軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

プロローグ:おっさんはグリーンウッドを出る

グリーンウッドでもっとも難易度が高いダンジョンである嘆きの森。

その名所である嘆きの滝に隠された部屋で俺たちは死闘を繰り広げていた。

相手はボスモンスター、ミノタウロス。

戦うのは二度目だが、油断はできない。一つのミスが全滅に繋がる緊張感があった。

その戦いも終わりが近づいていた。俺たちは順調にミノタウロスの体力を削っている。

一度目のときよりもいいペースだ。

ルーナたちは成長しているのだ。

それはレベルだけの話じゃない。心も技も日々、成長している。

一度目の戦いでは、怯えて棒立ちになっていたセレネもしっかりと壁として自らの役割を果たしている。

そして、終わりの時がきた。

斧を使用したスキル、【タイラント・スラッシュ】をセレネに受け流され、バランスを崩したミノタウロスめがけてルーナが突進、速度を乗せた突きを放つ。

「【アサシンエッジ】!」

ルーナの叫びと共に甲高い音が鳴り響く。

全身の力を集約し、急所に叩き込むことで発生するクリティカルヒットが発動した証。

アサシンエッジはクリティカル時のみ、超倍率の補正がかかるスキルだ。

ゲームであればクリティカルは運が絡むが、この世界では技量さえあれば狙って出せる。

そのダメージがとどめとなった。

「オマエタチ、チカラ、ミセテモラッタ、ホウビヤル。ワレハ、【イリアラル】デモ、サイジャク、サラナルシレン、イドメ、シンノキョウフ、コレカラ」

ミノタウロスがお決まりの敗北のセリフを吐いてから青い粒子になっていく。

さりげなく言葉にしている【イリアラル】というのが実は伏線になっている。

カランコロンと音が鳴り、ミノタウロスが斧と鉱石をドロップする。

「さすがに、二回目はレアドロップはなかったか」

「角より斧のほうがすごそう」

今回の固有ドロップのほうは猛牛の斧。

優秀な装備ではあるが、普通に強いという範囲に収まる。金さえ出せば無理なく手に入る武器だ。

そして、斧というのがいただけない。

斧の使い手は俺たちのパーティにはいない。

溶かして素材にしよう。それなりにいい材質ではある。

「ボス共通ドロップのほうは、オリハルコン鉱石か。こっちはなかなかうれしいな」

魔法金属の中でもトップクラスの金属だ。

最上級武器にはほぼ必須アイテムなのに入手方法は限られる。

適正レベルが50近いダンジョンの宝箱で低確率で入手するか、極々一部の魔物のドロップを期待するしかない入手難易度が高いアイテムだ。

前回得た、【ミノタウロスの紅角】と合わせるとすさまじい武器が作れるだろう。

「さあ、奥の宝箱をもらって帰ろう。二度目でも疲れたな」

「ん。通路で山ほど戦ったあとのボス戦は辛い」

「うんうん。しんどいけど、これで最後だって思うと寂しくなるよね」

「ええ、ミノタウロスとの戦いはすごく勉強になるもの」

たしかに、これだけ重く速い一撃を見せる敵は少ない。

なおかつ直線的な攻撃ばかりなので、クルセイダーにとってはいい特訓になる。

ミノタウロスとの戦いを通じて、もっとも成長したのはセレネだ。

「今日は前回より早く終わったから、街に戻っていろいろできるぞ。明後日にはこの街を出る。身支度をしつつ、買いたいものがあるならしっかりと買っておくんだな」

「ルーナは、グリーンウッドの美味しいものを食べ溜めとく!」

「私はフルーツ大福、魔法袋にたっぷりとストックしとかなきゃ」

ルーナとティルは食い意地優先といった様子でセレネは、武器屋と防具屋を回るつもりみたいだ。

そうして俺たちはご褒美の宝箱を開けて街に戻った。宝箱の中身は即効性のMPポーション。

普通のMPポーションは自動回復量を引き上げる類のものだが、こいつは飲むと即座にMPが満ちるタイプ。非常に有用であり貴重だ。普通の手段では手に入らない。さすがはボスのご褒美。

