逃げるだけならなんとかなるし、キャラバンの護衛たちは乗客を守ってくれる。

「可愛いのも大変だな」

ルーナの頭を撫でる。

キツネ耳美少女のルーナ、可愛らしいエルフのティル、高貴さを感じさせる美人のセレネ。

みんな魅力的な少女であり、一緒にいると悪い気はしないが、厄介ごとも引き寄せてしまう。

「ルーナは大変。だからユーヤはルーナとずっと一緒にいて。ユーヤがいればだいじょうぶだから」

ルーナがよりいっそう強く体重をかけてくる。

この子は本当に甘えん坊だ。

だけど、悪くない。

できるだけ、傍にいてやろう。

フレアガルドにたどり着いた。

グリーンウッドでは木製の建物が多かったが、ここは煉瓦と石でできた建物ばかりだ。木が手に入りにくいのもあるし、火事対策だろう。

良質な鉱石を採掘できる鉱山とありとあらゆる金属を溶かす聖なる炎があるため、鍛冶師の工房がいくつも並び、武具を売る店がいくつも立ち並ぶ。

それだけじゃない、鉱山で働く者、鍛冶師、武具を目当てにくる客、それらを相手にするための店も数多くあり、にぎやかだ。

人が集まるところは、自然とありとあらゆる店が集まって来るのだ。

冒険者たちの姿も多い。

彼らの目的は、優秀な武具。そして、この街にあるダンジョンだ。

さっそく、ラプトルを馬小屋に預けてくる。

そして、三人で街の入り口に近い広場でティルたちが来るのを待つ。

「ユーヤ、お腹空いた。ティルたちが来たらご飯食べにいこっ」

「ああ、それがいいな。今から店を探すのもしんどいし宿で食事をとろう。ギルドを通じて手配した宿だ。きっとうまいぞ」

「楽しみ」

俺もかなり腹が減っていた。なにより、肉が食べたい。フィルとの二人の旅では、ウナギ肉ばっかり食べていた。保存食を買い込んで出発したが、さすがに生肉は補充しなかった。

