軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話:おっさんは始まりの街を目指す

ダンジョンで拾った記憶喪失のキツネ耳美少女にルーナという名前を与えた。

本人はその名を気に入ってくれたようだ。

今は、俺のベッドでぐっすり寝ている。

知り合ったばかりの男と同じ部屋でぐっすり眠れるとは、なかなか図太い。

彼女は、普通の少女ではない。

レベルをカンストした冒険者しか立ち入れない、隠し部屋で水晶に封印されていた少女が普通であるわけがない

何かしらのイベントキャラだ。この世界には存在しないキツネ獣人というのも少女が特別な存在であることの証明だ。

……まあ、そんな理由は後付けだ。俺は、この子と一緒にいたいという自分の直感を信じる。

経験が長いほど、直感を無視できなくなるのだ。

買い置きしてあった保存食を食べて、外にでる。

大き目の馬車がやってきた。

「ユーヤの旦那、約束通りもっていっちまいやすぜ」

「おやっさん、任せた」

もともと今日、この村を出て田舎に戻る予定だった。

近くにある大きな街の商店の店主に、冒険者時代で貯め込んだものや、この街で手に入れた家具をまとめて売り払う。

俺の高ランクの魔法の袋でも運びきれない量なので、こうして引き取りに来てもらった。

……使う予定もなかったのに、冒険者として自分が愛用しているものだけは売らずに手元に置いていて良かった。未練に助けられたな。

なにせ、ダンジョンで得たマジックアイテムや装備は、金を払いさえすれば手に入るようなものではない。

そもそも市場に出回らないものが多いのだ。

「よし、これで終わりだ。見積りした品を全部預かったぜ」

「……おやっさん、悪い。この子用に一本だけ短剣を売るのを止めてもいいか?」

「別に構わねえよ。これだけ良質な品が仕入れられたんだし、多少のわがままは聞くぞ」

「助かる」

短剣を一つ返してもらう。

数十年冒険者を続けて手に入れた中で、二番目に優れた短剣だ。

名をバゼラート。

魔物の牙から彫り出された特別な逸品で攻撃力が高く頑丈だ。

ちなみに、一番いい短剣は、俺の手元にある。

剣が折れたときのために胸元に収納している。

魔法袋の中に予備の剣を入れているとはいえ、剣を取り出し鞘から引き抜くよりも、胸元の短剣を使ったほうが速いケースが多々ある。

そのわずかな違いが命を助けてくれる。

そして、短剣は戦闘以外にも何かと便利だ。

「ルーナ、受け取れ」

ルーナにバゼラートを差し出す。

「ユーヤ。こんな高そうな短剣、困る。ルーナにはお金がない」

彼女はバゼラートを素直に受け取れない。

顔にはほしいと書いてある。

「金はとらない。冒険者なら体で払え」

しっかりと、パーティメンバーとして働いてもらえればそれでいい。

「ん。わかった。……精一杯奉仕する。記憶がないけど、きっと初めて。経験がないぶんがんばる」

おやっさんが、目を見開いて俺を見る。

顔に、こんな小さな子に!? と書いてある。

「……勘違いするな。俺は子供に興味はない。冒険者として働けと言っている」

「ほっとした。この短剣でがんばる」

やっとルーナが短剣を受け取ってくれた。

鞘から引き抜いて、美しい刀身に目を輝かせる。

この子の体格だと、普通の剣はうまく扱えない。短剣を持たして正解だ。

この短剣は、レベル1のひよっこには過ぎた装備でもある。剣と比べて下がる分の攻撃力を補ってくれるだろう。

剣の扱い方も教えないとな。ステータスだけが強さじゃない。

「そういえば、おまえさんはまたガキを拾ったのか。相変わらず、お人よしが過ぎるな」

「……そういう性分なんだ」

おやっさんとの付き合いは長い。

彼は昔の俺のことを知っている。一時期、行き倒れていたエルフの少女、フィルを拾って共に行動をしていたことを言っているのだ。

今、ルーナに与えている服などもかつてフィルのためにそろえたもの。

そういえば、フィルは元気にしているだろうか……。

フィルもレナードと同じく最強を目指していたころのパーティで、俺が置き去りにしてしまった。

「お人よしもほどほどにしとけよ。サインをしてくれ」

おやっさんが引きとった商品のリストを書いた紙を渡してくる。

きっちりチェックしてからサインして、金を受け取った。

路銀には十分すぎるぐらいだ。

俺とルーナの二人なら、贅沢をしなければ十年や二十年ぐらいは軽く生きていける。

「じゃあ、そろそろ俺は街に戻るわ。元気にやれよ、ユーヤ」

「おやっさんこそ、元気に。……いや、そろそろ息子に任せて隠居したほうがいいんじゃないか?」

「バカいえ、俺はまだまだ現役だ。おまえと違ってな」

俺は苦笑する。

おやっさんには引退すると伝えてあった。

だけど、引退は止めだ。ここから俺は再スタートをする。

ラプトルで隣町に向かったあと、キャラバンに金を払って同行させてもらっている。

村をでるときに、ニキータに泣かれた。私もついていくとまで言ってくれたが、ルーナと違い彼女には家族と、帰る場所がある。そんな子を冒険者になんてするわけにはいかない。