魔力を一番使用するティルに渡しておく。

俺たちは二日後、グリーンウッドを出る。

約一か月だけの滞在だったが、グリーンウッドにはいろいろと思い入れができていた。

だが、強くなるためには次に行かなければならないのだ。

街に戻ると、いつものようにギルド嬢への報告を済ませた。

二日後に街を出ることを伝えれば本気で泣きつかれた。

俺たちのおかげでクエスト達成率が上がっていることもあって、ここをホームにしてほしいとのことだ。

ギルド嬢は、望むのであれば俺が前の村でやっていたように専属冒険者になってほしいと提案してきた。

魅力的な提案だが、首を振る。

俺たちに時間はない。俺は約束の日までにレナードより強くならないといけないし、セレネは継承の儀までに兄姉を超えないといけない。

泣き落としが通じないとわかり、恨みがましく睨んでくるギルド嬢を振りほどき宿に帰ると手紙が届いていた。

フィルからだ。

「フィルのほうも、ようやく出発の準備が出来たか」

フィルは受付嬢でいるよりも俺と一緒に旅をすることを選んでくれた。

とはいえ、ルンブルクのギルドはギルド長の裏切りにより大混乱であり、あの状況でフィルが抜ければ立ちいかなくなる。

一か月でギルドを立て直してから追いつくとフィルは宣言した。

先日、ギルドを抜けられそうだと手紙を送ってくれたが、その続報だ。

ギルドも落ち着き、自分の後任を他の街のギルドから派遣してもらったこともあり、昨日正式に退職したと書いてあった。

……実はフィルの同僚からグリーンウッドのギルドに俺当ての手紙が山ほど届いている。

内容はどれもフィルがギルドに残るように説得してくれというもの。

さすが、フィルだ。同僚にも頼りにされている。だが、引き留めには協力しない。

俺はフィルとの旅立ちを楽しみにしているし、フィルが大丈夫と判断して退職したのなら、本当にギルドは大丈夫なはずだ。

……どれだけ大変かはわからないが。

続きを読んでいく。

「……あとでルーナとティルにはおしおきだな」

俺がフィルに手紙を出すとき、ルーナとティルも手紙を書きたいと言っていたので好きにさせたのだがとんでもないことを書きやがった。

『ルーナちゃんやティルと子供を作るために頑張ってるってどういうことですか!? 会ったら話を聞かせてもらいますから!』

おそらく、ルーナとティルは使い魔の卵を温める作業のことを子づくりと表現したのだろう。

ルーナのほうは天然だろうが、ティルのほうはルーナの勘違いに便乗していたずらをしている。

フィルは俺がルーナやティルとそういうことをしていると信じていないだろうが、不安にはなっている。

しっかりとフォローしよう。

それからは取り留めのない日常生活のことを書いていた。

最後は早く会いたいという言葉で終わっている。

「俺もフィルに会いたいよ」

手紙をしまい、返事の手紙を書く。

四日後に迎えに行くこと、ルーナとティルの子づくりの真相、次にフレアガルドに行くこと。

書いたあとはすぐに、手紙屋に届ける。

速達の飛鳥便。これなら明日中に届くだろう。

翌日の狩りも順調だった。

星喰蟲の迷宮に潜り、なるべく遠回りのルートを使ってゴールを目指すことで多くの魔物を狩る。

再配置後にしっかりと星喰蟲たちは魔物たちを食べてダンジョンに魔物を補充してくれていたようだ。

おかげで、俺とセレネに比べてレベルが低かったルーナとティルも、なんとかレベル30に届いた。

これならフレアガルドでもうまくやれるだろう。

レベル30となり、さらに必要経験値が多くなった俺とセレネはレベル30のままだ。

宿に戻ってからは作戦会議を開く。

いつもより念入りに行う。なぜなら、俺たちのパーティが始まって以来の別行動だからだ。

「昨日も話したとおり、明日、ルーナ、ティル、セレネの三人はキャラバンでフレアガルドに向かってくれ。すでにチケットは取っている。そして俺はラプトルに乗り別行動だ。フィルを拾ってから二人でフレアガルドに向かう」

「ルーナはユーヤと一緒がいい」

ルーナが不機嫌そうに頬を膨らます。

ルーナの頭を撫でながら諭す。

「ラプトルは二人乗りが限度だ。それに明日のキャラバンを逃せば次のフレアガルド行きは一か月後だ。キャラバンの速度ならフレアガルドまで六日程度、ラプトルの足ならルンブルクでフィルを拾って、用事を済ませてからフレアガルドに向かっても八日程度で済む……。全員でルンブルクに行ってからフレアガルドに向かえばキャラバンの便をどう工夫しても二か月はかかる。二か月と八日、どっちがいいかはわかるだろ?」

グリーンウッドを経由するキャラバンは少ない。

フィルにグリーンウッドに来てもらうことも考えたが、それを待っていればフレアガルド行きの明後日の便を乗り過ごす。

「ルーナ、わがままは辞めなよ。八日ちょっとの辛抱じゃん」

「うー、ユーヤと八日も離れるのは寂しい」

ルーナがしがみついてくる。

この子は本当に甘えん坊だ。

「再会したら、思いっきり遊んでやるから我慢してくれ。お土産もちゃんと買ってやるから」

「……我慢する。ユーヤ、できるだけ急いで」

涙目で見上げてくる。

こんな顔を見せられると死ぬ気で頑張らないといけなくなる。

「セレネ、二人を頼むぞ」

「ええ、一番私が年上だし。しっかりと面倒を見るわ」

最近はだいぶましになってきたが、セレネも世間知らずなところがあるので少し不安ではある。

だが、ある程度は彼女たちを信用していいだろう。

「街に着けば、ギルドに行き受付嬢のサクナを頼れ。宿の手配をはじめとしていろいろと面倒を見てくれる。俺が追いつくまではダンジョンには行くなよ。レベル30以降のダンジョンは初見殺しの罠と魔物が多い。中堅になって調子乗った冒険者たちが次々に命を落とすんだ」