「私も賛成です。ルーナちゃん、フレアガルドの料理は美味しいですけど、実は料理よりもお酒のほうが有名なんですよ」

「フィル、フレアガルドの酒を勧めるな。ルーナはワイン五杯でダウンするぐらいだ。あれはきつい」

「あっ、それなら止めたほうがいいですね」

ルーナが首をかしげている。

ドワーフは大酒飲みだ。彼らが多く住んでいるこの街で上質の酒が造られるのは自然の摂理だ。

しかし、ドワーフが好む酒というのはとてつもなく強い。

アルコール度数が80%というもはや劇薬。お子様には早いのだ。

「あっ、ユーヤ、ルーナ、お姉ちゃん! やっと見つけた」

ティルとセレネが駆け寄って来る。

彼女たちもついたようだ。

「可愛いティルちゃんとの感動の再会だよ!」

ティルが俺の胸に飛び込んでくる。

そして、フィルの顔を見てにやりと笑うとすぐ離れる。

「ユーヤは大変だね。お姉ちゃんみたいに嫉妬深い人を恋人にすると」

「なっ、ティルどういう意味ですか」

「言葉のとおりだよ。こんなスキンシップにもいちいち不機嫌そうにしてさー」

さすが姉妹だ。ティルがフィルをからかって遊んでいる。いろいろと経験豊富なフィルも、色恋沙汰は苦手なようで慌てている。

「久しぶりね。ユーヤおじさま。私も会いたかったわ」

「セレネ、俺がいない間もしっかり鍛えていただろうな」

「もちろんよ。夜の鍛錬では一本とって見せるわ」

セレネはさすがにルーナやティルのように飛び込んではこなかった。お子様二人組と比べて落ち着いている。

「フィル、ティル、いつまでもじゃれてないで宿にいくぞ」

「ちょっと待ってください。お仕置きの途中です」

「お姉ちゃん、ぎぶぎぶ、痛いって、あと、街中でこれって恥ずかしすぎるよぅ」

あっさり捕まったティルが脇に抱えられて、お尻を叩かれている。

「ティル、スカートとパンツを脱がさないことを感謝しなさい」

どうやら、これでも手加減しているようだ。

脱がしていたら洒落にならなかっただろう。

「もしかして、さっきルーナが抱き着いてきたときも嫉妬していたのか?」

なんとなく気になったことを聞いてみると、フィルは顔を逸らす。

エルフ耳が少し赤くなっている。

「……ほんのちょびっと、ほんの少しです! 別にどうこう言うつもりはないですからね! わかってますし」

フィルのこういう一面を見るのは初めてで驚いてしまう。ティルが隙を見て軽やかに逃げて俺の後ろに隠れた。

「みんな揃ったことですし、宿に行きましょう。パーティ加入前に自己紹介もしたいですし」

「そうだな。急ごう」

そうして、俺たちは五人でギルドに向かい、ギルドの仲介で予約をしていた宿に案内してもらった。

宿についた俺たちは荷物を借りた部屋に置いて、さっそく一階にある酒場兼食堂に来た。

適当におすすめ料理を見繕う。

フレアガルドでは牛料理が多く出回っている。牛の産地というわけではなく、ダンジョンに牛肉(並)をドロップする魔物が多いだけだ。

実は、適性レベルが高いだけあって牛肉(上)がレアドロップするが、そちらは高値が付くので庶民の口には出回らない。

手に入れたら売らずに、みんなで食べようと俺は決めている。

料理を待っている間に、手早くフィルが自己紹介を済ませる。

俺の恋人とアピールをして、『あっ、お姉ちゃん。セレネをけん制してる』とティルにからかわれていた。

そうこうしているうちに料理が届けられる。

「ユーヤ、ユーヤ、すっごい分厚いお肉!」

「ステーキは久しぶりだな」

牛肉は(並)でもかなりうまい。農作業で酷使された牛とはわけが違う。

ナイフでカットするが、あまり力を入れずとも切れていく柔らかさ。肉自体もいいし、下ごしらえがいいのだろう。

それを頬張ると、肉汁が口の中で溢れる。岩塩だけのシンプルな味付けだが、だからこそ肉のうまみが感じられる。

「うまいな」

「ええ、本当に美味しいです」

「これすごくいいね! 狩人の血が騒ぐよ。おかわり!」

「私も追加を頼むわ」

(並)でこれだけうまいのだ。(上)ならどれほど美味しいのだろうか? 是非とも食べてみたい。

ルーナの【ドロップ率上昇】があれば、レアドロップの牛肉(上)も手に入れることができるだろう。

ステーキの他にも、シチューや炒め物などが運ばれてくる。

それらを俺たちは思う存分堪能した。

ルーナとフィルのお子様二人組がお腹をぽんぽんと叩いていた。

「お腹、いっぱい。もう食べれない」

「だねー、私もお腹いっぱい」

食べ過ぎだ。

初めての牛肉にただでさえ高いテンションが一気にあがった。

「前から思っていたんだが、フィルとティルって声がすごく似ているよな」

「姉妹ですしね」

「それ、よく言われるんだよね」

「ユーヤって呼ばれると、フィルとティル、どちらから呼ばれているのか、たまに迷うよ」

二人の声は似ていて呼び名まで同じなのだ。

「日常生活ではいいが、戦闘中だとトラブルになりかねないわね」

セレネが真面目な顔で口を開く。

そう、俺もそれが言いたかった。

「じゃあさ、私はユーヤのことお兄ちゃんって呼ぶよ。お姉ちゃんと結婚するんでしょ?」

「ティル、そんな、いっ、いきなり結婚なんて、気が早すぎますよ」

否定し、首を振りつつもフィルは嬉しそうだ。ちらちらと俺の顔を見る。

「えっ、しないの。じゃあ、ヤリ捨てか……お姉ちゃん、可哀そう」

「なっ、なっ、なっ、何を」

ティルがまたフィルを玩具にし始めた。

きっと、今まで頭が上がらなかった分、遊べるうちに遊んでいるのだろう。

あるいは、大好きなお姉ちゃんを俺にとられた寂しさの裏返しかもしれない。

「そうだな。いずれ結婚するし俺のことは兄と呼んでくれ」

「りょーかい。ただ、お兄ちゃんだと妹力が弱いから、ユーヤ兄さんって呼ぶね。妹になったことだし、これから私のことをもっと甘やかして可愛がってね! あと、姉妹丼はNGだよ。そういう趣味はのーせんきゅー」

「……ティル、いったいおまえは俺のことを何だと思っているんだ?」

きっちり、ツッコミを入れておく。

フィルのほうは、疲れと恥ずかしさでぐったりしている。

こういう和気あいあいも悪くないが、そろそろ真面目な話をしよう。

五人での初めてのダンジョン探索、行先は決まっている。

「今日は荷物の整理と旅支度をして、明日は早速ダンジョンに出発する。出発するのは、【砂の運河】という、砂漠のダンジョンだ」

フレアガルドのダンジョンは鉱山、火山のほかに砂漠のダンジョンも存在する。

【砂の運河】は砂に覆われた砂漠の世界。

適性レベルは31とフレアガルドでは一番低いが、砂漠という地形のせいで難易度は高い。

「ユーヤ、砂漠って何?」

「すごく大きな砂場だな。見渡す限りずっと砂だ」

「動きにくいし、辛そう。狩りの効率もきっと悪い。それでも行く理由を教えて」

いい質問だ。

本来、砂漠のダンジョンなんて面倒なものは避ける。効率を考えれば他のダンジョンに行くほうがいい。

「砂漠の最奥に宝物がある。その宝物とすでにボスドロップで手に入れたアイテムを合わせるとパーティ上限を五人にする装備が手に入る」

だからこそ、砂漠に挑む。

問題はすでに宝が持ち出されている場合だが、幸いなことに再配置は今日の零時で、この世界特有の発見が難しい隠し部屋だ。

おそらくは大丈夫だろう。

「ん。なら、いかないと。しんどそうだけど初めての砂漠は楽しみ」

「ルーナが想像しているよりずっと辛いぞ。それと、今回の冒険にはもう一つ難易度を大きく引き上げる要素がある」

フィル以外が俺のほうを注視する。

ルーナたちには初体験となるだろう。

「【砂の運河】はおそろしく広大だ。一日では絶対に最奥までたどり着けない。初めての野営だ。泊りでの狩り、いつも以上に気を引き締めていけよ」

ダンジョンで夜を明かす。

それは極めて危険なことだし、疲れも日に日に蓄積する。

高位のダンジョンになれば一日で踏破できるもののほうが少なくなる。

ルーナたちは絶対に乗り越えないといけないハードルだ。

「がんばる!」

「エルフは森の狩人だよ。野営ぐらい朝飯前だね。舐めないでもらおうか!」

「緊張するわ。でも、いい修業になるはず」

全員、乗り気なのを見て安心する。

ばっちり準備して、【砂の運河】に挑もう。

今後のために魔法のテントなんて超便利アイテムは使わずに、野営の真の辛さを味わってもらいたい気持ちもあるが、砂漠というただでさえ辛い環境でそれをすると倒れかねない。

それは次の機会にするとしよう。

お子様二人組は、初めての野営と聞いて、キャンプ感覚で盛り上がっている。……いったい実体験したら、どんな反応をするだろうか。