説得を行って、ニキータも最後には納得してくれた。

馬車から窓の外を見る。村は影も形も見えない。

俺たちが目指しているのは冒険者にとって聖地と言われている街だ。

クラスを与えてくれる街。みんな、はじめはそこに向かう。

さすがに遠すぎて、魔物を避けながらラプトルで強行軍とはいかない。

ラプトルを乗せた分、高い料金を取られたが長年連れ添った相棒は手放せない。

「ユーヤ、暇」

「この二日、ずっとそればかりだな」

「だって、暇だから」

巨大キャラバンだけあって、護衛もいて安全は確保されているが、その分足は遅い。

子供なルーナにとっては、かなり退屈な旅だろう。

「なら、ちょうどいい。クラスについて説明しようか。俺たちの目的地……ルンブルクについたら、俺たちはクラスを得る」

「気になる、教えて」

眠そうにしていたルーナが急に元気になった。

現金なものだ。

「冒険者は魔物を倒すことでレベルを上げて強くなるが、クラスを持っていないとレベルが上がらない……そして、選んだクラスがその冒険者の道しるべになる。一度、決めたクラスは二度と変えられないから注意が必要だ」

クラスごとにまったく戦闘スタイルが違うし、求められるステータスも違う。

基本ステータスに対してクラス補正がかかり最終ステータスが決まることもあり、クラスは非常に重要な意味を持つ。

「大まかにわけて、前衛職と後衛職があるな。前衛は前に出て戦う、後衛は後ろから攻撃したり、援護したりだ」

「わかりやすい。ルーナは前に出て戦いたい。せっかくユーヤから短剣をもらった。これを使いたい」

俺もルーナは前衛に向いていると思う。

ゲームのときは、獣人はプレイヤーキャラにできなかった。

NPCで仲間にできるのだが、魔法系のステータスにマイナス補正がある代わりに物理系のステータスに上昇補正という特徴がある。

前衛のほうがその特徴を生かせるだろう。

「なら、前衛職を説明しよう。前提だけど前衛職はすべて魔法関係のパラメーターが低い。戦士は攻撃力と防御力が高いが素早さは低い。武闘家は攻撃力と素早さが高いが、ある程度長い武器や重い鎧を装備してもステータスが上がらない。盗賊は素早さが極端に高いが、戦闘力では、戦士、武闘家に劣る。その分探索系のスキルが使える」

ルーナが首を傾げ始めた。

そして、考え込む。必死に、戦士、武闘家、盗賊のどれにしようか考えているのだろうか。

「ユーヤ、他にはない?」

「前衛だと、あとは魔法戦士があるな。攻撃力が高いし魔法も使える」

「それ、一番強そう」

「……止めておいたほうがいい。地雷と言われている職業だ。なにせ、前衛職の癖に体力と防御力が低いし素早さもない。壁ができない。しかも、魔法は使えると言っても呪力が後衛職と比べれば圧倒的に劣り火力が足りない。補助魔法は使えるが、回復魔法は使えないからヒーラーもできない。なんでもできるけど、なんにもできない。中途半端な職業だ」

前衛の役割は後衛を守る壁だ。

なのに、魔法戦士はその役目を果たせない。かといって後ろに引きこもっても劣化魔法使いだ。

ぶっちゃけ、魔法戦士をクラスに選んでしまった時点で、どのパーティも引き取ってくれない。最低の不遇職。

「わかった。戦士と、武闘家、盗賊から選ぶ。悩む……ねえ、ユーヤはルーナにどうなってほしい? ルーナはユーヤと一緒。ユーヤの役に立ちたい」

四つん這いになって近づいて顔を覗き込んでくる。

俺の役に立ちたいか、可愛いことを言ってくれる。

俺の都合だけで言うなら……。

「盗賊だな。探索系のスキルを持っているメンバーが一人はいないと、探索で苦労する」

「わかった、じゃあ、ルンブルクについたらルーナは盗賊になる。たくさん、役立つ」

「そうしてくれると嬉しいが、ルーナは自分がなりたいクラスを選んでいいんだぞ」

ぶんぶんとルーナが首を振った。

「ユーヤの役に立てるのが一番うれしい」

いい子だ。

それに、この子に短剣を与えたのもちょうど良かったかもしれない。

なにせ、盗賊の適性装備は短剣だ。通常の剣では攻撃力が落ちる。

「ルーナ、窓を見てみろ」

窓をあけると、ルーナが顔を出してキツネ耳をぴくぴくとさせる。

「大きな街が見える。ユーヤがいた村よりずっとずっと立派、それにすごく頑丈な壁に覆われてる」

「やっと着いたようだ。あそこが、俺たちの目的地。冒険者たちの聖地にして、始まりの街ルンブルク」

ある意味、この国の中心にある街だ。

ほとんどの冒険者はあそこでクラスを得て冒険者になる。

……前世の記憶から得た、レベルアップ時のレベル上昇を最大値で固定する隠し部屋もあの街のダンジョンにある。やっと俺を苦しめてきた低ステータスの呪いから解放される。

やっと、長旅が終わると知ったルーナがキツネ尻尾をぶんぶんと振る。

目の前で動く尻尾をぎゅっと握りたくなるのを我慢する。

「ねえ、ユーヤはどのクラスになるの?」

俺は戦士だった。

前衛の基本職。パーティにも必須かつ、ソロでもある程度やれる。

だけど、今回は戦士を選ばない。

「魔法戦士だ」

「ルーナには、外れ職って言ったのに」

「嘘じゃない、前衛に出るには脆く、後ろに下がれば火力が足りない、回復役も務まらない……何もできない最弱職。だけどな、最弱が最強に変わる魔法を俺だけが使える」

ゲームのときも始めは誰もが外れ職だと断言した。

一部の補助魔法が多少使える程度の認識だった。

だけど、レベルリセットともう一つの隠し要素が発見された。

それはマジックカスタム。

それにより、魔法戦士はプレイヤーの技術さえあれば最強職という認識に変わった。

……とは言っても、普通の冒険者はパーティには入れてはくれない。魔法戦士な時点でお払い箱だ。

ルーナという共にいてくれる存在がいて良かった。

街にたどり着く。

さあ、ここから俺の新しい人生の始まりだ。