次の街のナビゲートの依頼をグリーンウッドのギルド経由で頼んである。

割高になるが、ギルドのナビゲートサービスを頼めば間違いはない。

「ん。約束する」

「あはは、ユーヤ抜きでダンジョンなんて行くわけないじゃん。ユーヤがいない間にすっごく強くなって驚かそうなんて考えてないよ」

ティルが冗談を言う。

そのティルの肩をがっしり掴んでまっすぐに目を見つめる。

「本当に止めてくれ。死ぬというのは冗談じゃない。適正レベル30を超えるとダンジョンの難易度が跳ね上がる。おまえたちを失いたくない。いいか、高レベルの冒険者が少ない理由はいたってシンプルだ。三十から先へ行こうとする冒険者のほとんどが死ぬからだ……俺抜きだと、おまえたちもそうなる」

「わっ、わかったよ。そんな顔しないで、約束するから」

ティルが顔を真っ赤にしてそらす。

わかってもらえて良かった。

ルーナ、ティル、セレネは優秀だ。それでもちょっとした見落としで罠にかかったり、魔物の性質を知らずに不意を突かれて死んでしまうのが、高レベル帯のダンジョンだ。

「俺は夜が明けると共に出発する。それまでに話しておきたいことがあれば、きちんと話してくれ」

全員がこくりと頷き、とりとめのない話が始まった。

しばらくするとルーナが手をあげた。

「どうした」

「ユーヤにお願い、明日から八日甘えられない分、甘えさせて。ユーヤと一緒に寝たい」

卵を温めるとき以外は断り続けていたお願いだ。

断りたいのだが、ルーナが涙目でうるうるしているし、キツネ耳はぺたんと倒れてしょげている。

さすがに可哀そうで断れない。

「……わかった特別だ」

「ルーナはユーヤが大好き」

ルーナがキツネ尻尾を揺らしながら飛びついてくる。

「さすがユーヤ、心が広いね。じゃあ、今日は私たちのベッドで一緒だね」

「ちょっと待て。なんでそうなる」

「だって、私もユーヤに甘えたいし、ソファで寝ると肩がこるもん。ユーヤ、もしかして私をベッドから追い出すつもり? そうじゃなかったら、ルーナをソファで眠らせるつもりなんだ。ひっどいな」

逃げ場がなくなった。

相変わらず、悪知恵が働く。

セレネが羨ましそうな顔で見ている。だが、何も言い出さない。恥ずかしいのだろう。

可哀そうだが、助け船は出せない。

お子様二人組はともかく、セレネと一緒に眠るのはいろいろと問題がある。

「ユーヤ、早く寝よ」

「ふっ、ふっ、ふっ、私たちをたっぷり可愛がってね」

お子様二人組に手を引かれてベッドに連れ込まれた。

ルーナとティルが俺を挟むようにして抱き着いてくる。

……いろいろと辛い。二人の顔を見ると安心しきった顔だった。

いろいろと煩悩が消えた。これが父性という奴だろう。

まったく、仕方ない子たちだ。

俺も寝よう。無我の境地に至ればきっとこの状況でも熟睡できるはずだ。

夜が明けると同時に俺は外に出ていた。

「ユーヤ、できるだけはやく追い着いて!」

「なんなら、私たちを追い抜いてもいいからね」

「フレアガルドで待っているわ!」

二本足の爬虫類型の魔物、ラプトルに跨っている。今からルンブルクにフィルを迎えに行くのだ。

ラプトルは久しぶりに思う存分走れることが嬉しいのか、喉を鳴らしている。

「ああ、限界まで急いでフィルと一緒にフレアガルドに行く」

みんなには言っていないが、ルンブルクでフィルにはすべての秘密を話す。

レベルリセットについてもだ。

そして、フィルにもレベルリセットをしてもらい、ルンブルクで職業を手に入れてもらってからフレアガルドに向かう。

レベル50のフィルは今のままでも非常に頼りになるだろうが、先のことを考えるとレベルリセットをしてもらったほうがいい。

【試練】の塔をクリアするなら、ただのレベル50では足りない。

ラプトルの手綱を引いて出発した。

「やっと、一緒に冒険できるな」

ずっと夢見ていたフィルとの冒険がいよいよ現実になる。

ルーナたちとのしばしの別れは悲しい。だが、フィルとの再会はすごく楽しみだった。